父は小卒、母は中卒の貧困家庭だった…前明石市長・泉房穂が「親ガチャに外れた」という言葉に違和感をもつ理由
1/1(月) 10:17配信
プレジデントオンライン

「親ガチャ」という言葉をよく耳にするようになった。前明石市長の泉房穂さんは「父は小卒、母は中卒で、一般的には『親ガチャに外れた』という貧乏な家庭だった。だが、政治家になる時にはそれが武器になった。若い人が『親ガチャ』に嘆くのは早計ではないか」という――。

 ※本稿は、泉房穂『20代をどう生きたらいいのか』(さくら舎)の一部を再編集したものです。

■世界と歴史の変化を意識する

 歴史の変化を意識、なんて言うと大仰に聞こえますが、「時代が変化していく途中に自分たちがいることを自覚しよう」ということです。

 世界の中に、そして歴史の中に私たちはいます。そして世界はつねに動いています。ですので当然のことながら、これからどう変化していくのか先が読めれば、自分たちがどう行動すべきかもわかってきます。

 たとえば私は市長だったとき、まずは地球儀を見るように俯瞰(ふかん)し、日本のほかの地域や世界の国、都市に視野を広げてみました。そうすると、自分たちのまちに必要ないろいろな政策が具体的に見えてきます。

 たとえば明石市で実施した無料のおむつ定期便は、滋賀県の東近江市がすでに行っていました。その制度をバージョンアップして、ただ届けるだけでなく、子育て経験のある人を担当者にして、毎回同じ人が届けて話を聞けば、育児をしている人も助かるのではと考え、自分たちの市により適応させるかたちで導入しました。

 離婚前後の子どもの養育費の立て替えも開始しましたが、これはもともとヨーロッパで行われており、それがお隣の韓国に導入されたものを、輸入しました。これは韓国の制度に準じて行っています。

■明石市の施策は「世界のどこかの成功実績」のまね事

 ソウル市では中学校の給食費無料化も行っていたので、それも導入しました。

 生理用品の無償配布はニュージーランドをまねて、全市立学校の女子トイレに生理用品を置いています。

 各種審議会に障害のある人を1割以上入れること、という条例も全国初でつくりました。これはルワンダの憲法を参考にしています。

 地球儀をぐるっと見まわして、世界のどこかですでに成功実績があり、市民にとって「これいいな」と思った施策をまねているだけなのです。

 日本だけ、自分の近くだけを見て考えていると、「これはできない」「あれもできない」となってしまいますが、視野を広げてみると、「えっ、これやってる国あるやん」「これもできるんちゃうか」となる場合がけっこうあるのです。

■アンテナを張って地球規模で広く世界を見る

 令和5(2023)年6月にようやく国会で成立したLGBT理解増進法も、G7(先進7カ国首脳会議)の国で制度がなかったのは日本だけでした。

 世界をぐるっと見たら、次に、日本における状況を見ます。社会の情勢や世論を見て、受け入れられそうなタイミング、その風はいつ日本に吹くだろうかと先を読んで、政策を打つのです。

 たとえば、令和4年、国が支給する児童手当について、明石市では独自に高校生世代まで対象を広げることに決めました。「もうすぐ時代が追いついてくる」と読んでいたからです。その後、東京都でも同様の施策の導入が決定されました。

 明石市で平成28(2016)年から実施している第2子以降の保育料無料化も、その後、ほかの自治体でも採用しはじめています。

 時代というのは必ず変わっていきます。人の価値観も移り変わっていきます。同性婚だって、少し前までは多くの人が「ノー」と言っていたのに、いまは少なからぬ人が「いいんじゃないかな」という時代でしょう。

 男性が家事育児をすることも、上の世代だとまだ「ノー」かもしれませんが、それこそみなさんの世代では多くの人が「イエス」なのではないでしょうか。

 時の少数者が時代の移り変わりとともに多数者になっていくのが歴史の流れ。いまの時代の少数者は将来の多数者になり、いまの多数者は将来の少数者になる。多数者がずっと多数者であることはなく、歴史の中で入れ替わっていくものなのです。

 アンテナを張って地球規模で広く世界を見ること、そして歴史が動いていくという時間の流れを意識することで、多くの思い込みを取り払うことができると思います。

■能力は高いのに視野が狭いエリート東大生

 視野の広さでさらにいうと、自分の育ってきた環境も影響してきます。自分の生まれ育つ環境は自分では選べませんから、まずは「自分の知っている世界がすべてではない」と意識することが大事です。

 たとえば、学校は公立だろうが私立だろうが、どこに行くのもアリ、個人の自由です。

 ただ、それこそ私立の進学校といわれるような学校に行くと、同じような高い収入で、教育意識の高い親のもとで育った人間ばかりが集まります。それはそれで悪いことではないのですが、「その狭い世界であたりまえ」のことは、「一歩出ると、まったくあたりまえでない」なんてことはよくあります。

 同質性により閉じた世界にいると、多様性に富んだ世の中全体が見えにくくなる可能性が高いということです。

 私が東大にいたときにすごくもどかしかったのは、自分たちの能力を世の中のために役立てようとしていない、そんな学生たちが一定数いたことでした。

■官僚が国民のための施策を実現できない理由

 その人たちは将来の出世のことばかりせこく考えていたようです。出世主義の両親のもとで育ってきて、家庭教師をつけてもらって進学校に行って、ゴルフ部に入って、その先輩に引っぱってもらって中央省庁に行く、みたいな人たちです。

 「何のために勉強しとんねん! 世の中よくするためやないんか! そんなんで人生楽しいか!」

 と思いました。

 「せっかく勉強して東大に合格するだけの能力があるのなら、その力をもっとみんなのために生かそうよ」
「せこい将来設計なんてしていないで、困っている人を助けるとか、もっと世の中を変えていったほうが楽しいんちゃうの」

 とも思っていました。

 そんな人たちが中央省庁に行っても、「国民」のためのことなんてできるわけがありません。だって多くの国民の実態を知らないのですから。

 私はというと、貧しい漁師の家に生まれたことは前述のとおりです。

 父は小卒、母は中卒で、会話で使う言葉も小学生レベルくらいにしないと難しいし、弟は障害者です。でもそういう庶民の生活、また少数者の生活を「肌感覚として知っている」というのは、まちづくりをしていく際には大きな強みになったと思っています。

 くり返しになりますが、進学校に行くな、と言っているのではありません。大学だってそうです。ただ、

 「試験や家庭の経済力で選別された環境にいるあいだは、見ている世界が狭いかもしれない」

 と自覚しておく必要があるということです。

■小卒の父、中卒の母の「ハズレ」家庭でも発想の転換次第でうまくいく

 「親ガチャ」という言葉をよく耳にするようになりました。たしかに、「ランダムで出てくるので自分では選べない」ガチャガチャのように、生まれてくる子どもは決して親を選べません。容姿や身体能力などの遺伝的なものや、金持ちかそうでないかといった家庭環境も子どもが選べるものではありません。運しだいで「アタリ」か「ハズレ」かが決まる。うまいことを言うものだなと思います。

 ただこの言葉は、「親ガチャに当たった」なんて言い方はほとんどされず、あきらめやいらだちをこめて「親ガチャに外れた」などと言われることが多いようです。

 私は「親ガチャ」という言葉にはよい面と悪い面の両方があると思っています。

 家族内で虐待があるような場合は明らかに「ハズレ」だと言っていいかもしれません。でも実際は、この言葉がそれほど大変でない状況で、「あきらめや自分に対する言い訳のように使われている」ように見受けられます。

 私の場合を言えば、貧乏な家庭環境に育ちました。一般的に、これは「ハズレ」と言えると思います。ところが、ここからが発想の転換のしどころです。

■選挙は「ハズレ」エピソードのほうが有権者に刺さる

 選挙では、「ハズレ」であるこの貧乏が、大きな武器に変わります。というのも、どれだけ人々の共感を得られるかが重要だからです。貧乏話は人々の共感をよびます。実際には、貧乏の話そのものよりも、貧乏でくやしかったことや苦しかったことがみんなの共感をよぶようです。そもそも富裕層は国民の1割にも満たないのですから、当然といえば当然です。

 一方、裕福な家庭で育った「アタリ」候補者は、少なくとも自分の経歴についてはそれほど語ることがないように思います。選挙で「私は金持ちの家に生まれました」なんて言ったら、人々から反感をもたれることでしょう。

 これはあくまでも一例ですが、家が貧乏だからすべてマイナスかというと、決してそういうわけでもありません。貧乏だから大切なことに気づくこともあるし、「貧乏だから頑張ろう」という動機につながることもあります。

 「親の年収が子どもの学歴に影響する」という統計はありますが、親ガチャが「ハズレ」だったとしても、それで自分の人生をはじめからあきらめるのは、もったいない気がしてなりません。

■貧乏でなければ人生が裕福になるとは限らない

 よく「やる気スイッチ」なんて言いますが、厳しい環境があってこそ、心がふるえるような気づきや自分自身の頑張りにつながることもあると思います。

 「親が子どもに理解がない」という理由で、自分の道をあきらめようとする人もいるかもしれません。

 でも、考えようによっては、親に中途半端な理解があると、子どもはかえって親に気をつかって、顔色をうかがいながら自分の道を決めてしまうこともあります。

 そういう意味では、いっそまったく理解がない親のほうが自由にできるものです。だから、親がまったく無関心ということも、必ずマイナスになるとは限りません。

 「うちは貧乏だから」とか、「親の理解がないから」とか言うのは個人の自由です。

 でも、そのときに少し考えてみてください。

 もし貧乏でなければ、人生はよりよくなったのでしょうか。親の理解があったら、人生は成功したのでしょうか。

 冷静に考えてみて、もしそれが「自分が何かをできていないこと」に対する言い訳だとしたら、「やる気スイッチ」を入れるべき時期が来たということなのかもしれません。

 さらにいうと、本当に「ハズレ」だとしても、「この親でなければ」と不満を言うより、「生まれた家庭環境によって自分の道を閉ざすような社会」のほうに目を向けて、そんな冷たい社会を変えていく方向へと、発想を転換してはいかがでしょうか。

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泉 房穂(いずみ・ふさほ)
前明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。
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ナスのヘタに含まれる天然化合物、子宮頸がん細胞に抗腫瘍効果 名大
1/5(金) 16:35配信
Science Portal

 ナスのヘタに含まれる天然化合物に、子宮頸がん細胞への抗腫瘍効果があることが名古屋大学の研究チームの実験で明らかになった。同じウイルス性疾患の尖圭コンジローマで効果が見られたことから、ヒトの子宮頸がん細胞に応用し投与した結果、細胞死を誘導することが確認されたという。「作用が強すぎない抗がん剤などの創薬が期待できそうだ」としている。

 子宮頸がんと尖圭コンジローマは型の異なるヒトパピローマウイルス(HPV)から発症する性感染症だ。

 ナスのヘタはHPVによってできる尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)という手足のいぼを取る民間療法薬として使用していた経緯がある。名大医学部付属病院の吉原雅人助教(婦人科腫瘍学)らの研究チームは、ヘタの抗腫瘍効果の可能性に着目し、先行して尖圭コンジローマへの作用に関する研究を実施。ヘタをエタノールに漬け、その液体を投与すると、尖圭コンジローマを抑制することを確認していた。

 先行研究での実績を基に今回、子宮頸がんへの抗腫瘍効果の応用研究に取り組んだ。尖圭コンジローマでの研究でナスのヘタから抽出された天然化合物「9-oxo-ODAs(ナイン オキソ オーディーエース)」を化学メーカーから取り寄せ、マウス体内や検体として摘出したヒトの子宮頸がん細胞に作用させたところ、アポトーシス(細胞死)が認められた。ナイン オキソ オーディーエースの濃度を上げるほど、細胞死が進むことも分かり、抗腫瘍効果が認められたという。

 子宮頸がん細胞は細胞の正常の周期と異なり、乱れた周期になるため、異物と認識されて排除されることなく増殖する。近年のゲノム解析により、子宮頸がんの発現・進行に関与するがん遺伝子であるE6とE7というタンパク質が出てこないようにすれば、子宮頸がんは完治が望めることが分かっている。

 研究チームの茂木一将医師(婦人科腫瘍学)は「ナイン オキソ オーディーエースが子宮頸がん細胞の周期の乱れを整えることで異物として認識させることや、E6、E7の発現を抑えるよう働きかけることでアポトーシスに誘導できているのではないか」との仮説を立てている。

 子宮頸がんは幅広い年齢に発症するがんだが、前がん病変の異形成を検診で見つけることができる。だが近年、妊婦健診で進行しているがんが見つかり、妊娠を継続するかどうか患者が厳しい選択を迫られる症例もみられるという。治療には主に投薬と手術があり、妊婦に使える抗がん剤はあるものの、胎児への影響を気にする母親もいる。

 今後は実験データの蓄積を行い、産学連携などで治療薬に結びつけられるように研究を続けるという。子宮頸がんにはワクチンや自治体検診といった防御の機会があるが、「前がん病変の段階で、例えば塗り薬で治療できるとなれば、HPV疾患への有効な治療法になる」と吉原助教は話している。

 成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」2023年11月6日付け電子版に掲載され、名古屋大学が同16日に発表した。
「やんのかテメエ!」酔って妻を殴り殺したDVツーブロック男に懲役8年の判決…週末にはバーベキューを開いていた自慢のウッドデッキ付き自宅は競売に…〈愛川町・撲殺事件から10カ月〉
2023/12/30(土) 16:01配信
集英社オンライン

酒の勢いで妻を撲殺した“ツーブロック男“に下った判決は、わずか懲役8年だった。神奈川県愛川町中津の自宅で妻に暴行を加えて死亡させたとして傷害致死罪に問われた建築業、伊藤裕樹被告(35)の裁判員裁判の判決公判が10月3日、横浜地裁であり、足立勉裁判長は懲役8年(求刑・懲役10年)を言い渡した。

酒に酔っては暴力を振るう姿は友人らにも見られていた
判決によると伊藤被告は2月19日、自宅で妻の初音さん(当時26歳)と口論になり、玄関前の駐車場に突き飛ばして転倒させ、室内に戻った後も顔を繰り返し殴るなどして、外傷性くも膜下出血と急性硬膜下血腫で死亡させた。足立裁判長も指摘したように、怒りにまかせたあまりの、激しく執拗な暴行だった。

伊藤被告は自宅周辺では、シラフのときは気のいい大工の兄ちゃん風情だが、酒に酔うと一転、トラブルが絶えない要注意人物として有名だった。SNSなどによると2017年8月に初音さんと結婚、間もなく息子が生まれたが、酒に酔っては初音さんに暴力を振るう姿は友人らにも見られ、注意されていた。また、夫婦げんかから揉み合いになり、警察官が駆けつける騒ぎを何回も起こしていた。

さらに大工の腕前を生かしてウッドデッキを作り、週末ごとに仲間を呼んでバーベキューを開いては泥酔してドンチャン騒ぎを繰り返す迷惑な「パリピ」として知られていた。事件当時、近所の男性も取材にこう語っていた。

「酔っ払うと横を通りかかる近所の人を睨みつけたり、仲間同士で『てめえ、やんのかコラ!』とか口論になったりね。みんなガラが悪いから怖くて注意もできないし、駐車場でバーベキューをやるときは車でやってきていたから、飲酒運転もバリバリやってたよね」

一方で妻の初音さんは可愛らしい印象だが、酒が入ると気の強い一面ものぞかせ、伊藤容疑者と口論になった際は突っかかることもあったという。また、ポメラニアンを飼って可愛がり、広場や公園に散歩に出かけると近所の子供たちに犬を触らせて遊ばせてくれる「優しいお姉さん」としても知られていた。

事件から10ヵ月、判決から2ヵ月以上が経ち、年の瀬を迎えても、近所の人たちにとって事件の記憶はまだ生々しかった。近くに住む60代男性はこう語った。

「事件が起きてからこの家には、伊藤被告の親族や同僚が定期的に来てるよ。つい3日前にも同僚っぽいのが家に来てたよ。荷物を運び出してるところをよく見かけるから、ちょっとずつ運び出してるんだろうな。庭にあった物置を運んでるとこ見たけど、子どもの自転車なんかはまだそのままなんだな。あいつの家は親父が建築業を営んでて、跡取り息子だから調子乗ってたんだろう。事件後の荷物運びは同僚がやらされてるんじゃないか」

男性は、伊藤被告の父親も見かけたことがあるという。

「事件数日後だったけど、伊藤の親父が仁王立ちしてこの家を見上げながら、舌打ちしたりして怪訝そうな顔してたよ。息子が事件起こしたってのにあの態度はねえよ。それに比べて、殺された奥さんの父親は声も掛けられないくらい落ち込んで、やつれた顔でポメラニアンを連れてってたね。

伊藤と同じ職場のやつに聞いたことあるけど、この家も競売に出すかもしれないって話だったよ。今思い返してもふざけたやつだよな。いつもは大人しくて奥さんの尻に敷かれてるようなタイプなのに、酒が入ると本当に粗暴になって近所の人に『文句があるなら直接言えよ!』とか凄んだりしてたからな」

奥さんは美人なだけでなく本当にいい人でした
伊藤被告から、直接被害を被った住人もいる。60代のその男性は、苦々しい表情を見せた。

「前にうちの塀に車ぶつけやがったんだよ。2022年の夏ごろかな、夜中に『ガッ!』って感じの大きい音がしてなんだろうと思っていて、朝、外に出てみたらうちの塀が削れ落ちてたんだ。伊藤が『知らないっす!』とかシラを切るもんだから、『車の傷と塀の高さが一緒だし、夜中に音も聞いてんだよ』って問い詰めたら、奥さんが伊藤に『私じゃないからお前だろ、正直に言えよ』って助けてくれたんだよ。

伊藤はようやく観念して『弁償します…』とか言ってたんだけど、見積もりとかモタモタしてたら逮捕されちまって泣き寝入りだよ」

初音さんに好印象を持っていた住民は、ほかにもいた。

「事件の数日後、奥さんの兄弟かご親族の方にはお会いしました。ひどく落ち込んでる様子で、『お悔やみ申し上げます』と挨拶したらボロボロと涙をこぼし始めました。思い出させてしまったようでとても心が痛みました。奥さんは本当にいい人で、美人なだけでなく、近隣の年寄りの長話にも付き合ってくれたりもして、まわりからすごく好かれてたんですよ」(70代の女性)

60代女性も、悲しみをこらえるようにこう語った。

「なんで判決が懲役8年なんだって、近所でも話題になったんですけど、やっぱり短く感じるってみんな言ってますね。というのも事件前から2~3回くらい夫婦げんかで警察がきてるんですよ。口喧嘩で済まずに手を出されたから奥さんが通報したって感じですね。報道の内容だと事件のときも同じような展開だから、伊藤は全然反省してないんですよ。

ケンカがきっかけなのか、奥さんが子どもを連れて3ヵ月くらい家を出てたこともありました。事件が起きる数日前から奥さんの姿も見ないし、子どもの声も聞こえてこなかったから、また家を出ているのかなって思ってたんですけどね。近所の子どもたちもワンちゃんと遊ばせてもらってたから、『もう会えないの?』って悲しんでますよ」

幼い息子を残し、犬も食わない夫婦げんかで若い命を散らした初音さんの無念が、伊藤被告の胸に響くことはあるのだろうか。一審判決後の期限までに検察側も含めて控訴はなく、伊藤被告は懲役8年の刑が確定した受刑囚となった。

出所後に再び、酒を口にしないことを祈るばかりだ。


取材・文 集英社オンラインニュース班
男(75)が語った「後悔」と「孤独」
12/26(火) 6:02配信
NBC長崎放送

「早く妻がおるとこに行って謝りたい。一日も早く行きたいです」

40年連れ添った妻を殺害した罪に問われている75歳の男は、法廷で涙ぐみながら声を震わせ、こう証言した。

近所では「仲の良い普通の夫婦」と認識されていた2人に何があったのか。
法廷では「金銭的な不安などがあり、殺害を避ける方法は思いつかなかった」と述べ、寝たきりになった妻を抱え、周囲に助けを求めることもできず、身勝手な犯行に及んだ過程の一端が明らかになった。

■終わったな。娘のところに行って成仏してくれ

殺人の罪に問われているのは佐世保市の無職、前田敏臣被告75歳。
前田被告は今年3月、長崎県佐世保市世知原町の市営住宅の自宅で、当時74歳の妻の首を締めたあと、刃の長さが約20センチある刺身包丁を首に突き刺したとして殺人の罪に問われている。

この裁判は裁判員裁判で行われており、12月8日に長崎地方裁判所で開かれた初公判で、被告は起訴事実を認めた。裁判のポイントは量刑(被告人に科すべき罪の重さ)となっている。

検察官:
──犯行時、お酒を飲んでいましたか?
被告:「はい」

──殺害にお酒の力を借りようと?
「少しはありますね」

──まず首を絞めた?
「はい」

──なぜ?
「包丁とか使いとうなかったけんですね」

──どのように絞めたんですか?
「バスタオルを上に被せて、左手で口塞いで、右手で絞めた」

──バスタオルをなぜ被せたのですか?
「声を出されんごと」

──苦しんでいる様子は?
「最初だけ『苦しかたい』とだけ」

──騒がれると困るのはなぜですか?
「近所の人に聞こえて誰か訪ねてきたら困ると」

──次にどうしましたか?
「台所に行って包丁を持ってきました」

──刺すためですか?
「そうです」

被告は、妻の顔を押さえ、刺し身包丁でバスタオルの上から妻の首を1回突き刺した。

──バスタオルに血が滲んで どう思いましたか?
「終わったなと。妻が死んだと思うた」

──その後はどうしましたか?
「すぐ娘の仏壇に行って、線香立てと線香を 持ってきて、すまんやったと手を合わせてソーセージやお菓子をあげました。娘のとこに行って成仏してくれと祈りました。疲れて布団に横になったら、そのまま寝てしまいました」

──後悔は?
「しました」

■結婚約40年「仲がいい普通の夫婦」

75歳の被告は車いすで入廷後、右の耳に補聴器をつける。被告人質問などでは、弁護人や裁判官からマイクを通した声が聞こえているか何度も確認されながら公判は進行した。

被告は1987(昭和62)年に妻と結婚。子どもに恵まれたが、生後間もなく死亡している。被告によれば、約40年間の夫婦生活のなかで暴力を振るったことは一度もないという。

事件直後、夫婦が住むアパートの近所の人に被告と妻について話を聞くと「仲がいい。夫婦で買い物に行ったりと普通の夫婦だった」という。

法廷で弁護人から「夫婦喧嘩はあったか」問われると──

「大きな喧嘩はない。口では私が負けるので言い返すことはなかった」

被告は、地元の建設会社に勤めていたものの倒産。退職金280万円を得たが、このうち200万円が返済で消えた。「妻の親戚の保証人をしており負債を被った」という。その後、別の建設会社で働くものの、約8年で再び倒産。
次にアルバイトで務めた会社では『墓石を立てる』などの肉体労働をしていたが、次第に仕事がなくなり、最後は月に3日ほどだったという。

2021(令和3)年2月頃、「体も弱くなった」と感じて退職。以来、夫婦の収入は2人の年金のみとなった。2か月に一度、被告には19万円、妻には14万円支給されていた。

■親族に借金を重ね 昼はカップラーメン

冒頭陳述によると、2014(平成26)年3月、被告人と妻は、佐世保市にある市営アパートに入居。

妻には高血圧症や気管支喘息などの持病があり、複数の医療機関に通院、薬の処方を受けていた。
妻は、血糖値の測定やインスリンの注射が自分でできず、いつも被告がやっていたという。

夫婦は、市営アパートの家賃や駐車場代のほか電気代も滞納。
アパートの管理会社からは「3か月払わない場合、出て行ってもらう」か「“保証人”に請求する」と通告された。

その“保証人”となっていた親族にはすでに借金があったという──

弁護人:(保証人に請求すると)言われてどう思いましたか?
「困るな―と。(夫婦)2人の問題で、とにかく、2人でどうにか頑張ろうと」

夫婦は、夫の肉親や妻の親族らに借金を重ねていた。
支給される年金は返済に回され、加えて妻の通院費用や薬代がのしかかった。
弁護人によると「自転車操業だった」という。

生活は困窮し「毎日、昼はご飯とカップラーメン。夜は、スーパーで買った99円の惣菜だった」

親族は、地域の民生委員に「被告を市役所に連れて行って欲しい」と相談。
市役所では高額医療費の限度額適用申請を行ったが、生活保護については「2人の年金受給額では対象にはならない」との回答だったという。

■タバコ代が夫婦で月に6万円

検察によると、滞納していた家賃と駐車場代は約5万8千円。
年金は2人合わせて2ヵ月に一度、約33万円支給されていた。また犯行当時、約9万円の預貯金があったという。

弁護人:
──年金だけでは生活できなかった?
被告:「少なかったですもんね」

──生活費には足りない?
「全然足りんです」

──お金の管理は?
「お金の管理にはほとんど関わってないですね」

──奥さんのお金の管理を信頼していた?
「はい」

──奥さんが金策を手伝ったことは?
「それはなかったです」

──お金の節約のためにタバコを止めようとは思わなかったんですか?
「(私は)タバコを安いのに変えて1日1箱に。以前は(夫婦)2人で6万円ほど(使っていました)」

──止めようと思わなかったんですか?
「(妻に)一緒に止めてもらえんかって言いました。そしたら“私は止めないよ”と」

■妻の入院費を借りようとして「余計なことするな」

犯行の約1か月前の2月5日ごろ、被告は急に立てなくなり、後ろに倒れたあと左足が全く動かなくなった。しかし金がなく、病院には「歩けるようになってから行こうと思った」という。

2月25日、被告は左半身がしびれている状態で、自ら運転する車で妻を通院のため病院に連れて行った。病院で、被告は『手足のしびれ』について、妻は『足の皮膚炎』について、それぞれ専門医を受診するよう勧められたあと、妻が座り込んで立ち上がれなくなった。

弁護人:
──(妻の)入院費用をどうしようと思いましたか?
「金を借りてでも入院させようと。病院から戻って親族に何とか協力してもらおうとしたら(妻が)『余計なことすんな、絶対したら駄目よ』と。そいで、おかしゅうなった。どうにもならんなと思うた」

──なぜ怒ったと思いますか?
「(寝たきりの姿を)身内に見せたくなかったんじゃないかと」

3月8日、被告が介助し、杖を使えば立つことができていた妻が立てなくなった。コタツで寝た状態から全く動けなくなったという。

3月11日、今度は被告が親族の前で倒れた。病院に運ばれるとCT画像を見せられ「軽い脳梗塞の疑いがある。仮入院が必要だ」と言われる。

弁護人:
──(医師には)どう答えたんですか?
「妻が寝たきりで行かれんですと言うたら、かかりつけ医に行って(奥さんの)入院先を見つけてもらいなさいと。検査しないとあなたも大変なことになりますよと」

■「お父さん私を殺すとね」「すまん勘弁せろ」

3月12日、被告はスーパーで焼酎を買った。その日の夜、被告はなかなか寝付けなかった。

弁護人:
──なぜ寝付けなかったんですか?
「『親族に電話するな』とか(妻に言われて)パニックに…どうしていいか分からんような状態だった」

そして被告はこう考えたという──

「(こうなったのは)夫婦2人の責任やけん、私が刑務所に入って。妻に犠牲になってもらわんばと」

──事件を避ける方法はあったと思いますか?
「私の頭では思いつかんですね」

──奥さんの気持ちを無視しても、親戚に相談すれば良かったのではないですか?
「考えんやったです」

3月13日、被告は就寝中の妻の顔にバスタオルを掛け、左手で妻の口を塞ぎ、右手で首を絞めた。

弁護人:
──殺そうとして、まずどうしたんですか?
「朝方、手で首絞めて…片手では絞めきれんやった」

──奥さんとはどんなやり取りをしましたか?
「“私を殺すとね?”と言われ、すまん、勘弁せろ、と。そのあと(妻は)もうしゃべらんやったです」

──奥さんは逃げようとしましたか?
「なかったです」

──動かなかったことをどう思いましたか?
「覚悟したとやなかかなと」

──奥さんに言いたいことは?
「ただ『すまなかった』というだけです」

■早く妻のいるあの世に行って謝りたい

逮捕後に行われた精神鑑定で、犯行時、被告は「軽度認知障がいで、認知症の疑いがあるが(日常生活などの)適応機能は保たれていた」とされた。
また精神科の医師は「親族から金を借りづらい心情で、妻が入院すると生活費が底をつくと計算した」「犯行前、“万策尽きた”状態で、心理的な苦痛が高まり、酒の力を借りて殺害を選択した」と分析。
その背景には“孤独の心理”もあったと補足した。

弁護人:
──孤独だったと指摘されたが、相談できる人は?
「妻には相談できなかった」

──妻以外には?
「親族に電話したら(妻から)“(金を)借りたらいけん”と言われた」

──最後に言いたいことは?
「今になって思うたら、なんていうか…仏さんになったらあの世に行くというけど、私が遠いとこに行けたらすまんやったと言いたくて」

■“人命軽視” 懲役15年を求刑 弁護側「将来への絶望と介護疲れ」

論告弁論のなかで、検察は「殺傷能力の高い凶器で体の重要な部分を刺すなど犯行態様は極めて危険。殺意が強固で人命を軽視している。
2か月に1度の約33万円の年金収入と、預貯金が約9万円あるなか、滞納していた家賃は約5万8千円で、重大な経済的課題とはいえない。
自分勝手な理由で殺害に及んでおり、短絡的で強い非難に値する。
また妻が寝たきり状態になったのは事件5日前であり“介護疲れ”による犯行ではない」などとして懲役15年を求刑した。

一方、弁護側は「経済的な将来への不安と、妻の介助、自身の病気などで絶望して犯行に及んだ。犯行後は逃亡せず自首している。また犯行当時、被告は軽度認知障がいの状態だった」などとして「“介護疲れ”の事情を踏まえて量刑を決めるべき」と述べ「懲役3年、執行猶予付きの判決が相当」とした。

この裁判は裁判員裁判で行われており、判決は今月26日に言い渡される。
世の中に嫌な奴なんかいない。

いるとしたら、それは自分で勝手に嫌な奴に仕立て上げているだけ。