火曜日、仕事帰りに電車を乗り継ぎ銀座に出ました

暗い出来事が影を落としているはずの日本なのに
華やかな若い人たちが目に付きました
この街の独特の空気は健在な様でした

恵まれた人々ばかりに見えるけれど

この街に元気をもらいに来ている人々も本当はたくさんいるのでしょう
私の様に…

少し銀座通りを歩いて
雰囲気を楽しんでから
プランタンを覗き
出始めのさくらんぼを一箱と桃のフレーバーの紅茶を買いました

カウンターでふたつの買い物を一つの籠に入れてもらい、朝顔色のリボンを結んでもらいました

アサさんが、昔の様に
笑顔で受け取ってくれることを、祈るような気持ちでした

プランタンを出た時には七時をまわって
街は夜の表情をのぞかせはじめていました

地下街のパン屋さんで
ベーコンのピザ一切れと
ポテトの入ったフランスパンを買いました

夕食はこれで済ませ、
早めに寝ようと思いました

明日は休み

午前中にアサさんを訪ねるつもりでした。

(続く)
お向かいの橘さんが
月曜日の燃えるゴミの日に
収集場所に集まる人々の足を止めさせては語るところによれば

アサさんは大抵同じ服装に素足にサンダル履きで
車輪のついた
買い物バッグをカラカラと引きながら
何か拾い集めているらしいのです

「アサさんひとりぐらしだし
何かあってからじゃねぇ
あなた、何かと可愛がって貰ってたんだから
こう言うときこそ
もうちょっと
気にとめてあげなきゃ」

鬱陶しい気持ちもありましたが
ここ数か月仕事が忙しく
アサさんとゆっくり話す時間がなかったことは確かでした

ゆっくりどころか
実は挨拶すらそこそこ
というのが事実でした

私は反省の気持ちもあり
近々、アサさんを訪ねると
近所の人たちに約束したのでした。

(続く)
お隣のアサさんが
朝となく夜となく
雨となく炎天下となく
お散歩していると
近所の話題になりだしました

八十二歳のアサさんは
六十代でご主人をなくしてからひとりぐらしで
最近まで自宅で
お茶の教室をしていたしっかり者のお洒落なおばあちゃんでした

五年前の初夏に
ひとりこの家に引っ越して来たときに
アサさんはお庭の藤棚からこぼれた花の掃き掃除をしていました
麻の白いワンピースが
きれいなショートカットの白髪によく似合っていました

「お茶でもいかがですか」
アサさんは
初めての私をお茶に誘ってくれました

その時いただいた
紫色の練りきりの
上品なアヤメの和菓子とお茶を私は新鮮に覚えています

会社を経営していたご主人の話や
横浜にいる息子さんの話を聞きながら
こんなに優雅に老後を送られている方がいるのだと
私は憧れに近い気持ちを抱いたものでした

そのアサさんが
最近様子を変え始めたのでした
(続く)