ぼんやりの僕には、沙耶達と夏樹の間に何があったかわからない。

だけど夏樹の何かがやつらの意地悪心に火をつけた事だけはわかった。

業間の休み時間に、座ってる夏樹の頭をいきなり叩いて、四、五人で「キャー!」と逃げる。

夏樹もはじめのうちは「こらぁ」とか言って沙耶達を追いかけていた

でも足の速い夏樹が、ひとりを捕まえたとたん、やつらは急に不機嫌な顔をして、
「離してよ!ウザ!」とか言ってみんなで目配せしたりした。
そのうち夏樹は挑発にのらなくなった

業間休みは
ひとりで本を読むようになった

それでも沙耶達は面白くなかったんだと思う

意地悪心に満足はないんだ



そして

それが起こった

それは僕の脳に
何十回も蘇り、そのたび僕は
「ぎゃー」と叫びそうになり
変な汗をかいた


(続く)



5年になって、夏樹と僕は同じクラスになった。

夏樹は学校でもしっかりものの優等生だった。


一方僕はダメ度が益々アップして、
学校に行く楽しみは、山田たちとモーハンの話をする事に限定された。

教室ではお互い話しかける事もなく、夏樹はクラスの沙耶たちと楽しそうだった

たまに僕と目があっても
夏樹は無表情に目をそらした。

僕は寂しくそれを受け入れた。

沙耶たちと夏樹の関係がなんか変だと気づいたのは
ゴールデンウィーク明けだった
(続く)
夏樹のかあさんがいなくなったのは林間学校のすぐあとだった
夏樹の父さんは、長距離トラックで九州に行っていて、
リュックを背負って長野から帰ってきた夏樹を待っていたのはだれもいない部屋だった。

「なんとなく、帰ったらママはいない気がしてた」
あとで僕にそう言ったけど
夏樹が長野のお土産屋で、長い時間考えて
薄ピンクのりんごがついた髪留めを母さんに買ってたのを僕は知っていた。

それから夏樹は家の事も勉強もやらなきゃならなくなった

「なっちゃんは頑張りやさんだぁ」
窓から夏樹の姿を見るたび
僕の頑張りやの母さんは言った

もう二人で遊ぶ事はなくなった

(続く)