.
.
.
Reverse ~scene2~
.
.
.

小さな異変は、3カ月位前から少しずつあって…。
.
買った記憶のないグラスが引き出しに仕舞われてたり。
食べた記憶がないのに、冷蔵庫の中身がなくなってたり。
.
でも、『疲れとんかな』 それ位にしか思ってなくて。
.
.
入社3年目。
 新しいプロジェクトチームに入って、それなりの仕事を任せてもらえるようになって。
プレッシャーがないって言うたら、嘘やったし。
.
.
.
はっきりとした異変に気づいたのは、ある日突然やった。
.
 朝、目が覚めたらパジャマで眠ったはずなのに、洋服を着てて。
 .
 普段飲まない種類の酒がベットのサイドテーブルに置いてあった。
.
.
「何やこれ。 どうなっとん?」
.
 何がどうなっとるんかわからんまま、とりあえず会社に行かないかん、そう思って、準備を済ませて玄関を出た。
.
.


同じマンションに住む彼女がエントランスで俺を待ってるのが目に入って。
.
.
.
「紗良さん!」
.
「壱馬くん、どしたの?寝坊?」
.
「いやっ、あんなっ」
.
.
.
こんな状況、うまく説明できるはずもなく。
.
「ええわっ、また話する、とりあえず急ご。 タクシー捕まえるわ」
.
.
今日は大事な会議があって、それに遅れるわけにはいかん。 
車道に飛び出して、捕まえたタクシーに乗り込んだ。
.
.
.
「…以上で終わります」
.
.
なんとか会議も無事に済んで、ほっと一息。 
.
少し離れた席の紗良さんと目があって 「ふー」ってお互いに息を吐くと、自然に笑いあう。
.
.
.
3つ年上の先輩。
.
.
入社した時に、俺の隣の席だった紗良さん。 話しをしてたら、同じマンションに住んでる 事がわかって、一気に距離が近くなって。
.
.
 あったかい雰囲気を纏う人。
 バリバリ仕事しますってタイプじゃなくて。
周りのフォローにばっかり回ってる、そんなイメージ。
.
.
同じ課のみんな 「紗良さん!こんなの紗良さんにしか頼めなくて」 ってそんなのを笑顔で引き受けるそんな人。
.
.

笑った顔が優しくて、気がついたら惹かれてた。
 「好き」 って思ったらもう我慢なんてできんくて、フラれるの覚悟で告白したら 「いいよ」 って。
 ほんま、そんな事あるん?って思う位で。
.
.

付き合い出してからも、ほんと思ってた通りっていうか、会社で居るのと全然かわらん。
.
時折、俺だけに見せてくれる甘えた感じが、それもまたよくて。
.
.
 甘いモノと、かわいいものが大好きで。
  デートも、月に一回は「スイーツ巡り」
  .
  大して今まで好きやなかった甘いものも、喜ぶ彼女の隣にいられるだけでそれだけで幸せやって思えた。
.
.
のんびり公園でお昼寝したり、彼女の作るご飯を食べたり、一緒に部屋で映画を見たり。
.
.
普通のカップルやと思う。
.
.
このまま付き合って、 彼女となら……って、そう自然に思える関係。
.

…アイツが現れるまでは。
.
.
.

「片付け、 俺やっときますんで」 
.
「よろしく。 デスク、倉庫入れといてくれたらいいから」
.
「はい」
.
.
人気のなくなった会議室。
 これ片づけて… 後、議事録をまとめて。 
 そんな事を考えてた俺の目の前。 
 .
.

「手伝うよ、 壱馬くん」
.
顔を上げると紗良さんがデスクの片方を持ち上げてくれてた。
.
.
「あぁ、ん。ありがと」 
.
「どういたしまして」
.
.
.

そう言ってふわって笑う。
この顔がたまらなく愛おしい。
.
.
.
デスクの両端を持って、彼女と倉庫へ向かう。
.
ドアを開けて、右手側にあったスイッチに触れると、電気がパッてついて。
.
.
.

その瞬間やった。
.
ぐっと頭が締め付けられて。
 何や…これ。 目が開けられん。
 .
 .
.
.
.
.

『お前は寝とけ、紗良は俺のや』
.
そう声が聞こえた。 その声…。
.
.
.
.
.
.
…俺?
.

.

.

.

.


…next
.
.
.