ビッグソルトの秘密 -2ページ目

ビッグソルトの秘密

人生60年を超えて、これまで積み重ねてきた経験を
今ここでカミングアウトしていきます。

ー2013年10月ー
秋の涼しさが感じられるようになった街
ここは静岡県静岡市。
気候も温暖なこの地で生きる僕・大塩彰53歳は、とある幼稚園の園長・理事長を兼任していた。
新年度が始まり、慌ただしい毎日を送っていた僕は、その日の仕事が終わり家に帰ると
仏壇に報告をして夕食の支度を始めていた。
そう、女房は1994年1月に病気で他界していたのだ。
毎日僕の帰りを待っているのは、21歳フリーターの長男と20歳の大学生の次男、2匹の犬と5匹の猫だった。
この物語は、そんな僕が歩んできた、まだ誰にも知られていない秘密を
事実を元に多少盛ったりもした、半分ノンフィクションなストーリーである。

時は2013年10月4日、6日前に20歳の誕生日を迎えた啓輔(次男)。
それを気に僕は、当時岩手県盛岡市で一人暮らしをしていた裕子(長女)とオンライン通話で繋ぎ、啓輔と正矩(長男)を仏前に座らせ、家族会議を開いた。
そこで僕が話したのは、妻であり子供たちの母である陽子の闘病生活だった。
僕も陽子も、生まれつき心房中隔欠損症で、腎臓も弱かった。
心房中隔欠損症・・・それは心臓に穴が空いてしまう病気で、妊娠出産が難しいと言われた。
養女として裕子を授かった僕たち夫婦に、待望の妊娠が!
陽子の覚悟を確信した僕は、出産にかけたのだが、かかりつけの産婦人科から断られてしまった。
やがて母親たちの同級生がやってる助産院にお世話になり、無事に長男・正矩を出産した陽子は、新たな覚悟を決めていた。
そして次男・啓輔を妊娠。1993年9月27日、陽子の体に異変が現れた。

 僕 「入園説明会が終わった幼稚園の職員室で、おかあさんは突然破水したんだ。啓輔が産まれたがってたんだよ。」
裕子(長女)「あの時は大変だったよね!」
正矩(長男)「何が大変だったの?」
 僕 「正矩はまだ1歳6ヶ月だったから、記憶がないんだろうけど。お母さんのお腹の中で啓輔は、へその緒を首に巻きつけてしまったんだ。だから啓輔は何時間経っても出産できなかった。」
 僕 「そしてやっと産まれた啓輔は・・・」
 僕 「窒息寸前で、おぎゃあの声が出せなかったんだ。」
啓輔(次男)「えっ!?」
 僕 「でも啓輔は今、こうして生きている。」
裕子「助産婦さんが啓輔を逆さに持ち上げて、お尻を叩いたら、啓輔ったら泣いたんだよ。」
 僕 「助産婦さんは、もっと昔のお父さんやお母さんを助けてくれて、そして正矩と啓輔も助けてくれたんだよ。」
 僕 「正矩の時もそうだったけど、啓輔の時も、お父さんお母さんだけじゃなく、家族も親戚も友達みんなも幼稚園も、すごく喜んだんだぜ。」
 僕 「そして裕子も含め、お前たちの命はもっともっとかけがえのないものになっていった。」
僕はパソコン画面上の裕子を見て
 僕 「お母さんにはお母さん自身が決めた、もうひとつの仕事があった。その時・・・いや、それ以前からお母さんは、自分の死期を感じていたのかもしれない。」

裕子「お母さんはね、啓輔がお腹にいた頃から随分、まだ小学二年生だった私にいろいろ教えてくれていたんだよ。」
裕子「お料理、お洗濯、お掃除、お金の扱い、お父さんとお前たち、つまり男三人の操縦方法(笑)」
 僕 「お姉ちゃんは、そんなお母さんに応えるように、いろんな事を覚えていったよ。性格までお母さんによく似ちゃったけどね。」
裕子「9月28日に啓輔が産まれると、お母さんはもっと多くのことを教えてくれるようになった。」
 僕 「お姉ちゃんの料理は、お母さんと同じ味付けになっていったよ。そして1994年元日、風邪をひいてしまったお母さんに代わって、裕子が一人で家事をこなしていた。」
 僕 「1994年1月16日、あの日の朝を迎えた。」
 僕 「その日お父さんが目覚めると、台所から包丁の音とお味噌汁の匂いが漂ってきた。匂いに誘われて台所に行くと、そこにお母さんの姿があった。」
裕子「私もそのあと起きてビックリしたよ!だってお母さん、それまでずっと寝込んでいたんだよ。」
 僕 「それで裕子が正矩を起こし、お父さんは首がすわったばかりの啓輔を抱き上げ、台所まで連れてきた。」
裕子「それが親子5人初めての食卓だったんだよね!」
 僕 「そう、そして最後の食卓」
 僕 「お母さんは、『良かった・・・みんな揃って・・・』と言うと、その場に倒れ込んだ。」
 僕 「お父さんがお母さんを抱えると、お母さんは『愛してくれてありがとう』と言って、そのまま目を閉じてしまったんだ。」

 僕 「お母さんは最後の最後まで、お前たちにたくさんの愛を注いだんだ。」
僕は裕子を見て
 僕 「裕子はお父さんとお母さんの子ではないけど、自分亡き後自分の代わりになれるように、魂を込めた。」
正矩を見て
 僕 「正矩を産む時は、最初に命をかけた。だからお母さんは正矩と一緒にいた1年10ヶ月が、本当に大切だったと思う。」
啓輔を見て
 僕 「啓輔を産むときは本当に大変だったけど、そのせいか啓輔は人の苦しみが分かる優しい子に育ってくれた。それはまさにお母さんの魂だよ。」
 僕 「そんな啓輔も20歳になった。まだ大学二年生だけど、もう立派な大人だよ。」

 僕 「お前たち3人を育てたのはお父さんじゃない。お母さんだよ。お父さんはただその背中を押しただけだ。」
 僕 「お母さんの命を奪った病気は急性腎不全。今のお父さんの病気も腎不全だけど、お父さんの場合は急性ではなく慢性でさらに厄介。」
 僕 「さらにお父さんはそれ以外にも、慢性心不全も併発して、すでにそのせいで何回も心筋梗塞などを起こしている。」
 僕 「だけど今お父さんにもしものことがあっても、天国のお母さんはお父さんを受け入れてはくれないだろう」
 僕 「もっと生きろ・・・と」
僕は子どもたちに伝える
 僕 「お父さんはこれからも生きる。だけど、お父さんができなかったことは、これからはお前たちに託す。」
 僕 「お前たちがお母さんから受けた愛。これからはお前たちからいろんな人に愛を向けるんだ。」
正矩「僕たちはたくさん愛されてきたんだね。」
啓輔「みんな望まれて産まれてきたんだよね。」
裕子「そう、産まれて欲しくない命なんて、この世界にはないんだよ。」

そうしてその夜の家族会議は終わった。
部屋に戻る正矩と啓輔。だが、裕子だけは・・・
裕子「お父さん・・・」
 僕 「ん?どうした?」
裕子「まだ私たちに話してない事、あったりしない??」
 僕 「さあね!」
裕子「例えば私の事とか、ゆりの事とか、紗也香の事とか、それともお父さん自身の事とか・・・。」

それはまた次のお話で!

ー2013年10月ー
秋の涼しさが感じられるようになった街
ここは静岡県静岡市。
気候も温暖なこの地で生きる僕・大塩彰53歳は、とある幼稚園の園長・理事長を兼任していた。
新年度が始まり、慌ただしい毎日を送っていた僕は、その日の仕事が終わり家に帰ると
仏壇に報告をして夕食の支度を始めていた。
そう、女房は1994年1月に病気で他界していたのだ。
毎日僕の帰りを待っているのは、21歳フリーターの長男と20歳の大学生の次男、2匹の犬と5匹の猫だった。
この物語は、そんな僕が歩んできた、まだ誰にも知られていない秘密を
事実を元に多少盛ったりもした、半分ノンフィクションなストーリーである。

時は2013年10月4日、6日前に20歳の誕生日を迎えた啓輔(次男)。
それを気に僕は、当時岩手県盛岡市で一人暮らしをしていた裕子(長女)とオンライン通話で繋ぎ、啓輔と正矩(長男)を仏前に座らせ、家族会議を開いた。
そこで僕が話したのは、妻であり子供たちの母である陽子の闘病生活だった。
僕も陽子も、生まれつき心房中隔欠損症で、腎臓も弱かった。
心房中隔欠損症・・・それは心臓に穴が空いてしまう病気で、妊娠出産が難しいと言われた。
養女として裕子を授かった僕たち夫婦に、待望の妊娠が!
陽子の覚悟を確信した僕は、出産にかけたのだが、かかりつけの産婦人科から断られてしまった。

事実を初めて聞かされ、動揺する子供たち。
正矩も啓輔も、自分が生まれてきたことを責め始めたのだった。そんな二人の肩を抱いた僕は
 僕 「お父さんもお母さんも、お前たちに逢いたくて、生まれて欲しくて覚悟を決めたんだ。だからお前たちを産む場所を懸命に探したよ。そしてお前たちは今、ここにいる。それが何を意味してるかわかるか?」
啓輔「えっ?」
 僕 「お母さんがあることを思い出したんだ。それはお父さんもお母さんも同じ助産院で生まれたこと。」
 僕 「お前たちのおばあちゃんと、そこの助産婦さんが同級生なんだよ。俺たちは二人でその助産婦さんにお願いをしに行ったんだ。そしたら・・・」
正矩「そしたら・・・?」
 僕 「条件付きで受けてくれたよ。」
裕子「その条件てね、最後まで諦めない事だったんだよね!お父さん。」
子どもたちに笑顔が戻った。
 僕 「それから俺たちは、期待に胸をふくらませて毎日を過ごしたよ。当時お母さんは、年長さんのきく組を受け持ってた。今だから話すけど、その子たちがお母さんの最後の受け持ちだったんだな。」
 僕 「そしてお母さんは、年長さんの学年主任でもあった。そして1992年となり、お母さんの心は、赤ちゃんを無事に出産することと、受け持った子たちを元気に卒園させることだったよ。」
 僕 「その後お母さんは、スクールバスの添乗を辞退し、2月の年長さんとのお別れ遠足も、幼稚園で留守番をしていた。そして3月になった。」
 僕 「そして1992年3月17日火曜日、幼稚園の卒園式が無事に終了した。翌日、幼稚園から帰ってきたお母さんは突然大きなお腹を押さえて苦しみだした。そう、陣痛だよ。」
そこで正矩があることに気付く。
正矩「ちょっとまって!お母さんはそんなギリギリまで仕事してたの??」
 僕 「よく気がついたね。そこがお前たちのお母さんのすごいところだよ。その頃はね、今みたいに育児休暇というものがあまり浸透してなかったんだよ。育児休業が法律として認められたのは、そのあとだったからね。」
 僕 「だからお母さんは、産前産後休業の出産前6週間も出産後に当てることにしたんだ。それで8週間の出産後が14週間になる。それだけ赤ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるからだよ。」
 僕 「それともう一つ」
啓輔「もう一つ??」
裕子「お母さんは、クラス担任として・・・学年主任として・・・卒園児たちを無事に卒園させたかったんだよね!」
 僕 「そう!お前たちのお母さんはお父さんなんかまったく足元に及ばないほど、すごい人だったんだよ!」
僕は話を続けた。
 僕 「俺は陣痛で苦しむお母さんを助産院に運んだ。分娩室に運ばれたお母さん。俺は俺たちの親たちをも助産院に呼んだ。緊急事態に備えて、関連の産婦人科にも受け入れ態勢が整っていたよ。5回の力みで産まれなかったら産婦人科に運ぶと言われ・・・」
啓輔「それでどうなったの?」
僕は正矩の頭を指差して
 僕 「お前は産まれる前から頭でっかちだったんだよ。その頭がつっかえてなかなか生まれて来なかった。けど・・・」
裕子「けど・・・?」
 僕 「5回目で無事に生まれたんだよ!」
僕はその時、なんか不思議だった。
産まれてすでに21年以上経ってる正矩が、自分自身の出産の話で「よっしゃあ!」と喜んでいる(笑)
 僕 「みんな正矩の誕生を喜んだよ。そしてなぜか・・・おばあちゃん同士と助産婦さんとで同窓会の話に盛り上がってしまった。お母さんの枕元で・・・」
僕の目線は、正矩から啓輔にかわった。

 僕 「1992年3月26日、お父さんはお母さんと正矩をアパートに連れて帰った。そう、退院なんだ。そしてお母さんはお父さんの耳元で一言・・・『これであたしが無事に子どもを産めるのがわかったでしょ!』と。」
裕子「それが何を意味してるか、正矩も啓輔もわかるかな?」
 僕 「お母さんは、次の赤ちゃんの妊娠を望んだんだ。そして1993年2月下旬、妊娠3ヶ月を確認したよ。そう、それが啓輔だ。予定日はその年の10月10日、つまり体育の日だよ。」
 僕 「今回は、正矩の時と違って、すでに産む場所は決まっている。出産準備もわかっている。お父さんはそう言って自分に自信を持たせていたんだ。そして新年度になり、お母さんは年中さんの学年主任となった。もちろんクラスは受け持たなかったよ。」
僕は仏壇の陽子の写真を見ながら
 僕 「お父さんは、お母さんが安心して啓輔を出産できるように、幼稚園で頑張ったよ。」
裕子「お父さんは、本当に園児に人気だったからね。」
 僕 「そして92年度も夏休みを過ぎ、二学期となって幼稚園は運動会へと進んでいった。お母さんも大きなお腹をしながら、学年主任として指導に励んだよ。」
 僕 「そして9月27日、この日は次年度に向けての幼稚園説明会があった。お母さんはその司会進行としてマイクを持ったよ。」
 僕 「そしてその説明会が終わり、職員室に戻ったお母さんの体に異変が現れたんだ。」

もう一話引っ張って、次回後編へ続く

ー2013年10月ー
秋の涼しさが感じられるようになった街
ここは静岡県静岡市。
気候も温暖なこの地で生きる僕・大塩彰53歳は、とある幼稚園の園長・理事長を兼任していた。
新年度が始まり、慌ただしい毎日を送っていた僕は、その日の仕事が終わり家に帰ると
仏壇に報告をして夕食の支度を始めていた。
そう、女房は1994年1月に病気で他界していたのだ。
毎日僕の帰りを待っているのは、21歳フリーターの長男と20歳の大学生の次男、2匹の犬と5匹の猫だった。
この物語は、そんな僕が歩んできた、まだ誰にも知られていない秘密を
事実を元に多少盛ったりもした、半分ノンフィクションなストーリーである。

この年の9月28日、次男は20歳の誕生日を迎えた。
この日僕は、長男と次男を仏壇の前に座らせ、当時岩手県盛岡市で一人暮らしをしていた長女ともビデオ通話で繋ぎ、家族会議を開いた。
そこで僕は、妻であり子供たちの母である陽子の闘病生活について語った。
 僕 「お母さんは生まれつき心房中隔欠損という病気で、心臓に穴が空いていたんだ。そして俺もまた生まれつき同じ病気だった。」

 僕 「さらにお父さんもお母さんも、生まれつき腎臓病を持ってて・・・」

それは子供たちが初めて知る事実だった。
 僕 「だけど二人共、学校を欠席することなく元気に成長し、そして大人のなった。しかし、お互い社会人になって健康診断とか受けて、自分の体の中のそんな病気の存在を知ったんだ。そしてお互いのその病気を知ったのは、結婚前に付き合っている時だった。」

陽子「実は私、生まれた時から心臓に穴が空いてたみたいなの。そして腎臓も弱くて・・・」
僕は驚いたが、すぐに落ち着いた。
打ち明けたことで不安がる陽子の姿を見てしまったからだ。
陽子「結婚前に隠し事を持ちたくなくて・・・。でも、この病気の影響で、子供が産めないかもしれないの。」
僕は陽子の肩を抱いた。
 僕 「よく打ち明けてくれたね。実は・・・」
僕の胸の中で陽子は僕を見上げる。
 僕 「俺も生まれつき心房中隔欠損症、つまり陽子と同じ病気だ。おまけに腎臓病まで同じだよ」

✩心房中隔欠損症
生まれつきの病気で心臓病だが、その3分の1は心房中隔欠損症。
発生率は女性が男性の2~3倍で心房中隔に穴が空いてしまう病気。

 僕 「だから陽子が健康な体でも、俺が赤ちゃんを作れるかわからないよ。だから二人で乗り越えていこう!」

僕は子どもたちに話し続けた。
 僕 「そしてお父さんとお母さんは結婚し、二人のその病気の影響かわからないけど、お母さんはなかなか妊娠をしなかった。」
僕はパソコンの裕子の顔を見て
 僕 「だけど、お父さんとお母さんは・・・裕子と出会った。」

 僕 「そして1991年6月、ようやくお母さんはお腹の中に正矩(長男)を妊娠した。ここからがお父さんとお母さんの苦闘の始まりだったよ。」
正矩「えっ?俺が妊娠したのは嬉しくなかったの??」
 僕 「嬉しかったよ!お父さんは息子とキャッチボールやるのが夢だったんだから。お母さんも嬉しくて、毎回ニコニコしながら検診に行ったんだから。」
 僕 「ただ・・・」
 僕 「1991年11月になると、お母さんは産婦人科から泣きながら帰ってきたんだ。」
啓輔(次男)「どうして??」
 僕 「医者から赤ちゃんを諦めるように言われたんだって。」
僕は正矩の顔を見た。
 僕 「つまり正矩をおろせ!って事なんだ。」

正矩は大きなショックを受けた。
正矩「俺は望まれてなかったんだ・・・」
態度が荒っぽく一転する正矩を僕は抑え、裕子が正矩に話した。
裕子「正矩!こんな事で落ち込んでどうすんの!!あんた長男なんだよ!お姉ちゃんうっすらと覚えているけど、その時のお父さんとお母さんは、今のあんたなんかよりももっと辛かったんだから。」
裕子「お母さんがあんたを諦めるわけ無いじゃん!その証拠にあんたも啓輔も今生きてる!」
 僕 「そうなんだよ。だからお母さんは、命懸けで正矩を産む覚悟を決めた。だけどな、通っていた産婦人科から断られてしまったんだよ。」
啓輔「お兄ちゃんを産む場所がなくなっちゃったってこと??」
 僕 「そうなんだ。母体の安全を約束できないって。そしてお父さんとお母さんは、次の出産場所を懸命にさがしたよ。だけど、どこも受け入れてくれなかった。」

 

中編へ続く

ー2013年4月ー
桜の花が咲き乱れる街。
ここは静岡県静岡市。
気候も温暖なこの地で生きる僕・大塩彰52歳は、とある幼稚園の園長・理事長を兼任していた。
新年度が始まり、慌ただしい毎日を送っていた僕は、その日の仕事が終わり家に帰ると
仏壇に報告をして夕食の支度を始めていた。
そう、女房は1994年1月に病気で他界していたのだ。
毎日僕の帰りを待っているのは、21歳フリーターの長男と19歳の大学生の次男、2匹の犬と5匹の猫だった。
この物語は、そんな僕が歩んできた、まだ誰にも知られていない秘密を
事実を元に多少盛ったりもした、半分ノンフィクションなストーリーである。

僕は当時もっとも信頼できる友達のゆりから、借金の保証人となってしまって負債を抱えた父親のためにセクシーキャバクラで働き出した紗也香という女性を、お店から辞めさせることに成功した。
しばらくゆりと同居することになった紗也香を、ゆりの家に送る途中の僕の車の中・・・。
僕は運転、助手席にはゆり、後部座席には紗也香がいた。
 僕 「よくお店が簡単に辞めさせてくれたね・・・。」
紗也香「今日は体験入店だったの。でも今日の分のお給料はちゃんともらったよ。」
 僕 「そうだったんだね。良かった。お父さんのことは僕に任せて!」
そこに紗也香のスマホに着信が・・・。
僕は一瞬・・・『店が彼女に連れ戻しにかかったか?』と思ったが・・・紗也香は電話に出た。
紗也香「おねがい!!病院に行って!!!」
それは、紗也香のお母さんが入院している病院からだった。急変したというのだ。
急いで病院に駆けつける三人。
緊急手術中だった。
待合室の椅子に座る紗也香、その紗也香の肩を抱くゆり。僕もまた落ち着かなかった。
紗也香は父親に連絡するも、リストラ後ずっと家で飲んだくれてる父親は、出てくる様子すらもない。

緊急手術は無事に終了したが、予断を許さない状態だった。

病室で母親にそっと付き添う紗也香。そんな親子の様子を病室入口で見守る僕とゆり。
ゆり「アッキー(僕のこと)は明日も仕事だから、ここは私に任せて。」
 僕 「わかった。あとは頼むよ。とにかく明日・・・と言ってももう今日の話だけど、紗也香のお父さんに会うよ。」
僕は病室に入り、紗也香に「君も心身ともに疲れているだろうから、なるべく早くゆりと帰りなさい。」と言うと、紗也香の肩をぽんと叩いて、そのあとゆりの肩も叩いて部屋を出た。

一人家に戻る僕。僕には考えがあった。

これまで僕は、平成6年に女房が病気で他界して以来、自分の子供たちのような悲しみを他の人に味あわせたくないという想いから、いろんな人をいろんな手段で支えてきた。
そこで培った経験から、今回のことでも一つの考えが纏まったのであった。
それが僕がお店の中で紗也香に言った言葉
   「闇金にケンカ売るのは、僕じゃない。法律だよ!」

次の朝、幼稚園での朝の申し合わせが終わると、ゆりからの着信があった。
 僕 「おう!おはよう!そっちのようすはどう?」
ゆり「あれからしばらくして、紗也香のお母さんの意識が戻ったよ。紗也香、お母さんにアッキーの話してた。」
 僕 「そうだったのか。ゆりもお疲れ様だったね。そして紗也香は今は?」
ゆり「昼間のバイト先に私が送り届けたよ。その途中であのこと話したよ。今日紗也香のバイトが終わったら、二人で市役所に行ってくる。」
 僕 「うん、わかった。僕も幼稚園の仕事が終わったら、紗也香のお父さんに会って話をしてくるよ。」
ゆり「アッキー、本当にありがとう。」

夕方、僕は紗也香の父親がいるアパートに車を走らせた。
僕が家に着くと、紗也香の父親はお酒を飲もうと外出するところだった。そして部屋の中に入れてもらった。
 僕 「こんにちは。」
父親「どちら様ですか?」
 僕 「僕は紗也香さんの友達で、と言っても彼氏とかではないですよ。紗也香からお父さんがお金に困っていると相談を受けて、お父さんにある提案を持ってきたんです。」
父親「私がバカでした。借金の保証人になってしまうなど。闇金の取立ては紗也香にも及ぶようになってしまって。」
 僕 「それを今更責めても仕方ありませんが、紗也香さんはそのために夜のお店でも働こうとしてたんですよ。少しはご自分でも反省してください。しかも昨夜遅く奥様が急変されたのに、お父さんは酔っ払って病院に来る様子もなかったですよね。」
父親「返す言葉もありません。それで紗也香は?帰ってきた様子もなかったものですから。」
 僕 「紗也香さんは昨夜は、彼女の友達の家に泊まりました。と言ってもそこがこれからの紗也香さんの住所になります。」

その頃紗也香は、バイトが終わり、外で待つゆりの車に乗り込んだ。
ゆり「お疲れ様!ちゃんとお別れできた?」
紗也香「うん!闇金がここまで手を伸ばしたら、みんなに迷惑かけちゃうもんね!」
ゆり「そうだね。さて、帰って夕食の支度手伝って!」
紗也香「うん!ゆり、本当にありがとう。」
紗也香を乗せたゆりの車は、市役所へと向かった。

再び紗也香の父親の部屋
父親「どうして私と紗也香が別居しなきゃならないんですか!娘を返してください!!」
 僕 「娘さんにこれ以上闇金の魔の手が伸びないようにするためですよ!」
父親「じゃ、じゃあ私はこれから何を頼りに生きなきゃならないんですか。」
 僕 「自己破産しなさい。その前にお父さんも市役所に出向いて、生活保護を受けましょう。リストラや奥様の病気のこと
、娘さんの事、保証人になってしまったことなどなど、全て話せばきっと保護を受けられると思います。」
泣き崩れる父親を見て、僕は話を続ける。
 僕 「でも、それだけでは借金から逃れられません。娘さんにはそのためにこの家を出ていただいたんです。そして娘さんに聞いた限りでは、お父さんには持ち家もなく車もなく財産と言えるものがありません。ですから自己破産していただくんです。」
父親「しかし、それは具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。」
 僕 「詳しい方法は僕にもわかりません。それはお父さんが自分の足で動いていただかないと・・・。まずは明日にでも市役所に出向いて生活保護の手続きをしてください。そしてその窓口で自己破産の話をすれば、きっと弁護士さんへの無料相談の方法を紹介してくれると思います。」
父親「わかりました。せめて娘の居場所を教えていただけないでしょうか。」
 僕 「ダメです。生活保護や自己破産にはいろいろな制約があります。ご家族からお金を借りることも許されません。それにもしも紗也香さんがここに戻って一緒に住むと、紗也香さんの収入により生活保護が止められる場合が有り、そしたら彼女はまた苦労します。」
父親「そうなんですか・・・厳しいですね。」
 僕 「辛いと思います。でもこれは人が良すぎたあなたへの試練だと思ってください。大丈夫ですよ。親子たるものそう簡単に切れてしまうものではありません。もしもお父さんがこの試練に乗り越えて、再び紗也香さんと笑い合える日が来たら、僕にとってそれほど羨ましい家族はありません。闇金の方はきっと弁護士さんが力になってくれると思います。」
僕はお父さんの肩を叩き、話を続ける。
 僕 「お父さん、娘さんからお父さんの携帯番号聞いてもよろしいですか?」
ゆっくりうなづく父親
 僕 「紗也香さんのことは、これからしばらく僕と友だちが守ります。やがてお父さんのところに安心して返せる日が来るまでは。そしてお父さんのこれからの行動も僕が見守ります。ちゃんとしかるべきところに出向いてくれたかどうか。いいですか!おとうさん!絶対に誰からの借金もダメですからね!僕がしっかりと監視します(笑)」
父親は最後に僕に言った。
父親「ありがとうございます。娘のことはよろしくお願いします。そして娘に、すまなかったと伝えてください。」
 僕 「わかりました。」
僕は部屋を出て、ゆりのもとへ急いだ。そしてそこで待っていた紗也香に、すべて報告をした。

父親はその翌日、さっそく市役所で生活保護の手続きをし、予定通り『法テラス』という全国に実在する弁護士による無料相談を紹介されたそうだ。
そしてさらに後日、予約した日時に法テラスに出向き、弁護士と会って自己破産の手続きに入ったそうだ。
弁護士は父親の資産や財務状況を徹底的に調べ、自己破産に該当すると判断し、手続きを進めているそうだ。
しかし、それには裁判などが関係してくるので、すぐには決着がつかないそうだが、もう闇金は法律的にこの親子に手を出せないそうだ。

当時21歳と若かった紗也香も、今では宅配便の運転手としてバリバリ働いている。
時々僕の住所に女性の名前で荷物があると、すぐにその報告がゆりのところに行き、僕はあらぬ疑いをかけられ、ゆりの逆鱗に触れるわけだが・・・(笑)

ー2013年4月ー
桜の花が咲き乱れる街。
ここは静岡県静岡市。
気候も温暖なこの地で生きる僕・大塩彰52歳は、とある幼稚園の園長・理事長を兼任していた。
新年度が始まり、慌ただしい毎日を送っていた僕は、その日の仕事が終わり家に帰ると
仏壇に報告をして夕食の支度を始めていた。
そう、女房は1994年1月に病気で他界していたのだ。
毎日僕の帰りを待っているのは、21歳フリーターの長男と19歳の大学生の次男、2匹の犬と5匹の猫だった。
この物語は、そんな僕が歩んできた、まだ誰にも知られていない秘密を
事実を元に多少盛ったりもした、半分ノンフィクションなストーリーである。

ある日、いつものように仕事から家に帰ると、まだ息子たちは帰っておらず、夕方の犬の散歩は僕が連れて出た。
30分ほど歩いて公園のベンチで休んでいると、ある女性からLINEが届いた。
ゆりである。
彼女はまだ21歳、そう、うちの次男と同じ歳だが、当時の僕にとって一番信頼おける人である。
彼女との話は後日談として・・・、そんな彼女からのLINEの内容は・・・、『SOS』だった。
僕はすぐにゆりに電話した。

 僕 「SOSってどういう事?」
ゆり「助けて欲しい友だちがいるの。とにかく話を聞いて欲しいから、今夜会いたい。」

それは本当に突然のことだった。
僕とゆりは静岡駅で合流し、僕の車の中で話を聞いた。
その話によると、ゆりの友だちで紗也香というこれまた21歳の女の子の話だった。
紗也香は工場でアルバイトをしながら、父親との二人生活を支えている。
父親はリストラにより無職となり、母親も病院に入院中で、紗也香は母親の医療費も負担している。
さらに人が良すぎる父親は、借金の保証人となってしまい、借りた本人が夜逃げしてしまったため、
父親のところに闇金がくるようになってしまった。
紗也香はそんな父親も守りたくて、女の子としての幸せを一切捨ててしまったのだ。
当然紗也香のバイトの稼ぎだけでは、借金返済どころか生活も危うい。
紗也香は、ゆりの静止も振り切って、夜の世界にも入ってしまった。

そこは普通のキャバクラとは違い、いわゆるセクシーキャバクラと言われるお店で
キャバクラよりも過剰なサービスが求められる店だった。
ゆりの頼みは、笑顔を無くしてしまった紗也香に再び笑顔を取り戻すことだった。

そこで僕は、紗也香に会うために、紗也香が働くお店に行って指名した。
すぐに紗也香が僕の前に現れた。
そこで彼女が浮かべた笑顔は、多少演劇の勉強もかじったことのある僕には、作り笑いだってすぐにわかった。
しばらくすると、店内のBGMが突然大音量になり、紗也香は僕の膝の上に乗り、キスをしようとしてきた。
僕は自分の手で自分の口を塞ぎ、紗也香を膝から下ろした。

 僕 「実は僕はこのために今日ここへ来たわけじゃないんだ・・・。君の友だちのゆりに君を助けて欲しいと言われ、まずは君という人物を知っておきたくてここに来たんだよ。」
紗也香は僕の顔をじっと見つめていた。それはまるで僕の話がホントかウソか、僕の目で確かめるかのように。
僕は思った。この子は多分、父親の知り合いも含めて、いろんな人間に裏切られてきたんだな・・・と。
まもなくすると、紗也香には他の客からの指名が入り、別のテーブルに向かった。
僕のところにはヘルプの女の子がついた。そしてまもなく始まったサービスタイム。
僕はヘルプの女の子も膝には乗せずに、キスもしなかった。
だが紗也香は・・・見知らぬ男性の膝に乗り、キスをして、胸を揉まれていた。
そんな紗也香の姿を見ていた僕に、ヘルプの女の子が・・・
ヘルプ「ここで働く子みんな、好きであんなことしてるわけじゃないのよ」と言った。
どうやら、夜の世界で働く女性にはみんな、人に知られたくない影があるらしい。
そしてそのヘルプの女の子は、紗也香から事情を聞いていたらしい。

再び僕のテーブルに戻った紗也香に、僕は言った。
 僕 「君は今日限りでこの店を辞めるんだ。そしてしばらくお父さんと離れて暮らしたほうがいい。お父さんの方は僕に任せて!」
紗也香「借金の肩代わりでもしてくれるの?それならお断りよ!自分で何とかするわ!!」
 僕 「バカ言え!僕がそんな金持ちだと思うか?今日のこのお店の支払いでいっぱいだぜ!」
紗也香「じゃあ、どうするの?」
 僕 「闇金にケンカ売る!」
紗也香「そんなんで勝てるわけがないじゃない!」
 僕 「闇金にケンカ売るのは、僕じゃない。法律だよ!」
紗也香「あんた、弁護士かなんか?」
 僕 「さあね、あとでゆりが待ってるから、聞いてみれば??」

そして僕はラストまでそのお店にいて、紗也香をアフターに連れ出した。
紗也香はお店を辞めることを店長に告げ、外で待つ僕とゆりのところに来た。
手を握り合うゆりと紗也香。
ゆりが突然僕を睨み、疑いの眼差しで
ゆり「あんた、紗也香にサービスさせてないでしょうね!!!」
紗也香「膝に乗ったよ!!」
ゆりは再び僕を睨みつけると、僕の耳たぶをつまみ上げ
ゆり「なにやってんのよぉ!!!!!!」と怒鳴りつける
 僕 「と、突然だったんだよ!僕だって驚いたんだから!!」
紗也香「ねえ、ゆり!彼、何者??」
ゆり「幼稚園の園長先生だよ!ただし変態のね!」
 僕 「変態は余計だろ!」
ゆり「ネットの友だちから変態扱いされてたじゃん!!」
 僕 「あ、あれは・・・・」

そんな僕とゆりのやりとりを見て、笑い出す紗也香
ゆり「紗也香、やっと笑ったね」
声を出して笑い始める紗也香
ゆり「その笑顔、待ってたよ。」
紗也香「ありがとう、ゆり。そして変態園長先生(笑)」
 僕 「今夜は家まで送ろう。そしてお父さんとよく話すんだ。その話には僕とゆりも加わるよ。そして明日からしばらくゆりと暮らすんだ。闇金から身を隠したほうがいい。」
紗也香「お父さん、大丈夫かなぁ・・・」
 僕 「工場もしばらく休むといい。お父さんは僕がなんとかする。と言ってもある決断への説得だけど。」
そして、紗也香は車の後部座席に座り、ゆりも助手席に座った。
三人を乗せた車は、夜の街から姿を消していった。

 

<後編につづく>