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if…〜Lastscene〜
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「はぁ…」
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2人を見送って、暖簾をくぐると、何も言わずに俺の前にどんっと置かれた一升瓶。
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「飲みますか、やまちゃん」
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「…はい、お願いします」
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トクトクとグラスに注がれてく透明な液体。 
8分目まで来ると「この位にしとこ」ってたかひろさんが、俺にグラスを差し出した。
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「明日美ちゃんだったんだ…やまちゃんが好きな子。友達としてでもいいから、側にいたいって、前言ってた子」
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「はい…。
で、どうあがいても俺には勝ち目がない後輩。壱馬の事です。 
見た目も、中身も…。いや、中身の方が…かな。
もう勝負しようとすら思えないっす、正直」
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「…ん、俺もそんなよく知ってるわけじゃないけど、まぁ、真面目で、明日美ちゃんの事、本当に好きなんだろうなって、それはわかる」
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「…ですよね」
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「前にさ、『好きだけしかなくて…自分がいる意味がわからない』って言ってて『真面目か!』って言いそうになったからね(笑)」
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「壱馬でしかないっすね、それ(笑)」
グラスを持ち上げて、喉に流し込むと、さっきまで飲んでたビールとは違って、度数の高いアルコールに喉が狭まって指先まで一瞬で熱が伝わる。
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「さっき…真ん中に明日美が座ってたじゃないですか?何か話しする度に、あいつが壱馬の方を向いとって…。『あぁ…好きなんやなぁ』って、 『やばっ、キツっ』って正直なってました」
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「(笑)知ってる。途中まで、ものすごい勢いでビール飲んでたもんね、やまちゃん」
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「でも…。俺、壱馬とも結構付き合い長いんですけど。 あんな、優しい顔した壱馬って、見たことなくて。
『2人、お似合いやん』って途中で、何か吹っ切れました」
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「そうなんだ。俺、てっきり飲みすぎて気持ち悪いのかと思ってた(笑)。急に飲むペース落ちたから」
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「(笑)ちゃいます。
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俺…『もし』ってずっと思ってたんっすよね。 『相手が壱馬じゃなかったら』って。『そしたら、俺が』…って」
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「ん…」
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「でも、今日思いました。その『もし』は、なくてよかったなって。
『壱馬じゃなかったら』じゃなくて『壱馬でよかった』って。
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好きな女にはやっぱり幸せになって欲しいなって思うけ、明日美が幸せならそれが一番やなって…。俺は『友達で』ええって」
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『ほんまは自分の手で…』 
今でもそう全く思わんか?って言われたらそれはウソやと思う。 
でも、いつか『大切な友達』って何の迷いもなくそう言える日が来るとええな。
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「俺さ…」
珍しく落ち着いたトーンの優しいたかひろさんの声に、自然に顔が上がる。


「…思うんだけど。
やまちゃんが壱馬くんに何かが劣ってるなんて事ないよ?
ただ、やまちゃんと壱馬くんは大切な人が辛い時にどうするかが、ちょっと違っただけだよ…。
壱馬君は、手をひいて立ち上がらせてあげる。
やまちゃんは、倒れないように背中を支えてあげる。どっちも間違いじゃない。2人共ちょー素敵じゃん。明日美ちゃん、やまちゃんに何回も救われてきたはずだよ?」
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「…ん。…そうやとえぇな」
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『少しでも支えられてたなら…』
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「やまちゃん、いい子紹介しようか? どんな子がいい?ほら、失恋は次の恋で癒すってのが、セオリーでしょ?」
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「(笑)とりあえず今はいいっす。 来年から、ツアーも始まるし。ちょっと仕事メインでがんばります」
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「よっ、やまちゃん、男前っ!!」
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「ふふっ(笑)」
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残ってたグラスの中身をぐっと飲み干して、「ごちそうさまでした」って深夜の街並みを歩き出す。
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地下鉄に乗る手前、ビルのガラスの前で踊る人を見つけた。 その後ろ姿に、昔の自分が重なる。
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『踊らん彰吾は、おもんない!』
あの日の明日美の言葉。
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「おもろい事やってこ、これからも。ん。」
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地下への階段を二段飛ばしで駆け下りてく。 
何か、むっちゃワクワクした。
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『俺の原点はやっぱり明日美やで…ありがとうな』
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if… fin
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前半パートはここまでです。
珍しくサブキャラで、ラストを締めてみました。後半も『主役か?』って位、出てくる予定です。初挑戦のやましょーさんどうでしたか?
ちょこちょこ出てくる岡山での光景は、私の古い記憶にあるものです。
噴水は今はもうないんですけどね。
私、あそこの周りに座って、駅のガラスに向かって踊ってる人たちをよく見てました。
暫くお休みして後半を始めます。
いつも私のお話を読んでくれる皆さんにたくさんの「ありがとう」を。himawanco
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