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Precious one~scene26~
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「栞、ちょっと」
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そろそろお開きって時間。
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肩をポンポンって叩かれると、そこに啓介がいて。
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「ん?」
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「下に、アイツ来てた」
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「アイツ?…えっ… 川村くん?」
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「ん、俺とお前の事が心配で見に来たって。さっさと帰るように言ったけど。
こんな教員ばっかな場所にのこのこやってきて、何してんだって」
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「あっ、ん」
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「…俺、ちょっと言い方キツかったかもだから、フォローしといて。 間違った事は言ってない、でもだいぶ食らった顔してたから」
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「ん…わかった」
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「…大事にされてるんだな」
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「えっ?あっ…ん」
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「よかった。ちょっと悔しいけど、ほんとよかったよ。 
あー、後10分でお開きだな。
こっちは適当に言っとくから、すぐ連絡してやって?」
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「じゃな」そうニコって笑うと会場に戻ってった。
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「壱馬…何してんのよ」
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窓辺に近づいて耳にあてたスマホ。
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いつもはすぐに出る癖に全然繋がらなくて。
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車のキーを持って、 駐車場へと急いだ。
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壱馬の家の近くに停めた車。
連絡つかない事が心配で。
無事に家に帰ってきて欲しい気持ちも込めて、そこで待つことにした。
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遠くから近づいてくるシルエット。俯いたまま力なく歩いてて。
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「壱馬!」
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そう呼ぶと「はっ?」 って上げた顔。
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「はっ?何で…?」 
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「啓介から聞いて、連絡つかないから…心配したよ」 
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「…ごめん」 
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「ん?別に怒ってないよ?」 
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「栞…俺な?【そんなとこで何してる】」
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その声と同時にコツコツ響く革靴の音が近づいてきて、私たちの目の前で止まる。
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街灯に映し出されたその人、壱馬と目元がよく似てて…。お父さんだってすぐにわかった。

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「失礼ですが、息子とは」 
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「あっ…、朝倉と申します。 川村くんの高校の教員です」
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「先生ですか…失礼しました。… 壱馬が何か?」
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「いやっ...」
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何て言えばいいのかなんてわからなくて。
本当の事なんて言えるわけないし。
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お父さんの威圧感に、言葉は続かなかった。
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「医学部決まったと思ったら、毎日フラフラ出歩いて…。 またこうやって周りに迷惑かけ
るのか、お前は」
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「いやっ、川村くんは」
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壱馬は俯いたままで。
言い返さないその感じが…2人の親子関係を示してた。
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「そんなんじゃ医者なんてなっ…」
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「医者にはなる!何があっても」 
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『医者になんて…』
その言葉に、グッと握られた掌。
それは壱馬のプライド。
決して揺るがないモノ。私は知ってる。


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「そんな簡単になれるもんじゃない!お前みたいな中途半端なヤツがっ…」
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「やめて下さい!」
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私のその声に固まったお父さん。
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ふーって息を吐くと、 「すみません、これから仕事で」 私に深く頭を下げて、迎えのタクシーに乗り込んだ。
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「栞、ごめん」
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またそんな風に謝って…。
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それだけ言うと、壱馬も私に背を向けて家の中へと入っていった。

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壱馬 side
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真っ暗な部屋の中、ベットにうつ伏せになると、体の力が一気に抜けてく。 
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大好きな人を手に入れたら、それで幸せになれるってそう思ってた。 
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でも手に入れたら、それはそれで見えてくるものもあって。
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公にはできない関係やってわかってる。
後3カ月やっていうのも…。
でも、悪い事してる訳やないのにって気持ちは拭えなくて。
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なら、今すぐ学校やめて、家を出て。
…そんな覚悟はやっぱり決められない。
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私立の医学部なんて、この家におらな到底無理で。
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…どうしても、医者になる事は諦められない。
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どっちに向いて進んでも、行き止まりみたいなそんな感覚。
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親父にも言われた
『お前みたいな中途半端なヤツに』
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何も言えんかった。 その通りやって自分が一番わかってるから。
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何かもう、全部めんどってなって、そのまま瞼を閉じた。
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明日になっても、俺の今状況も、俺自身のこんな甘い考えも何もかわらんのにな…。

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…next
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#川村壱馬妄想
#therampage妄想