手帳の裏表紙の内側に、半透明のポケットがついていて

本来、何を入れるためのポケットかはわからないが
最近…2週間と5日前から、そこにストックしてるものがあった。

(オバチャンかい…)

白くて四角くて薄い、小さな紙切れ。

コンビニのレシート。
だけが19枚。



青のストライプのユニフォームが
なんだか必要以上にしっくりきちゃってる、髪の毛ふわふわの
いらっしゃいませーって言う時、必ず頭を
こてんって横に傾げる
ちょっと小柄な店員さん。

(…が、俺にくれる唯一の プレゼントや)

毎日、必ずくれる白い小さなプレゼント。


前カノと別れたばっかで
しばらくは一人身で 合コン三昧にしようと
沢山いれた予定の
一個目に行く直前に立ち寄ったコンビニ。
買ったものは煙草だけ…やったのに

からあげくん いかがですか~?

語尾上げられて、
「じゃあ、それも」
って言ってしまったのが最初。

いや、最後。


遊びまくろうって思ってた気持ちに
ピリオド打った瞬間。


2日目までは
「レシートはいかがされますか?」
って聞かれたけれど、
3日目からは、何も聞かずに小首を傾げながら笑顔で、それをくれるようになった。


チョウダイ。って言わなくても
貰える、小さなプレゼント。


(…レシートやん)

プレゼントなんかじゃない
ただの小さな感熱紙。


寧ろ

お金を払って受けとるから
買ってる?

(いやちゃうな。レシート代ははろてへんし)


この小さな紙きれが
あと1枚たまったら。


あと一枚たまったら…

今日、今日も、それを貰えたら。
言うつもり。


「ありがとうございました~」


用意してきた言葉を
全部言うつもり。


「あのな。」



小さなな紙切れを広げて見せながら。
ちょっと遅れた誕生日会を 友達たちが開いてくれるって言うから

飲み会なんだっ。って言って出てきた。

誕生日、忘れてるみたいやから
誕生日会なんよって言わない。

気にしたら可哀想やもん。
忘れててごめんって言わせるの なんか寂しいねん。

覚えててもらえへんかったのは
まだあのひとの中で そんなにランキングが上位じゃないからなのかも…

そやったら、来年までにがんばるだけ。

やから言わずに出かけることにしたん。


玄関でカラフルなスニーカーの紐 しゃがんで結んでたら


「なぁ」

って後ろからねぼけた声。

「ん?」
「行く途中ここ寄ってきて

渡された、名刺サイズのちっちゃいショップカード。

それから、商品券。

「なんか買ってくんの?」
「予約してて 取り行けてへんの。ついでにとってきて」

目をこすりながらもそもそ言われて
手の中のカードのアドレスを見る。

確かに通り道。

けど
このブランド 好きやったんかな?

「名前言えばわかるから」

そう言って イッテラッシャイもなしに
背中を向ける彼に

「おやすみー」

こっちがお見送りの言葉。

休みの日に 昼前に 起こしてもうてごめんな。

カラフルなスニーカーのソールを
トントンって鳴らして外に出る。



カードに載ってるちっちゃいちっちゃい地図は
随分簡易のものだけど
知らないはずないくらい有名なお店。

入り口の門番みたいな男の人に 扉を開けてもらって
恐る恐る入ってみる。

場違いな格好で来てもうたな…
なんか居づらくて はやく終わらせたくて

近くの店員さんに
「あの 頼まれもので来たんですけどっ」

予約してて…って名前言ったら
丁寧にその場で待たされて。


3分もしないうちに出てきたのは…


真っ赤で小さな四角い箱…。


「お客様 お誕生日おめでとうございます」

って。
続けて彼の名前…


彼からです やって。

予約してたみたい…


やや…もぅ


知らん人の前で

こんな泣いてもうて…


やや…もぅ


なんでこんなこと。


誕生日の日から ソワソワしてるみたいに
感じたこと
勘違いって思い込まなくてええの?


渡された商品券で会計してくれてる間に

電話を1本。


「ごめん~。今日 あかんようになった」


走って帰る慣れた道。



左手に ちっちゃくて真っ赤な 紙袋を下げて。
ドアを開けたら
見慣れた顔に おっきな白い四角の…

「どうしたん? 風邪?」

慌てすぎて はだしのまんま玄関におりちゃうと
後ろ手にいつも通り、器用に鍵をしめながら
足、つめたいやん

って優しく、でもちょっとこもった声で言いながら
ゆっくり、ちょっと小さなコが持ち上げられるみたいに元の位置に押し戻される。


怒った口調じゃない。
白い四角のおっきなマスクで 表情は隠れてるけど、
くろぶちの眼鏡の奥の あんまりおっきくない目が
笑ったときみたいに ちょっとだけ細くなってる。

「風邪ちゃうよ。寒かったから顔の防寒」

心配してるのに そんなことをのんびり声で言うから

はぁ。って音もでない返事ひとつ。

「むっちゃあったかいねん。ちょっと眼鏡くもるけど」

ホカホカやねん。

なんて自慢気に話しながら
靴を脱ぐ彼に

ぽかって、胸にげんこつ。

「あぶないよ。眼鏡くもったら あぶないやろ?」

車やのに あぶないやないって
もいっかい ぽかって。


「うーん あぶないねんけど…
わるいことばっかりやないねん」

相変わらずのんびりした声。

ほんまに心配してるのに
ほんまのほんまに心配してるのに。

「眼鏡くもったら 光が虹いろにみえたりするから」



そんなこと…




そんなこと…


そんなこと言うから
こんなに心配しちゃうくらい好きなんやけど…


「…でも あぶないのいややから…」


ん。


わかった。


ってマスクをとってくれる。

出てきた、見慣れたやらかい表情。



みてみたいけどね
はぁってした中にできる、虹。