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Reverse~scene12~
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「おはよ、 紗良さん。 何?何で起こしてくれんの?」
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「だって、気持ちよさそうだったから。壱馬くんの寝顔好きだもん」
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「何よそれ(笑)」
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日曜の朝。
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朝って呼べる時間ではない位、お日様がもう高くなりかけてて 。
夜更かしした土曜日の次の日は、こうやって2人でゆっくり眠って…。
目を覚ましたら、 大好きな彼がすぐそこにいて。
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微睡みながら、抱きしめられると『幸せ』 ってそう感じる。
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壱馬くんが直接話しをしてから、彼は現れなくなって…。 ほっとしてた。
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色々あったけど、でもこうやってまた日常を取り戻していければいいって。
また元通りに戻れるって。
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「おなかすいたね。 朝ごはん何にしよっかな…」
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「俺、コーヒーだけでええよ」
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「えー、ホットケーキ作ろうと思ったのに」
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「(笑)朝から、あまいもん」
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「サラダも作るよ?」
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「そういう事やないんやけどな (笑) じゃあ俺もちょっと食べよかな」
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「ん、そうしよっ」
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先に寝室を出てキッチンへと向かう。
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ホットケーキの粉と卵、牛乳。 サラダは、 トマトとレタスと…りんごもあったはず。
ボールに材料を入れて混ぜてたら、カチャッて寝室のドアが開く音がして。
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「壱馬くん、コーヒー先に淹れてるよ。 テーブルの上ね」
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そう声をかけたのに、返事がなくて。
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「えっ?」って思うのと同時に右側に感じる人影。
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目が合うと、背筋が凍るような感覚に襲われた。
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「声聞かんでも、区別つくようになったんやな」
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ゆっくり近づいてくる彼に、足が動かなくて。
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「…来ないで」
そう言うのが精一杯だった。
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怖くて…体の震えが止まらなかった。
彼に体に触れられた感覚がいまでも…。
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一歩ずつ、ゆっくり近づいてくるのに、逃げられない。
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咄嗟に握ったまな板の上に置いてあった果物ナイフ。
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「おいおい、そんな危ないもんどうすんや? 俺、刺し殺してしまおうかって?」
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全然焦るそぶりもなくて。
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「違う!!」
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握ったナイフ、刃先を向けたのは自分の首元。
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「……っ、 紗良」
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「あなたを殺したら、壱馬くんも死んじゃうから…。それなら私がっ。 あなたに触られる位ならっ」
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手はがたがた震えて、涙も止まんない。
でも、もうこれしか。
首元に触れる金属の痛い位の冷たさ。
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「そんなイヤか、俺の事。 …あいつがええんか」
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目の前まで来ると、私に伸ばした右手。
『もうダメっ』、そう思って目をギュって瞑った。
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震えてた手が大きなその手に包まれて、その感覚に目を開くと、彼の左手が刃先を握って
た…。
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ツーって彼の掌から私を手首をたどって真っ赤であったかい血が降りてきて、ポタポタ床 に落ちていく。
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私の手から、ゆっくりナイフを引き抜いてシンクに置くと、血が流れる左手が私の首元に
触れた。
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「紗良…ここ、血出とる。…はよ手当せな」
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そんな私の事なんて…。
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「私はいいから!…手、 手がっ!」
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蛇口をめいいっぱい開けて、彼の左手首を握って水にかざす。
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流しても流しても血が止まらなくて、怖くて、どうしよ…って。
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「大丈夫や、そのうち止まる。こんなんで死んだりせんから、あいつ」
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「壱馬くんじゃない! 今はっ… 今はそうじゃない!」
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今は…私の目の前にいるあなたの事が…。
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…next
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