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Reverse~scene16~
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「今日、晩御飯ハンバーグだからね」
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「ん…」
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「壱馬くん?体調悪い?」
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「イヤ…大丈夫。 おなかすいた」
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「ん、 すぐ作るね」
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玉ねぎを刻んでると、ふっと静かに隣に寄ってきて。
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いつもは「うわっ、玉ねぎやん。めっちゃ細かくしてや?」ってしつこいのに。
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「何?見張りに来たの? 細かくしてるから、大丈夫。壱馬くんでも、食べれる食べれる(笑)」
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「…俺、好き嫌いとかないから」
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「えっ?」
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すっと腰に回された手。
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「紗良、腹減った…。 はよして」
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「カズマ…?」
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「ちゃんと呼べるやん」 耳元で囁かれる声。
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「ほら、手止まっとる。俺、やるわ。 もう腹減りすぎて限界やねん」
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「えっ…」
まな板の上の玉ねぎをボールに入れるとハンバーグをこねだした。
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冷蔵庫から、お味噌とマヨネーズを取り出して。
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「これ入れたら旨いんやろ?」
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「何でそれ知って…」
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それは、私がハンバーグを作る時の隠し味。
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パパっと成形するとフライパンの上へと乗せた。
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「ずっと見てたから…紗良が作る料理は大体わかる」
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「見てた?」
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「ずっと光の当たらんとこから、俺は、紗良を見てた。あいつと同じ時間、お前を知っと
る」
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ジューって焼ける音を聞きながら 、
『おまえを知っとる』 その言葉が何度も繰り返された。
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「焼けたで、皿ちょうだい」
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「あっ、ん」
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乗せられたハンバーグをダイニングの上に置くと「いただきます」って手を合わせて先に
食べ始めた。
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「ふっ(笑)」
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えっ…笑った?
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初めて見た。その顔は壱馬くんにそっくりで…。いや、壱馬くんにしか見えなくて。
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「こんな味なんやな…」
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「っ、おいしくない?」
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「やっ、んまい…あったかいな、…ん」
それだけ言うと、黙々と食べるだけで。
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「ごちそうさま」
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「あっ、ん」
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食器をキッチンに持ってくと、そのまま黙ってお皿を洗い始めて。
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「いいよっ、私、片付けっ」
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キッチンの電気をつけようとして、スイッチに手をかざしたとこで制された右手。
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「もうちょいっ··· 待って」
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「えっ?」
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「まだ代わりたくない、アイツと。
最近な、自由に入れ替われなくなってきとってな、俺。
やっぱり光の中はアカンみたいでな」
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ダイニングから漏れる灯りでただ黙々と食器を洗ってて。 その横顔をぼんやり見てた。
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「暗い方が慣れとるんや」
そう呟くと、私と合わせた視線。
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「そんな 『可哀想やな、コイツ』みたいな目で見るなや」
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「えっ、…ちがう。 そんなっ」
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「俺は、気楽なもんや。 施設出やからってバカにされても、それでも勉強がんばっ て、ちゃんと結果を手にして、 紗良と出逢って。
ちゃんとあいつは光の中を歩いてる。俺にはできん」
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「…壱馬くんのこと?」
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「妬んでるわけでもない、羨ましいとも今まで思ってこんかった。 俺とアイツは違うってずっとそう思ってたから。
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でも…お前と出逢ってな、 初めて思った。 こっち側に行ってみたいって。
何でなんかは…わからん。その感情は俺にはないんかもな。
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…触れてみたいってそう思った。
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初めて、アイツを…。
お前の隣で笑うアイツを羨ましいってそう思った。
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信じてもらえんやろけど、お前を泣かせたい訳でも、傷つけたい訳でもない」
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…私、知ってるよ?
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私の頬に触れる時だけは、いつも少し震えてたから。
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…next
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