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tomorrow〜scene31〜

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「円…それは?」

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「ん?あっ…これ」

円の手に握られてるもう一つの封筒。

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「壱馬くんへ…なんやけど。明日美がさ…『捨てて』って。これ…捨てたらいかんと思うん。彰吾…これなんやけど…」

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円が、開けた封筒の中身を俺へと差し出す。

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「…っ」

その中身と、『捨てて』の理由を聞いて、改めて気づく。

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『どうがんばっても、俺は壱馬の代わりにはなれない』って。 

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「円…それ、俺が預かるわ」

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「えっ…」

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「これは、絶対壱馬に渡さないかんやつやけん」

…これは、俺の役目やってそう思った。

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壱馬 side

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「もう一回、みんなと同じ場所に立てるように、頑張ります。 よろしくお願いします」

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明日美さんと岡山に帰ったはずのその人が、今、リハで集まった俺らの前で頭を下げてる。

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突然の発表に、嬉しいのにうまく反応できないメンバー。 

少しのざわざわの後「よっしゃー!」って翔平の突き抜けるようなでっかい声に、俺らもようやく今の状況が飲み込めてきた。

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『明日美さんは…?』

他のメンバーみたいに120%で喜べない俺。

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「壱馬…」

その日のリハが終わった後、やましょーさんから「ちょっとええか?」って廊下の隅へと連れて来られた。

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「明日美の事なんやけど…」

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「一緒に岡山って…」

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「これ、預かってきた。円経由で。

壱馬に渡さないかんって思ったから」

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差し出された封筒を開くと、

『壱馬くんへ』

そこで手紙は止まってた。

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「『なんて書けばいいかわからん』ってずっと泣いてたって…明日美」

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「えっ…」

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「『どう文字にしたら私の気持ちが伝わるんかわからん。 勝手に『別れて』って言うて、『ごめんね』も『ありがとう』も言えんくて。 でも、ほんまは一番言いたかったんは『大好き』やのに。

それはズルいやん?

もう、わからんよ…。円…どうしたらええ?』って。

『大事な事は目見て言いたい、自分の言葉で伝えたい』って。 それができんってなったら、どうしたらええかわからんのんよ…』って」

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「…」

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「…大切なんやと思う。壱馬の事が。だから、何も書けんかったんやと思う」

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「…」

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俺の名前が書かれてあるだけで、後は白紙の便箋。

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何も書いてないそこには、彼女の揺れ動く感情と、俺への気持ちがびっしり書かれてる気がした。

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「壱馬?みんながみんなお前みたいに、真っすぐに正しい方を選んで生きてけるわけじゃないんよ。弱い人間やっておる。俺やってそうや?

もう歩けんって時やってある。逃げてしまいたいって思う事やって。

明日美の事、…お前に何も言わんでおらんくなった事、許してやって欲しい」

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許すとか許さへんとかそういう問題じゃない。

『俺にできる事はなかったんか?』ってそれが頭の中をぐるぐるする。

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あの日、駆け付けたんが、俺やったら…。

いや、何もできんかったかもしれん。 今の状況を覆すような何かを自分ができたとは、到底思えんかった。


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「結局、白紙のまま。あいつはアメリカに行ってしもうた」

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「アメリカ…?」

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「洋服の仕事やって…それだけは円から聞き出した。後は、場所も連絡先も教えてくれんかったわ…」

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彰吾side

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「明日美にとっての、壱馬の存在って、俺とは全然違うんよ…やっぱり。

その手紙もそうやけど…」


「……?」


「手…。」

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「手?」

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「俺が、『踊れん』って明日美にいうた事があったん。

もう『逃げたい』って。そん時な…明日美、俺の右手を握ったんよ」

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「…」

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「きっと、お前が俺の立場やったら、あいつは抱きしめたんやろなって思う。

あんとき、俺ちょっと冷静になったんやって。

あっ、明日美にとっての俺ってずっとこの位置なんやろうなって。

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何を期待してたんやって話しなんやけど…。

何か、ストンって本来の自分の場所に落ち着いた気がしたんよ。

『そうよな』って。

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「っ…」

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「明日美の連絡先、円は知っとるけん。聞いたら、教えてくれると思う」

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「…」

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「タイミングは、お前に任す。」

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「…」

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「『がんばる』って決めた明日美を、待っててやって欲しい。 …それで、いつかあいつが戻って来たら、この手紙に書こうとした気持ちを、直接聞いてやってくれ…頼む」

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「…はい」

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握った封筒をじっと見つめたままの壱馬に

『もう一つどうしても伝えたい事…』

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「壱馬? ありがとうな…」

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「っ?」

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「あの日、『待ってる人がおる』って教えてくれて。…俺の事を待っててくれてありがとう」

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ずっと、開いてなかったスマホには、メンバー、スタッフさん、先輩、 たくさんの人から『待ってます』って言葉や、声が残されてた。

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一つ一つ、それを噛みしめるように、胸に刻んでく。 それはもう一度立ち上がる俺の背中を支えてくれるもの。

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『がんばれ』って伝えてくれるもの。

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それを教えてくれたんは、あの日の壱馬やから。

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…next

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