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愛のカタチ~scene39~
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『ほとぼりが冷めるまで』
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それっていつまで?
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休暇扱いになって、5日目。 
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具体的な連絡は会社から何もなくて。 

臣に、チサト、もちろん壱馬からも毎日のように連絡はあって。
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「大丈夫。ちょっと落ち着いて考えたいから一人にして欲しい」そう伝えてた。
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普通の人が働いてる時間にフラフラ出歩く気になんてなれなくて。
 22時…もうこの時間ならいいか。
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外の空気が吸いたくて、ちょっとお散歩。
…そう思って外へ出た。
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どこへ向かうでもなくて、ぼんやり歩いてたら、目の前を流れる川。
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ビルの灯りが反射してキラキラ揺れる。
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 大学時代、臣とよく来たな。
 好きな場所だった。
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 見上げた高層ビル。 
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 そこに自分もいたはずなのに、そこにはもう居場所はない気がして。
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「はー」
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手すりに凭れて、ただゆらゆら揺れる水面をぼーっと見てた。
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「飛び込むつもりか?」
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「えっ?」
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振り返った先に、フフって笑う臣がいて。
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「臣?なんで?」
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「それはこっちのセリフ。 何でお前こんなとこいんだよ。 家近くないだろ?一応女なんだから、こんな時間に一人でフラフラ出歩くなって」
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「や、 ちょっと散歩」
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「散歩ね…」
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私の後ろのベンチにボスって座ると、んーって背伸びをして。
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「ここ、懐かしくね?俺、 何気に結構来るんだわ。…何か落ち着く」
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「ん、落ち着くよね。私はすごく久しぶりに来たの。…あの日以来かな」
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 「あぁ…あの日な」
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その日は…。

『待ってる』
振り返って、それが伝えられなかった日。
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『臣が好きだよ』
そう追いかけて言えなかった日。
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… 今でも、忘れられない日。

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「カンナ?大丈夫か?」
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「ん」
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「ちゃんと戻ってこれるように、常務にも言ってあるし、調整してくれてるから今。 
…チサトもみんなも心配してる」
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「ん…」
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パチャンパチャンて、川の水が壁に打ち付ける音。それがやたらと耳に響いた。
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「言ってみ?吐き出したい気持ち、あんだろ? 聞いてやるから」
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「…私」
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「ん?」
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「…私、戻っていいの? みんなに迷惑かけたり、 私のせいで、うまく回らなくなるならっ」
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後ろから右手を引かれると、ふわっと包まれた体。
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大きな掌が私の頭を支える。
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「バカなの?お前は」
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背中に回されたもう片方の手が私の背中をギュッと抱きしめる。
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「俺、何の為にいんだよ。···お前がちゃんと帰ってこれるように準備万端だっての」
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「臣っ…」
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「なぁ、カンナ...?」
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そう呼ばれたのに、その続きの言葉はなくて。
 抱きしめられた腕にギュって一段と力が入った。
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「帰ってこい、俺のとこへ。
 …俺のそばにいて?
  俺はやっぱりカンナがいい。 
 お前以外考えらんない。 
 すんげぇ好きなの、 お前の事」
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『好きだ』そう伝える時は、臣なら力強くそう言うと思ってたのに、私を抱きしめるその手は震えてた…。
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そっと離された体。私を覗き込むその瞳は、まっすぐで。あの切れ長の目にとらえられた ら瞬きすらできなかった。
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「臣っ、私は…」
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「カンナ?何してるん…」
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乾いた声が聞こえた。
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…next
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カンナが8年前伝えたかったのは 
「好きだから待ってる」でした。
伝えられなかったその言葉。
さぁ、ここからがこの3人のストーリー、山場を迎えます。
壱馬、カンナ、臣のそれぞれの思い。

いいとこなんですが、明日から来週真ん中位まで、更新お休みします。   himawanco