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愛のカタチ~scene31~
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「カンナ...」
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大丈夫。 壱馬が一緒にいるんだ、俺が今さらどうこう…。
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「大丈夫か?」一言だけ送ったメッセージ。
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すぐに掌の上で鳴り始めたスマホ。
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 「もしもし?」
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「臣…ごめんね、ありがとう」 
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「ん。壱馬は?」 
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「…大丈夫だから、今日は帰ってもらった」
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「はっ?」
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「帰ってってお願いしたの」
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「お前、今家にいんの?」
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「ん」
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「10分で行く、そこにいろ。どこも行くな!」
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返事を聞かずに切って、ポケットにしまったスマホ。
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道路に飛び出して上げた右手。
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何で、何でお前はっ、そうなんだよ…。
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10分かからず着いたカンナの家。
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 インターホンを鳴らすと、少しだけ開いたドア。
 黒縁眼鏡の奥、伏し目がちなその瞳は真っ赤で。 
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ほら、やっぱり…。

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「開けて?」
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「いやっ」
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「開けてくんないと、大声出すよ?俺」
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「そんなのずるい」
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「いいから開けて」
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ゆっくり開かれたドア。
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記憶の奥にある、この部屋の匂い。 胸の奥が苦しくなる…。
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「上げないよ? 家の中には」
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「わかってる」
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「何しに来たの?大丈夫だって、そう言った」
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『大丈夫』 そんなわけない。
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それが強がりだなんて、考えなくたってわかる。もう、壱馬の彼女だとか、そんな事考えられなくて。

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 小さい肩を右手で掴んで抱き寄せた。
カンナが… 震えてた。
 
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「…辛いって、苦しいって。お前が泣いてる気がしたから」
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カンナ side
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『お前が泣いてる気がしたから』
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そう言って、引き寄せられた体。
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「お前の事、誰より知ってる、俺が一番。
 …お前が上手く泣けないのも俺は知ってる
『可哀想って思われるのが嫌』 だよな?」
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肩越しに聞こえるその優しい声に、ようやく止まってた涙が、また溢れた。
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「5分だけ、こうしててやる。そしたら俺、帰るから。だから我慢なんてすんな? お前は惨めでも可哀想でもないよ?」
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「私…」
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 「カンナは、カンナだろ? 誰よりもがんばりやで、 バカみたいに真面目で。 家事が苦手で…歩くのが遅くて。 こんなちっこい癖に酒は強くてさ。すぐ強がって。 
 …お前は何も変わんない。 大丈夫。
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 こんなしょーもないことで何も変わんないから」
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 背中を擦ってくれるその大きな手が優しかった。 …涙が止まらなかった。
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「臣っ…」
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「何も変わらないから、カンナ。大丈夫」

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泣き止むまで背中を擦ってくれた臣。
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 「月曜、会社でな」って、その背中を見送って、ベッドに体を投げ出した。
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  目を閉じても眠れそうにはなくて、カーテンの隙間から見えた透き通る位白い月…。 
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  その月が、段々と黒い雲に覆われて、部屋に差し込む光を遮る。
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忘れたい…全部。 
あの手の感覚。苦手な香水。

消えてよ、お願い…。
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広臣side


カンナのマンションを出て、タバコに火をつけて。
上がって行く煙が夜に吸い込まれてくのをぼーっと見てた。
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どんだけ強く抱き締めても、優しく背中を擦っても、あいつは…その手を俺に伸ばしてくる事はなかった。


『俺じゃない』
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わかってる、そんなのずっと。
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叶わないなんて知ってる。
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でも諦められない。
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「マジ、きつい…」
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そう俯いて笑うしかなかった。
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.…next
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side変わりまくりで、読みにくいな…すみません。壱馬と臣くんの対比、伝わってるかなぁ。
         himawanco