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Precious one~scene8~
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『明日11時な』
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たったこれだけのLINE。
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「これだけかよ」
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俺も必要以上に連絡したりするのは好きやないけど、要件だけにもほどがある。
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このLINEをよこしたのは、俺が高校受験の時の家庭教師。
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 親父が世間体を気にして、受験の半年前、俺の家にやってきた。
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親父が時々講師として授業を教えてる医学部の生徒の中で、飛びぬけて優秀な生徒だって聞いてたから、牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけたやつが来るんかと思ってた。
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とりあえず、一回会ってみて「無理」 そう言ってやろうと思ってたんやけど。

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「初めまして」 そう言ってやってきたのは、金髪で色黒の見るからにチャラチャラした奴で。
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「壱馬くん? よろしく。 登坂です」
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勉強を教える為にやってきたはずのそいつは、俺の隣に座ってスマホをずっと触ってる。
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「お前、何しに来たんや」
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「えっ?俺?バイト。家庭教師って儲かるから。 教授に感謝してるよ」
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「俺、何も教えてもらってないんやけど」
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「教えなくても、できるじゃん。 俺より、 できんじゃね?」
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そう言って俺が解いた数学のプリントを指さした。
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何か変な出会いやったけど、
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「壱馬」
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「臣さん」
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そう呼び合う位、気が合った俺らは、受験が終わった後もちょこちょこメシ食べに行ったり、遊びに行ったりする仲で。
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昨日久々に電話があったと思ったら、メシ行こうのお誘い。
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『時間、また連絡するわ』って切れた電話。 2時間後のLINEがこれ。
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まぁ、こんな感じの付き合いがちょうどいい。そういうとこが気が合うんやってそう思う。
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約束の時間。 
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日曜11時の駅前なんて、ありえん位人がおって、息苦しい。 
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『みんな楽しそうやなぁ』 そう見えて仕方ない。 
まぁ、俺だけ不幸なんて、そんなネガティブでもないけども。
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「壱馬」
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後ろから声をかけられて振り返ると、
「えっ?どなた?」って言いたくなる位、 別人になった臣さんがおった。
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「はっ?どしたん? そのかっこ」
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「病院実習中(笑)」
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「あぁ…そうか」
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真っ黒に染め直した髪。
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 アクセサリーは控え目なリングをいくつかしてる位。
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  いいとこのおぼっちゃんって感じがにじみ出てた。
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  もともと、こっちの方がこの人の本来の姿なんやろうけども。
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「ってか、うける。 その恰好」
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「笑うなって。 自分でも不自然なのはわかってんだって」
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そう言って、笑いをこらえる俺に後ろから軽くケリを入れた。
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「行くか、 メシ」
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「ん」
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臣さんに連れられて、人込みをかきわけて昼飯に向かう。
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 適当に入った店で、 運ばれてきた料理に手をつけると臣さんが口を開いた。
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 「最近どうなの? 学校ちゃんと行ってる? 卒業できんのかよ。 せっかく医学部決まったのに、卒業できなかったら元も子もないんだからな。」
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「まぁ…ぼちぼち。 テストは受けてるから、何とかなるんじゃね?」
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「ケンカばっかしてたら、退学になるんだかんな、 気をつけろよ」
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「わかっとる」
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「学校に彼女でもいればなぁ、お前も毎日学校ちゃんと行くのになぁ」
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学校に彼女。
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その言葉に箸を持つ手が自分でも分かりやすく止まった。
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 「ん?何?いるの?彼女。
  はっ?マジかよ。 俺聞いてねぇし」
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  前のめりで俺の顔をじっと見つめる。ニヤニヤしやがって。
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「彼女やないけど、 えーなって思う人がおる」
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…ほんまは、ずっと誰かに聞いて欲しかった。
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ここからどうするべきなん?
 誰かを好きなんて感情初めてで、どうしていいかわからんかった。
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 好きやって思ったら、どうしたらいいんか?
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しかも相手は…。
思いを告げてもいいのか。 このまま諦めた方がいいのか。
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「先生なんよ、その人」
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…next
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今回はspacialthanks的な、立ち位置で登場、臣くん!

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