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愛のカタチ~scene45~
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「マジ、俺どんだけいいやつ(笑)」
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壱馬がカンナの元へ向かうのを見送ってから足を運んだ、いつもの場所。
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重たい扉を開けると、いつもの席の近くに、見慣れた顔。
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「チサト…。まさか今日も旦那出張 (笑)?」
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 「ゃ、今日は臣と飲もうかなぁって。臣はきっと来るって思ったから、待ち伏せてやったの (笑)。
 …終われたの?ちゃんと」
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 「あぁ…やっとな。長かったわ、マジで」
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「…だね」 
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椅子に座ると、何も言わなくても、俺の前出されたビール。
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「好きなだけ飲め」
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マスターはそれだけ言うと、俺とチサトから少し離れた場所でグラスを磨き始めた。
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絶妙な配合のビールに口をつけると、広がる苦味に、ぐって喉が狭まる。

「…臣?」

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「チサト…大丈夫だから。んな顔すんな。
不思議とさ、もう後悔とか綺麗になくなってさ。
俺、アイツを好きだった自分結構気に入ってたんだなって思ったわ。 やり切ったわ、マジで」
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「そっか…」
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「今は素直にカンナの幸せをさ、願ってやれる。 大人じゃね?俺」
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 「まぁ、リアルに年齢はおじさんに近いしね」
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 「うっさい」
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「臣?カンナはね…本当に臣の事を好きだったんだよ?…あの子、ほら不器用だから」
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「ん…。わかってる。あいつの気持ちを疑った事は一度もないから。
あの頃は、俺にしっかり向いてた。
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でも、ほら不器用だから尚更さ。
今は、壱馬の方しか見てないのがわかんだよ。さすがにキツかったわ」
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そう、近づけば近づくほと、それがわかった。
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「…臣はいい男だよ。…ん。 私はそう思うよ?」 
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「旦那と別れて俺んとこ来る?チサトなら…ん、悪くない」
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「そういう軽い感じが玉にキズだよね、あんたは」 
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「はっ?(笑)」
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半分まで飲んでたビールの残りを飲み干して2杯目に手を伸ばした。 
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「…ありがとな。 後、カンナと壱馬の事、 頼むな」
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「ん。ほんと私、いつまで世話係なの?」
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「ずっとじゃね?(笑)」
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「まぁ、一番手のかかるヤツがいなくなるから、ね?」
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「はっ?俺?」
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「臣以外に誰がいんのよ」 
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「お前なぁ…」

顔を見合わせると、ふふって笑えた。
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 俺、ちゃんと笑えるじゃん。
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カンナがそばにいなくたって、大丈夫。
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今日、ここに俺が来るなんてチサトじゃなきゃ絶対わからないはずで。
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 一人でカッコつけて飲もうって思ってたけど、俺はやっぱり誰かに聞いて欲しかったんだ。
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「臣?付き合うよ?オレンジジュースまで」
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「お前、仕事な?明日」 
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「臣もな(笑)」
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そう笑いあうと、グラスを持ち上げて残りを飲み干した。
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「いつかさ、また3人でここで飲みたいね」
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「その時は、オレンジジュースまでな(笑)」
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いつか、カンナともこんな風に話ができる日が…。ん、大丈夫。 

またここで3人で笑える日はきっと来る。 
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長かった…。
苦しい事、泣きたい事もいっぱいあった。
過去が変えられたら…そう思ったりもした。
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でも俺は。
カンナを愛した事に後悔はない。
あいつを好きだった時間は、…幸せだったから。
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一生忘れられない、そんな恋だった。

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