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愛のカタチ~scene30~
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決していい目覚めではなくて、重たい瞼を開くと、見慣れた模様の天井で。 
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もうどこまでが夢で、何が現実なのか全然わからなかった。 
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お酒のせいだけじゃないそう感じる体のダルさ。
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頭も痛い。 気持ち悪い…。
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「カンナっ?!」
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天井を遮る顔と私を呼ぶその声に、感じた安心感。
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『壱馬だ…』って。
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「ん… 私…」
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「どっか痛い?水飲む?」 
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「頭痛い… 気持ち悪い…」

なんとか背中を支えられて起き上がったら、吐き気に襲われて、フラフラしながらトイレに駆け込んだ。
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二日酔いとは違うその感じ。
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何、これ。
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鏡に映る自分。
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「えっ...」
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落とした視線の先、その違和感に気づいた。
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壱馬 side
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カンナを連れて帰ってきたすぐ後。 
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臣さんから電話があって。
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「薬、多分睡眠薬とかその類の薬、飲まされたんだと思う。 お前の判断で、ダメだと思ったら病院、わかったな?」
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「っ…はい」
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「何かあったら必ず電話して。 時間とか気にしなくていいから」
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「わかりました」
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睡眠薬って…、そんなドラマでしか聞いた事ないような事が自分に、カンナに…。 
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このまま目覚まさへんとか、そんなんないやんな? 病院って、救急車呼んだらええのん? もう頭の中はぐちゃぐちゃで。
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とりあえずカンナの手を握って、「無事に目を覚ましてくれ」って。
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「……ぅん」って首を左右に振ると、少しずつ開く瞼。
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「カンナ?!」
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俺の呼ぶ声にしっかり反応があって、覗き込んだ瞳に俺が映ると、安心したように緩んだ口元。
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よかった、とりあえず意識は戻ったみたい。
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「気持ち悪い」 ってトイレに行って出てきたその顔は真っ青で。
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ソファにストンって座ると「お水飲みたい…」って。
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グラスに注いだ水をコクコクって飲むと、少し落ち着いたのか、大きく、はーって息を吐いた。
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「私…今日、専務と食事行って…」
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「ん」
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「壱馬は…知ってるんでしょ?」
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「ん?」
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「私、シャツのボタンなんて絶対かけ間違えたりしない」
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「えっ…」
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そう言った彼女は俺の目をじっと見てて。
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「私…何されたの?」って、そう聞いた。
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本当はウソついて、ごまかして。
覚えてないんなら、そうしてやるべきやったんかもしれん。 
でも俺にそれはできんかった…。
あいつのまっすぐな瞳に映ったらもう、そんなのすぐに見透かされてしまいそうで。
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『うん、うん』って、小さく頷きながら俺の話を最後まで聞いてた。
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泣く訳でもなく、握った掌をじっと見つめて。
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「もう、忘れよな?もう、全部。 今日の事全部、な? …何もなかったんや」 
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「ん、わかった。 ん··· お風呂入ってくる」
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ゆっくり立ち上がると、バスルームを開けてそっと閉めたドア。
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シャワーの音に混じる、 押し殺したような泣き声。
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「カンナ!」
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「来ないで!」
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ドアを開けようとしたら耳に飛び込んできた大きな声。
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「忘れるからっ、 全部忘れるからっ!辛いんじゃない! 傷ついてもない! 大丈夫だから。 だから…ん。 壱馬…。 今日は帰って、お願い。 一人にして」
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それだけ聞こえたら、シャワーの音が大きくなって。
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結局、俺にはどうする事もできんかった…。
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無理やりドアを開ける事も、泣いてる背中を擦ってやる事も…一緒にいることすら。
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「明日、また連絡するから」 そう残して部屋を出た。
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でも、カンナが心配で…家に帰ろうと思ったものの、足は止まったまま。
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 近くのコンビニの前、縁石に腰かけると、さっきの泣き声が耳の奥に響く。
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  「一人にして欲しい」 それが、カンナの強がりなんか、本音なんか、俺にはわからんくて。
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  2年もそばにいてるのに、俺は…。
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見上げた月が、少しずつ雲に覆われていくのをじっと見てた。
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何とも言えない、不安が俺の中に広がってく。
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.…next
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年明け一発目、重たいとこになってしもた💦💦何かすみません。   himawanco
   
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