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Precious one~scene25~
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「忘年会?」
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「ん、明後日の夜」
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「絶対行かな、いかんの?」
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クリスマスの翌日。
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コーヒーを飲みながら聞かされた話し。
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市内の高校の先生がみんな集まる忘年会が、駅前のホテルであるって。
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「それって、アイツも来る?」
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「…啓介?ん…たぶん」
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「…ふーん」
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「別に話ししたりしないし…、人数多いから会わないかもだし」
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「声かけられたら、話しするやろ?」
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「まぁ、そりゃ」
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…いい気せん。そりゃそうやろ。
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ぐにって摘まれた頬。
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「膨れてるの?(笑)」
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「膨れてるって言うたら、行かん?」 
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「二次会とかそういうのも行かないし、まっすぐ帰るから。 お酒も飲みません」
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「…わかった、えーよぉ。気ぃつけや、何か色々」
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そりゃ『行くな』って言えたらそれがええけど、そんなん言える訳ないし。 
彼女には、彼女のコミュニティがあるのやって理解できるから。
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頭ではちゃんと理解できてたはずやのに…。
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「は一、来てもうた」
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でも、どうしても気になって。
 向かった駅前のホテル。 
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別に声をかけるつもりもないし、 ってかこんなん栞にバレたら絶対怒られる。
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ってか、怒られるならええけど、呆れられるに決まっとる。
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見張ってます!みたいなもんやん。
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エントランスから少し離れた植え込みの淵に座って、はーって息を吐いた。
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「余裕ないな…俺」
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明るくしたスマホは22時少し前。 
そろそろお開きになる時間やなって立ち上がったとこで、ぐっと掴まれた肩。
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「お前、何してる。こんなとこで」
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『警察?』 ヤバイ!そう思って逃げようと思ったけど、掴まれた腕の力が強くて動けん。
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「俺との約束…忘れたなんて言わさないけど」
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その声に振り返ると、そこにはアイツがいて。
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「こんな時間にこんなとこにいたら、補導されるとか考えないのか、お前は」
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「…」
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「泣かさないって、そう約束したはずだよな?お前が補導されようが俺には関係ないけどさ…でも栞が悲しむとか、想像力できなかったか?

アイツ絶対 『私のせいで…』って自分を責める。 栞はそうだろ?
 偶然じゃないよな?ここにいるの。 
アイツが心配だった?…ひょっとして俺がいるからか?」
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「…」
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「図星だな、その顔。…ダサっ」
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「...っ」
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わかってる、自分がそんなん一番よくわかってる。
信用してないわけじゃない。でも…。
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「『久しぶり』 位の挨拶はしたけど、それだけ。お前が心配するような事は何もない」
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「…わかった。じゃあ」
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「待てよ」
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掴み直された腕。
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「この仕事はな…黒じゃなくてもグレーでもダメなんだよ。 周りに少しでもそう思われたら終わる。 覚えとけ。
 教師ってそういう仕事だ。 
 守ってやるんだろ?そう約束したはずだろ? こんな、 教員ばっかが集まってるとこ、もし一緒にいるとこ見つかったら、周りがどんな風に思うとか、ちょっとでも考えたか?
 中途半端な事してんじゃねぇよ。
 そういうとこが子供なんだよ、お前は」
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そう言うと、俺の腕をバンッて離して、他の人らの元に混じってった。
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『中途半端』
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もう言い返す言葉もなかった。 
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彼女が大切なら、信用してるって言い切れるなら、今、俺は何やっとん?って話しやし。
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もし、今ここで俺が補導なんてされたら。
どんな風に思われるとか…。
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彼女に呆れられる心配はしたけど、彼女が自分の事を責めるなんて、そこまで頭回ってな
かった。
最悪やん、俺…。
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結局ホテルから出てくる姿を確認する事もなくその場を後にした。
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このイライラをぶつける先すらなくて…。 
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逃げるように飛びのった地下鉄のドアに映る自分。
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「ほんまお前、全部中途半端」 
そう呟いた。
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…next
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