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Reverse~scene10~
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「っん…壱馬くん?」
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彼女が目を覚ましたのはそこから2時間後。
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「紗良さん?大丈夫っ?」
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「ん。…お水、ちょうだい」
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「あっ、ん。待っといて」
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ミネラルウォーターをコクコクって飲むと、「ありがと」って小さく微笑んで。
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彼女の隣に座って、握ろうとした右手。
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 咄嗟に逃げるように引っ込められた。
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「あっ、ごめん」
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「いやっ、違うっ。ごめんっ、壱馬くん。そうじゃなくてっ…そうじゃないの…」
. 『違う…違うの』って首を振ってるだけで。
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「俺、いてない方がいい?」 
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「ごめんね、ちょっと落ち着くまで一人にして?」
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「ん…」
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寝室のドアを閉める瞬間、 視界の隅の彼女は膝を抱えて、泣いてた。
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ほんの何時間前は 「嬉しい」 って流してた涙…。 何でこんな事…。
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手を握る事も、抱きしめる事もできなくて。
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そんな風に泣かせてるのは、俺。 
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たとえ、人格が違うとはいえ、俺自身である事に間違いはなくて。
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閉めた寝室のドアに背中を預けると、そのままずるずる落ちてった。
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「めっちゃ好きやのに…」
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その「好き」 が彼女を苦しめるって思ったら、それを伝える事すら躊躇った。
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「何かないんですか?何でもします!だからっ。 もうこのままだと、彼女が…」
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結局自分で解決方法なんて見つかるわけなくて、 先生に頼るしか。
 別れたらいい。それで全てが終われる気もしなくて。
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「お話ししてみますか?」
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「えっ?」
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「川村さんの中にいる、もう一人の人格と」
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「…できるんですか?」
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「おそらく可能です…。 でもそれは、あなたの失ってる記憶を思いだす事になるかもしれ
ない。
もう一人の彼は、その部分を知ってると思われます…辛い記憶だと思います」
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「それでもいいです、話します! そいつと。お願いします、先生」
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 「わかりました」
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先生に案内された部屋は、真っ暗な空間。 真ん中に置かれた椅子に促されて座った。
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俺じゃない人格の時、俺は真っ暗な部屋の中にいて。
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 怖くて目を瞑るしかできなくて。 
 そのまま眠ってしまうのが毎回なパターン。 
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 暗い以外は、どこかが痛いとかでもなくて。 目を覚ますと、その時はもう元の場所に戻ってる。
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聞きたい事はいっぱいある。
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もし、そいつと…、『カズマ』と話しができれば、今の状況は変わるんかもしれん。
辛い記憶…それへの恐怖よりも、今を変えたくて。 
そいつなら変えられるんじゃって。
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そして、「紗良さんには近づくな」 それだけは何があっても約束させたかった。
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「目を閉じて下さい…。 はい、そうです。
ゆっくり目をあけて」
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そう言われて目を開けると、 急に部屋の電気が点いて。 その眩しさにギュって目を瞑った。
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「何や… 俺に何か用か?」
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その声… 俺…?
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霞んでた視界がハッキリしてくる。
俺の目の前には、俺がいて。
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「お前…『 カズマ』?」
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…next
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