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Reverse ~scene7~
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「紗良さん、あんな?」
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『病院行ってきたから、話ししたい』
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そう連絡をもらって、向かった壱馬くんの部屋。
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「はい、コーヒー」
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「ん、ありがとう」
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私の前にカップを置くと、隣に座ってふーっって大きく息を吐いた。
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「今日、病院行ってきた」
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「ん…」
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「解離性同一性障害…なんやって、 俺」
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「かいりせい···?」
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「二重人格…、こう言うたらわかる?」
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『二重人格』
その意味がわからないわけじゃない。
でも、うまく理解できなくて。
そんなドラマの中みたいな話し…。
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何から言って、何を聞けばいいのか、わからなかった。
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「俺の中に、もう一人俺がおるんやって。 紗良さん…そいつわかるんやろ?」
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嘘はつけない。
「わからない」 なんてそんなの言えない。
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「ん…」
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「どんなヤツ?紗良さんにひどい事したん?」
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何をされたか…それも言えなかった。
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「カズマってそう言ってた」
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「名前も同じか、何やそれ…。 俺の中にもう一人 『壱馬』 がおるって事か。
普通、別人格なら、名前も年齢も違うって先生言うてたのにな…。 同じ名前とか、ほんま何なん…」
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「全然違うっ! 壱馬君とあの人は違う!」
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そう、全然違う。
繋いだ手があったかくて。
私に向けてくれる笑顔が優しくて。
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あの人と、壱馬くんは…、たとえ同じ名前でも、見た目が同じだって…違うから。
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「紗良さん? ... 別れよ?」
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「…っ」
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俯いたままだった彼がようやく上げた顔。
私にくれたその視線は、震えてた。
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「何かあってからでは遅いから。
俺は、そいつから紗良さんを守ってはやれんのんよ。
側におるのに…目の前におるのにっ、俺は助けてやれんから。
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そいつは、 ···俺やから。
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そいつが紗良さんの前におる時に俺は何もしてやれん」
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そう言うと、壱馬くんの掌にポタポタ涙が落ちて。
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「ごめん、ほんまごめんな」
って、また俯いて何度もそう謝った。
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「イヤっ、別れない…」
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「えっ?」
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「はい、そうですか、 ってそんな風に別れらんない」
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「紗良さん?」
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「薬とか…治療とか、そういうのない?もう諦めるしかないの?」
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「いやっ、俺もまだよくわからんっていうか…」
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「よくわからないのに、一番に私に別れようってそう言うの?何で?」
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「やっ、だって… 紗良さんに何かあったら俺っ、そんなん」
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「 ... 一緒に」
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「…ん?」
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「一緒に… それでも一緒にいたいって言ったら、壱馬くんは迷惑??私が側にいたら、心
配事が増えてっ!…んっ」
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今まで感じた事ない位の力で抱きしめられた体。
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「んなわけないっ!一緒にいたくないわけないやん!ほんまはめっちゃ怖い、そばにおって欲しい。 でも…でもっ」
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怖くないわけなんてなくて。
『 自分の中にもう一人誰かがいる』なんてそんな事。
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私だって怖くないわけじゃない。
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あの冷たい瞳…瞬きすらできなかった。
でも、壱馬くんを大切に思う気持ちは、だからって変わるものじゃないから。
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何か方法があるなら、私にできる事があるなら…そう思うから。
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「私も一緒に病院行くし、 先生の話しも聞くから。
先の事が何も決まってないのに、
『別れたい』 はイヤだよ…。 それはヤだ」
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ゆっくり回した手で背中を擦ると「ありがとう」って小さく呟く。
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「ちょっと、こうさせといて。 泣いとる顔は見られたない」
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「ん、 いーよ(笑)」
私の肩に頭を乗せて、必死に声を殺して泣いてた。
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これから先の事を考えたら、正直不安だらけだったけど、でも「大丈夫、何とかなるから」そう言葉にして彼に伝えた。
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「ん、大丈夫、なんとかなる」 自分にも、そう言い聞かせた。
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…next
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