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Precious one~scene24~
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誕生日の約束を取り付けたあと、もう勢いで言うてまうかって思って。
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 『一緒に風呂入りたい』 ってそう伝えた。 
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『イヤ』って言われる事は勿論、覚悟の上で。やのに…。

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「いいよ。じゃあお風呂の準備してくるね」 って。
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マジか…えっ?ええの?ってドキドキが止まらんくて。
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でもそれを悟られたくはないから、必死で平静を保って。
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「栞?こっち」
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向かい合うには狭いバスタブ。
彼女を後ろから抱きしめるように腰に腕を回して。
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 細い肩に頭を乗せると、「くすぐったいよ…」って笑ってて。
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 こんな、接近戦なん初めてで、しょーもない話しかできん。
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 真っ白い肌がだんだんとピンクになってって…。あかん、これは、ほんまにヤバイってなるやつ。
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「壱馬、 先あがって。私のぼせちゃう」
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「あっ、うん」
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「タオル、 引き出しの一番上ね。 あと、クリスマスプレゼント、タオルの下においてあるから」
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「えっ?」
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「クリスマスプレゼント。 何がいいかよくわかんなくて。 気に入ってもらえるかわからないけど」
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タオルの下...。
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綺麗に畳まれたパジャマ。
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手に取るとふわふわで。
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「これ?俺に?」
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振り返ると、バスルームの中からタオル姿の栞がひょこっと出てきた。
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「ラッピングしてもらったんだけど、一回洗った方がふわふわになると思って、洗ったの。しかもね、何気にお揃い (笑)」
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袖を通すと、ほんまにふわふわで。
そんな彼女の小さい気遣いが、ほんまうれしかった。
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「サイズちょうどだったね。よかった」
 そう言ってお揃いのパジャマ姿で鏡の前に並ぶと、俺の胸元に顔を摺り寄せてきて。
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「フカフカだぁ」って見上げる顔。
 何? かわいすぎるやん。
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「ありがと、うれしい。俺からもな…あるんやって、プレゼント」
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「えっ?」
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意外って顔して、俺の顔を覗き込む。
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リビングに置いてあった鞄の一番下から取り出した赤い箱。
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「はい、メリークリスマス」
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そう言ってパジャマ姿の栞の前に差し出すと、 パチパチって瞬きをして。
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「開けていい?」
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「どぞ」
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本当なら指輪とかネックレスとか、クリスマスらしいものをあげたかったんやけど、金も
なくて、バイトなんてする時間もなくて。
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 どうしようかと思ってふらっと入った雑貨屋で見つけたそれ。 
 ラッピングをとって、ゆっくり箱を開けた。
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「マグカップ?」
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「うん」
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「お揃い?」
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「うん、一緒に使いたかって…。こんなんでごめんな」
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「何で?ごめんじゃないよ。 すごいうれしい、うれしいよ?」 

両手に持ったマグカップを、そっと机に並べた。
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「これっ...」
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「気づいた? こうやって…」
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栞が置いたカップ。 
くるっと向きを変えたら…。
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「ベタやなって思ったんやけど…」
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赤いラインが、二つのカップの向きをそろえると真ん中でハートになる。
買った後で、ちょっと後悔する位恥ずかしくて。 
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気になった彼女の反応。 伺うように顔を見ると、ポロポロ涙を流してた。
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「えっ、ちょっ…」
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「うれしい。ほんとありがとう」
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そう言って、両手で顔を覆ってた。
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「泣くなって。 泣かんとって」
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「だってぇ…うれしいもん」
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涙を拭うと、笑顔をむけてくれる。
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お揃いのパジャマと、マグカップ。
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『お揃いのもの』
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お互いに欲しかったものが同じで、思いあう気持ちもお揃いな気がして。
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初めて彼女と過ごしたクリスマスの夜。
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何度も何度も「大好きや」ってそう伝えて。
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この腕で抱きしめて、 お互いの体温を初めて分けあった。
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「おはよ」
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「ん、おはよ」
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「コーヒー淹れたよ? ミルク多め (笑)」
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「栞、 また悪い顔しとる」
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「ふふ(笑)」
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翌朝パジャマ姿で並んで飲んだコーヒー。
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並べるとハートが象られるマグカップを並べてふふって笑いあう。
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…幸せすぎて怖いくらいやった。

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…next

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