四国の善通寺に
「大師灸」「大師艾(だいしもぐさ)」と呼ばれるものがあります。
善通寺といえば、弘法大師・空海の生誕地。

空海の著作には鍼灸が登場します。
「四大の疾は薬針の治する所、一心の患は深法能く療す」
という言葉があります。
大まかに言えば、身体の病は薬や鍼によって治し
心の患いは仏法によって治す、という意味です。
つまり約1200年前の空海の時代には
すでに鍼や灸が身体を治療する方法として
認識されていたことがうかがえます。

そして、お灸と四国の関係を考えるうえで欠かせないのが四国遍路です。
昔の遍路は、現在とは比べものにならないほど過酷な旅でした。
長い距離を歩き、山を越え、宿も十分にない。
そんな遍路を土地の人々が食事や宿などで助ける
「お接待」という文化が生まれました。
面白いのは、お接待が食べ物だけではなかったことです。
疲れた遍路に按摩をしたり、お灸を据えたりする
いわば身体のお接待もあったといいます。
反対に、鍼や灸の心得を持った遍路が
旅先で土地の人々に治療をしたり
灸法を伝えたりすることもありました。
つまり四国遍路は、信仰の道であると同時に
各地の生活の知恵や治療法が行き交う道でもあったのでしょう。
そんな背景の中で登場するのが、善通寺の大師艾です。
大正時代の資料には
「衣服の上よりすゑる不思議な灸 大師艾」
という広告が残っています。
普通のお灸というと
皮膚の上にもぐさを置いて火をつける姿を想像します。
ところが大師艾は
なんと衣服の上から据えるお灸として売られていました。
皮膚を直接焼くというよりも
燃えるもぐさの熱を利用して身体を温める
温灸に近い方法だったと考えられます。
今から100年以上前の善通寺で
こうしたお灸が商品として売られていた。
それだけでも面白い話です。
そして今回
実際に善通寺で大師艾を手にすることができました。
そこで聞いた話では、現在はこの艾を作る後継者がおらず
私たち一行が人数分購入したものが
店に残っていた最後の在庫だったそうです。
参加者それぞれが一つずつ購入したところ
それで在庫がなくなってしまった、ということでした。
今後どこかから追加の在庫が出てくるのか
あるいは再び作られることがあるのかは分かりません。
もしかすると今回手にしたものが
最後の「大師艾」の一つになるのかもしれません。
100年以上前の資料に広告として残っているお灸を
現在の善通寺で実際に手にする。
そう考えると、不思議な感じがします。
「大師」という名前がついていることも興味深いところです。
弘法大師の生誕地である善通寺。
現代では、お灸というと鍼灸院で受ける治療や
自宅で使うセルフケア用品という印象が強くなりました。
しかし昔のお灸は、もっと生活の中に近い存在だったのでしょう。
今回、四国のお灸について調べていて面白かったのは
治療技術そのもの以上に、お灸が人から人へ伝わっていった姿でした。
空海の著作に登場する鍼灸。
四国遍路の灸接待。
そして善通寺の大師灸。
一見別々の話ですが
たどっていくと一本の道につながっているように感じます。
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ヒロ鍼灸マッサージ院
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