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愛のカタチ~scene41~
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カンナが休職扱いになって、 5日目。
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毎日連絡はするものの、『大丈夫だよ。 ちゃんとご飯も食べてるから』
ってずっとそんな返事で。 
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その言葉をそのまま受け取るしかなかった。 
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『このままでええわけない』
 でも 『じゃあどうしたらええねん』 『なんて声かけたらええねん』って答えが出ないままぐるぐる頭を回る。
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 信じて待つって決めたのに、この期に及んでほんまにそれが正解やったんか?って不安が頭を過る。
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その日は、仕事帰りにまっすぐ帰る気にはなれなくて。
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 なんとなく向かったのは、いつだったか仕事がうまくいかない時に見つけた川の近くの公園。
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人通りの少なくなったそこ。
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月が明るい夜、その光に照らされたシルエット。
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見覚えのある2人。
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『違ってくれ』
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そう思いながら近づいていくと、段々と疑念が確証に変わる。
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 聞かない方がいいなんてわかってたのに、足が止められなくて。
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聞こえてくるカンナの声。
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俺には、そんな風に言うてくれんかったやん。 そんな顔見せてくれんやん。
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臣さんがカンナを抱きしめるのは、もう必然な気がして。
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大きいその手が彼女を抱きしめると、ギューって力がこもるのが遠くからでもわかった。

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『帰ってこい、俺のとこへ』
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そうよな…ずっと好きなんやもん。 
そうなるわな。
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「何してるん?」
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そう言葉にするんがやっとで。
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もう無理や、俺。
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ずっと2人の事を疑って、不安になって牽制して。 そんな自分がほんま嫌になる。
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尊敬しとる大好きな先輩と、誰よりも大切に思う彼女。
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その2人が一緒にいてる方が、自然やん。
もう、疲れたんやって。
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 もう、こんな思いする位なら、出会わんかったらよかった。
 好きになんて、ならんかったらよかった。
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もう口から出るままに、思いをぶつけるしかできんくて。
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カンナの瞳に、段々涙が溜まってくのがわかったのに。
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泣かない彼女を、泣かせる位の事を言うてるのはわかったのに。
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『泣かせてる…傷つけてる…』頭ではわかるのに。
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止められんかった。

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『待って』って掴まれたその手を思いっきり振り解いて、背を向けた。 
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早くその場から離れな、もう歩かれんようになってしまいそうで。
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流れる涙を何度もぬぐって、急いだ。
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ガシャン。
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家に戻って、ドアを閉めたらもう我慢なんてできんくて、玄関にそのまま座り込んだ。
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握った手の中にあるガムランボール。
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耳元で振るとキレイな音が響く。 
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幸せやったジャカルタでのクリスマスが、頭を掠める。
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「俺やないんやな…」
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鍵にくっついたそれを力任せにひっぱると、簡単にちぎれて。
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ぐっとそれを握りしめた。
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「終わりにしよ言うたん、俺やんか。 
疑ってるんは俺やん。がんばれんのは俺やん。…泣くなや」 
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上を向いても、頬を伝う涙が止められなくて。
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「ださっ、ほんま」
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握った掌をおでこにあてて、ぎゅーって奥歯を噛みしめた。
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「嫌いになりたい…」
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抑え切れない言葉が涙と一緒に溢れた。
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next
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