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愛のカタチ~scene34~
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「少し休みを取りなさい」
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常務の口から出た言葉はそれだった。
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「何もないのはわかった。疑ってるわけじゃない。でも、うちとしても、何も対応してないって訳にはいかないんだ、わかってくれ。
ほとぼりが覚めるまで、ちょっとゆっくりしたらいいから。ごめんな、こんな事になって」
そう頭を下げられた。
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そんな事されたら、もう「はい」としか言えなくて 。
常務の立場も理解できたから。
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それ位大口のクライアントだもん、失くすわけにはいかない。
光洋物産と揉めるわけにはいかなかった。
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加藤専務の奥さんは、 社長の姪っ子さんで、そんな人を敵に回すわけには…考えなくてもわかる事だった。
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「結城くん。 それと、こんな話を今すべきかどうか迷ったんだけど。
香港支社から、君をチーフとして迎えたいってそう言われてる。
君の実力を認めてあっちは欲しいってそう言ってきてる。休んでる間にちょっと考えてみてくれ」
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「えっ…、はい。わかりました」
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「カンナ?」
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デスクに戻ると心配そうなチサトの顔があって。
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「チサト?何日か休む事にしたからさ。 今抱えてるのお願いできる? 家で出来る事はやるから」
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「休むって…それっ。 私、常務のとこ行ってくる!私がちゃんとっ」
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「チサト!いいから… ちょっと休みたかったし、私」
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「そんなのっ、おかしい!カンナ何も悪くないじゃん。 勝手に勘違いしてるだけでしょ?おかしいよ!そんなの」
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今にも常務に食ってかかりそうなチサトをなんとかなだめて。
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「詳細、また帰ってメールするからよろしくね」
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チサトの奥に見える、営業部のみんなの顔。 不信感でいっぱいに見えた。
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「カンナ!」
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「ん?」
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「何かあったら、すぐに連絡してよ? わかった?」
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「大丈夫、ありがとう。 ちょっと最近忙しすぎたから、ゆっくりするよ」
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心配そうなチサトに精一杯の笑顔を向けて、ドアを引いた。
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背中にささる視線が痛くて、振り返れなかった。
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会社を出ると、冬を感じる重たい雲。
肌に当たる風がいつもよりも冷たく感じられて。
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「帰って何しよ…。 香港か…」
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もう、自分の場所はここにはない気がした。
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それ位、周りの視線が痛くて…。
何も後ろめたい事なんてないのに。
それを説明する事すらできなかった。
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こういう時に何て言えばいいのかわからなくて。 口下手な自分がほんと嫌になる。
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臣に。
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…壱馬になんて説明しよう。
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「ただいま」
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明るい時間に帰る事なんて記憶になくて。
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リビングのドアを開けると、 洗濯ものが散乱した部屋。
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いつもの光景なはずなのに、溜め息が出た。
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「仕事以外、何もない…私」
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趣味もない、家事ができるわけでもない。 急にぽっかり空いた時間を埋めるのって何をすればいい?
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散らかった部屋が、 何もない私を現してるようで、悲しくて、何か責められてる気がして。
そのままドアを閉めて部屋を出た。
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会社へ行くのと反対の道。
こっち側なんて歩いた事なくて。
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こんなとこにカフェなんてあるんだ。
あっ、コンビニこっちの方が近かったかな。このおうちのお花キレイ。
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毎日会社と家との往復だけで、知らない道には、知らない風景が広がってた。
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住宅街の中にある小さな公園。
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夕方近くのそこには、5歳位の男の子と、 私くらいの年のお母さん。滑り台で遊んでた。
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隅に置かれたベンチに座ると、体の隅々まで感じる冷たさ。
はーって息を吐くと白く変わる。
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灰色の空に消えてくその白を見てると、 自然に涙が溢れて。
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『何に泣いてるのよ…かっこ悪い』
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「おねぇちゃん?」その声に目線を戻すと、滑り台の前にいた男の子が私の前に居て。
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「これ、あげる」
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イチゴの包み紙の三角の飴玉。
小さい頃好きだったな。
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「いいの?」
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「ん、あげる。これおいしいよ? ... それ、きれいだね」
男の子が私の握ってるキーホルダーを指さした。
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「ん、これキレイな音するんだよ? ほら」
耳元で振ってあげると「ほんとだ」って笑った。
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「帰るわよー」って、お母さんに呼ばれて「バイバイ」って手を振るその子の向こう、お母さんが小さく頭を下げてて、私も同じように頭を下げた。
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2人で手を繋いで帰るその後ろ姿が、幸せそうで。
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『私にあんな幸せは、あるのかな…』 って。
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「もう、どうしよ…」
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もらった飴玉を口に入れると、懐かしいイチゴ味。 ぐーっと胸の中が苦しくなってく。
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口の中の飴が溶けてなくなっても、そこから立ち上がれなかった。
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行くとこなんてない。
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どこにも居場所がなかった。
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.…next
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