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愛のカタチ~scene38~

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「怒られちゃった」
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臣さんからの電話を切ると、そう俺に向かって力なく笑った。
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そんな彼女の髪の毛にふわっと乗った雪がすーって、消えてく。
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「雪やん。とりあえず帰ろ。そんな格好風邪ひくから」
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着てたコートを彼女の肩にかけて、握った手。
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反射的に離しそうになる位、冷たくて。
その冷たさが生む不安。
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 「何があった…」
ギュって握りなおして、家へと急いだ。
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「壱馬?ここのおうちのお花キレイだよね?」
「コンビニ、こっちの方が近いよね、うちからだと。知らなかったなぁ」
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こうやって、やたらと口数が多い時は、俺に何かを言われるのを察してるそんな時で。
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「ごめん、まだ散らかったままで。すぐに片づけるね」 っていつもみたいに、スーツを着たまま洗濯物を畳みはじめた。
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「カンナ?」
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ちゃんと聞かな、ちゃんと話しせな。
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♪~♪
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こんなタイミングでまた電話。 
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「ほら、 電話出て?私お風呂先に入ってくるから」
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バスタオルを持って俺の前を通りすぎると、パタンって閉じられた扉。
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「もしもし?七海?」
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「壱馬?もうこっち帰ってきてる?」
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「ん」
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「カンナさん、一緒?」
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「ん」
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「大丈夫そう?」
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「七海?お前、何か知ってるんか?」 
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「今日ね…」
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聞かされた今日の会社での話。
何で、何でそんな事…。
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「カンナ。 ちょっ、座って」
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風呂上がり、ミネラルウォーターを取り出したその背中に声をかけた。
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「ん?…ん」
 観念したように俺の隣に座ると、ボトルに視線を落とした。
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「さっきの電話な、 七海からやって。今日の事聞いた」
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「ん」
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「何で?何で誤解やってそう言わんかった?そいつにも、みんなにも、常務にやって。 何も言わんかったら…」
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「…何て言うの?」
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「えっ…」
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「2人でホテルで食事して、薬飲まされて、部屋に連れ込まれてっ…でっ、それでっ…」
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膝の上の手が小さく震え出して。
はっとして、その手を握った。
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「ごめん、カンナ。 もうええから…ごめん。…ごめんな」
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「何て言えばいいかわかんなかった…。
 今もわかんない。もう何か色々わかんなくなって。
ちょっと一人で考えたいの。 強がってるわけじゃない。 
辛い時は、辛いって言うから。
ね?…ちゃんと言えるから」
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ふーって大きく息を吐くと、俺の手からゆっくり離れて。
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「ちゃんとご飯も食べるし、だから…。 ちょっと時間ちょうだい。 お願い」
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まっすぐにそう俺を見つめる瞳にそれ以上何かを言うのは違う気がして。
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こないだみたいに、どうしていいかわからんで、逃げる訳じゃない。
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…待とうって、そう思った。
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「毎日連絡はするんやで?ええか?」
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「ん」
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靴を履く俺を見送る小さい体を、振り返ってそっと引き寄せた。
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「カンナ?忘れんで?…俺は待ってる」
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 「ん」 
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部屋を出ると、降ってたはずの雪が止んでて、雲の切れ間から細く漏れる月の光。
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 まっすぐ伸びるその光。
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『俺は、待ってる』
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今、無理やりじゃなくて。
カンナが自分自身で折り合いつけて、前を向くのを。
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それを信じてる。
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信じて…待ってる。
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.…next
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