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Reverse~scene6~
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「解離性同一性障害、僕…ですか?」
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「今のお話を聞いて、そう診断するのが妥当かと」
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ドライブに出かけた日、対向車のヘッドライトに一瞬目を瞑ったその瞬間。
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またその声が聞こえた。
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『お前は寝とけ』って。
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その声が、 自分の声なような気がして。
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意識を取り戻した俺の目の前には、震える彼女がおって。
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何があったかわからん。
でも、大切な彼女をこんな風にしてしまったのが自分なんやって思ったら、怖かった。
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俺の中にある、 俺じゃない存在…。
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紗良さんは、
「壱馬くん··· 大丈夫?私は大丈夫だから、ね?」 って。
怖かったんは、俺やなくてきっと自分やったやろうに。
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もし、これから先、紗良さんに何かあってからでは遅いって、仕事を休んで向かった病院。
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俺の目の前に座る先生の答えは簡単に 「はいそうですか」 なんて言えるもんではなくて。
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「ご家族とか…近しい方によければお話を。 お一人で抱えるには…」
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「家族はいいです。 いないんで… 父も母も」
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いや、戸籍上は両親とも健在かもしれん。
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でも、『親』なんて、言えるような奴らではなかった…んやと思う。
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5才から施設で育った俺。
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「この病気は幼い頃に、 思い出しなくない記憶を抱えてる方に多いです」
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そう言われた時に、「あぁ、なるほどな」ってそうストンって納得した。
どこまで俺を苦しめるんやって思ったけど、でも生まれて来た事を恨むほどの人生ではなかった。
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まぁ5才より前の記憶が全くない俺は、わからんけど。
思い出せん位の事があるんかもしれん。
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俺の中の一番古い記憶は、施設での5才のお誕生日会。
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普通に楽しかった。
あったかいごはんもケーキもあって、みんなが 「おめでとう」って言ってくれた、そんな記憶。
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そこからの人生は、まぁ、それなりに大変やったけど、勉強して大学にも行ったし、ちゃ んとした会社にも入って、彼女もおって。
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普通に育ってきたその辺のやつらと、何もかわらんて自分でも言える。
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だって、みんなどんな環境で育ったって、 それなりに大変だった事なんてあるやろうし。
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「大切な人がいるんです。 その人に何かあったら…って」
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「一度、よければご一緒に。 ここでお話するの難しければ、病院の外ででもいいので」
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ほんといい先生で、俺の事を真剣に心配してくれてた。
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ほんと俺は周りの人に恵まれてる人生やなって思う… 。
紗良さんと出逢えた、もちろんそれが一番で。
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大切やから、大好きやから。
彼女に何かあってからでは遅いんやって。
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紗良さんに何て言おう。
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何て説明しても、結論は一緒か…。
選択肢なんて一つしかなくて。
彼女を守る為にはこれしかなかった。
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…next
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