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Precious one~scene16~

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『…助けて…川村くん』
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小さくそう呟くと、両手で顔を覆って。
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『助けて』
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そう俺に伸ばしてきた彼女の手を握り返さない選択肢なんて、あるわけなくて。
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あんなに考えて、諦めようってそう決めたのに。 
そんな決心なんて、たった一瞬で消えてった。
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そっと抱き寄せた体。
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もう、ややこしく考えるんはやめや。
このまま2人でどっか逃げたっていい。
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彼女を守れるのなら、手段なんて選んでる場合やない。
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「逃げよ、そいつから。 俺と一緒にっ、…な?」
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今おる場所に、何の未練もない。
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高校も、家も、家族も、もうどうだっていい。 全部捨てたって何の後悔もない。
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その俺の言葉に力を入れて離された体。
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「いやっ!…どこも行かないっ。 一緒になんて、そんなの行けるわけない!」
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「でもっ!」
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「ごめんなさい。巻き込んだ、…私。
 これは、私と彼との問題だから。川村くんには関係ない」
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「ちゃう! 俺が先生の事好きなら、もう関係なくないやんか!」
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「だからっ!」
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涙の溜まる瞳。
グッと俺を真っ直ぐ見つめてた。
…負けんで?
俺やって本気やから。もう引いたりせん。
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「俺は好きやで?それ以外にどう言うたらいい? 本気やで?
どうやったら、わかってもらえる?…なぁ!!!」
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「……っ」
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「こんな風に誰かの事を思った事ないから、どう伝えたらええんかわからん。
 「好き」って言うしかできん。
 それしか知らんのやって、俺…」
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俺の目をまっすぐに見た彼女が、そっと触れた俺の右頬。
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触れた指が小さく震えてた。
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「私も好きだよ」
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「えっ…」
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「ごめんね…好きになって」そう涙を流した。
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意味わからん。 何やそれ。
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「ごめんねって、何なん?」
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「 だって私。先生だから。それなのに、好きなんて。そんなのダメだって…」 
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「誰かを好きになるのに『この人はよくて、この人はあかん』ってそんな風に分けてから 好きになるん?
みんなそうなん? 俺はちゃうけど」
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そんな器用になんて俺はできん。
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「好きになった人が先生で、 彼氏がおって。やから、諦めようってそう思って。
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でも、やっぱり諦められんくて。 はっきりフラれたら諦めようって思ってたけど。
先生も、俺の事好きやって言うてくれて。
それやのに…ごめんて、わけわからん」 
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「…でもっ」
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「ちゃんと言うて? 俺にでもわかるように、言うてや。…気持ち、教えて?」
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真っすぐ俺を見上げるその瞳。
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ゆっくり瞬きをすると、すーって真っすぐに落ちてく涙。
何かを決めたように、小さく息を吸った…。
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「…好きなの、川村くんの事。…私、好き」
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「ん、わかる。それなら俺にもちゃんとわかる。…言えるやん。ごめんねは、ちゃうやろ?」
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握った手を引き寄せて今回は俺から、ゆっくり唇を重ねた。
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「好きやで、ほんま、めっちゃ好きなんよ」
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自分の語彙力のなさが情けなくなる位、ありきたりな言葉しか出てこん。
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 そんな俺を「ふふっ、わかってる」 ってそう言って笑う。
 … やっと笑った。 
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 その笑顔、俺のもんや。誰にも渡さん。
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思いが通じあったからって、それで全てが解決するもんじゃない。
そんな事、わかってる。
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でも…たとえ子供やって言われても。
ままごとの延長やってそう言われたって。
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それでも、この気持ちが本物じゃないなんて、そんなん誰にも言わさん。
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17才の俺にとっては、彼女が全てで。
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彼女と一緒にいられる今が全てやった。
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…next
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やっとここまで来た!
こんな風に必死に告白してもらいたい…おばちゃんの願望。キモい(笑)💦 himawanco