インドネシアビジネス界の雄 ハイルル・タンジュン | Global blog 〜世界の社窓から〜

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先月発表された米経済専門誌『フォーブス』の2014年の世界長者番付によると、世界の大富豪(資産10億ドル、約1016億円超え)1645人の中にインドネシア人は19人がランクインしました。昨年の急激なルピア安を原因に、前年の25人から19人に減少です。

以下トップ10です。

1位:ブディ・ハルトノ(ジャルムグループ創設者)$7.6billion
2位:マイケル・ハルトノ(ジャルムグループ創設者)$7.3billion
3位:ハイルル・タンジュン(CTコープ創設者)$4.0billion
4位:スリ・ブラカシュ・ロヒア(インドラマ創設者)$3.5billion
5位:ピーター・ソンダク(ラジャワリグループ創設者)$2.8billion
6位:モクタル・リアディ(リッポーグループ創設者)$2.8billion
7位:スカント・タノト(ロイヤルゴールデンイーグル創設者)$2.1billion
8位:バクティアル・カリム(ムシムマス総帥)$2.0billion
9位:テオドル・ラフマット(トリプトラグループ総帥)$1.85billion
9位:タヒル(マヤパダグループ創設者)$1.85billion

昨年2013年度版財閥ランキングについて書かせて頂いた時に、インドネシアの経済はほとんどが華人財閥が支配していると述べましたが、上記ランキングの中で唯一の土着のインドネシア人で、さらに年齢も51歳と1番若い人物がいます。


第4位、CTコープ(CT Corp)創設者のハイルル・タンジュン(Chairul Tanjung)です。

本日は、このハイルル・タンジュンにスポットを当てて記事を書きたいと思います。


彼をインドネシアに知らしめた1番の出来事は、やはり2012年のカルフールインドネシア買収ではないでしょうか。2012年11月当時、CTコープが40%出資していたカルフールインドネシアに対して、6億7300万米ドルで残り60%の株式を買い取りました。

フランスのグローバル小売企業であるカルフールを、土着のインドネシア人が買収するということで、ハイルル・タンジュンは一躍インドネシアの誇りの人となりました。


ハイルル・タンジュンは1962年、地元で小さな新聞出版社を経営する父のもと、ジャカルタで生まれました。当時、スハルト政権下でジャーナリズムの統制が厳しい時代、正しいことを伝えるという自分の意志を貫き続けた父は、新聞出版社をたたむことを余儀なくされてしまいます。しかし、そんな中でも彼の両親は質屋でありとあらゆる物を売って息子の入学資金を作り、1981年、インドネシア最高学府であるインドネシア大学へ入学することができました。

大学生時代は在学中に起業し、大学キャンパス内で衣類販売、教材のコピーなど、学生が必要なものを狙ってビジネスをしかけたり、ジャカルタ都心部で医療用品や子供靴の販売を行ったりいくつもの事業を手がけました。大学卒業後、1987年、CTコープの元となるパラグループ(Para Group)を設立し、法人化します。

そして、1995年、大きな勝負に出ます。当時借金900億ルピア(当時の価値で約37億円)で経営破綻したBank Karmanを1ルピアで買収したのです。1997年には評判の悪かった銀行名をBank Megaに名前を変えて一気に立て直し、1998年のアジア通貨危機と政権交代を迎えます。

当時、政府と関係の強かった銀行は危機的状況を迎えます。政府との関係を嫌っていたハイルル・タンジュンは、この機会を逃しませんでした。金利300%で銀行の救済をどんどん行っていきました。

2011年12月にパラグループからCTコープに組織名を変更し、金融のメガコーポレーション、TV事業のトランスコーポレーション、ニュースポータルサイトのDitik.comを運営するメディア事業、カルフールの小売事業、さらにはテーマパーク運営、天然資源事業など多角化を進め、2013年末で18企業72000人を抱える大財閥に成長しました。
2013年の売上は政府系のダナレクサ証券によると、30兆ルピア(約2550億円)にのぼると言われています。


図1

各種HP・財務諸表より著者作成



同社ホームページによると、コア事業は
PT Bank Mega Tbk ⇒ 金融事業(上図のオレンジ枠)
PT Televisi Transformasi Indonesia (Trans TV) ⇒ テレビ事業
PT Duta Visual Nusantara Tivi 7 (Trans|7) ⇒ テレビ事業
PT Mahagaya Perdana(TRANS FASHON) ⇒ ファッション小売事業

少し解説しますと、Bank Megaはインドネシアにお住まいの方ならよく見かける銀行で、インドネシア国内で343の支店を持っています。テレビ事業はインドネシアの人気テレビ局であるトランスTVとトランス7を持っています。最後に、トランスファッションでは、プラダ、ミュウミュウ、トッズ、ヒューゴ・ボスなど名だたる高級ブランド店をインドネシアで運営しています。

コア事業には入っていませんが、The Coffee Beansはインドネシアですごく有名です。



最初の方で少し触れましたが、土着のインドネシア人はプリブミと呼ばれ、「大地の子(原住民)」という意味を持ち、インドネシアの経済の80%は全人口の5%程しかいないノン・プリブミ(非原住民)のインドネシア人が握っている状況です。インドネシアでは反ノン・プリブミ感情が蔓延した悲しい時代がありますが、民族の壁を超えてインドネシアが成長することを期待しています。ハイルル・タンジュンの活躍は、それを後押しする良いロールモデルだと思います。


追記:『フォーブス』は資産の集計方法を公開していませんが、トップ10にサリム、シナール・マス、バクリーなどの大財閥が入っていないのがちょっと不思議です…。