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Precious one~scene22~
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17時の点灯式に合わせてツリーの前に戻ってくると、そこにはイルミネーションを待っ
てるたくさんの人。
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繋がれた手がふっと離れて、ぬくもりがなくなって。 行き場をなくした右手。
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「壱馬?」
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急に不安になって、隣を見ると
「寒いやろ?」って背中から感じるぬくもり。
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「ちょっ……」
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「えーやん、もう周り暗いし。この方があったかいやん」 
後ろから抱きしめられた腕を、ぎゅっと握り返した。
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「ん、あったかい。 ぬくぬくだね」
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「あっ…」
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17時を告げる鐘の音と共に、 ツリーに灯りが灯る。
 暗かったはずのそこは、一気にキラキラと輝きだした。
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「うわー」
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「やっばっ」
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二人して、ただほーっとツリーを見上げてた。
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「ほんま、やっばいな、これ」
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「うん、やっぱい(笑)」
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「国語の先生、語彙力なくなっとるで」
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 「学年トップの天才も、 同じじゃん(笑)」
ふふっと私の肩越しに壱馬が笑った。
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「でも、ほんま綺麗なぁ」
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「ん、きれい。瞳に録画できたらいいのにね。今のこの気持ちと一緒に…」
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「ん?」
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「幸せだな…って。 壱馬と一緒に来れて、このツリーが見れて、すっごい幸せ。この気持ちと一緒に、ずーっと覚えてたい」
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忘れたくない。
この景色も、抱きしめられてるぬくもりも。
大好きだと思うこの気持ちも。
このままずっと…。
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「栞…?来年も、その次も、ずっとずっと…毎年ここ来よ?…約束な?」
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えっ…。
振り返った壱馬の瞳に映るクリスマスツリー。そこでキラキラ輝いてた。
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その瞳がそっと落ちて、私が映る。
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私の返事を聞く前にそっと重なった唇。
お互いの唇が冷たくて、何度も重ねた。
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ゆっくり離れていく唇。
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 壱馬の『約束な?』 に…私は、頷けなかった。

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彼との未来をちゃんと考えないまま始めてしまったのは私だけ。 
彼の中には、私との未来がちゃんとあって。 
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それは嬉しいのに。
でも、それじゃ壱馬の未来を…。
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来年、3年後、5年後。
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それを考えた時に、私はどうしても彼との未来は描けずにいた。
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いつか、これから先、彼の人生を私の存在が妨げる時が来るかもしれない。そう思うから。
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「栞?どしたん?」
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 「ん?何でもない。 キレイすぎて泣きそう(笑)」
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「なんやそれ(笑)」
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 「壱馬?…大好き」
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「えっ?」
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「大好きだよ」
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いつか来るかもしれない未来を思ったら、泣いちゃいそうで…。
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「好き」 って誤魔化してキスするしかできなかった。
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…next
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