『僕が愛したマイナー武将小説』
第26回 「蝮の孫」 天野純希 (幻冬舎時代小説文庫)
 
 
 
今年の大河ドラマで名を馳せた「斎藤道三」の孫、斎藤龍興が主人公の小説です。
素直にこれとかこれとかを読めばいいのに、
あまのじゃくですね(作者名にかけたわけではないですよw)。
 
 
さて、斎藤龍興はどんな人物かというと、
斎藤義龍(ドラマ中ではほとんど斎藤高政でした)の嫡男で、
「美濃の蝮」という綽名で知られる斎藤道三(ほとんど斎藤利政でした)の孫にあたります。
信長に敗れ、居城の稲葉山城を追われたため、凡庸な人物として伝わりますが、
実際には何度も信長の侵攻を退けるなど、再評価も進んでいる?ようです。
物語は、父義龍が突然大量の血を吐き、いかにも毒殺されたかの描写で、
三十五歳の若さで死んだ後から始まります。
龍興は、武芸に興味を示さず、酒色に溺れる日々を過ごします。
この辺りは後世伝えられてきた通りです。
そして、美濃に攻め寄せる織田の大軍を、計略を用いて打ち破る安藤守就と、
その婿の竹中半兵衛重治。この竹中半兵衛こそが、この小説のもう一方の主人公です
(ちょいちょい主観人物が入れ替わります)。
半兵衛は計略を使い、寡兵で稲葉山城を乗っ取ってしまいます。
この有名なエピソードは、中盤あたりに持ってくるのかと思いきや、
420ページ中、僅か50ページで使われてしまいます。
この展開の速さに、最後まで話がもつのか?と心配になりました。
 
 
ここからが面白い所です。
竹中半兵衛は黒田官兵衛と並び、豊臣秀吉の軍師として有名な人物ですが、
三国志の軍師・諸葛亮孔明をパクったような、清廉潔白な人物として伝えられてきました。
ところが今作の半兵衛は、かなり利己的でプライドの高い野心的な人物として描かれており、
最初は「これが竹中半兵衛!?」と思ったものです。
しかしよくよく考えてみれば、後世に美談として脚色されている可能性も高く、
実際には半兵衛=善、龍興=悪というイメージは誤りで、
逆だった可能性も考えられるわけです。
なかなか上手い所を突いたな、と思いました(まあ、黒い半兵衛というのも、なかなか馴染めませんでしたがw)。
 
 
龍興はある事をきっかけに、怠惰な生活を改め武芸に励むようになり、
半兵衛に一泡ふかせます(ここでも、伝承では半兵衛はすぐ稲葉山城を返還するのに、本作では返さない)。
ここでは、稲葉一鉄が登場します。大河ドラマでは非常に悪そうな稲葉一鉄でしたが、
本作では好人物に描かれます。ただし出番は少ないのが残念です。
史実通り、稲葉山城は陥落し龍興は流浪の果てに、堺で隠遁生活を送ります。
が、これもある事をきっかけに、戦場での生活に戻る羽目になります。
そこでは雑賀孫市や、後の可児才蔵が登場します。
そして、信長打倒を目指す龍興の前に立ちはだかるのが、秀吉の配下となった竹中半兵衛。
この頃には半兵衛は、酷薄な信長に疑問を持ち始めています。
越前の朝倉氏に身を寄せた龍興は、最後の戦いへと臨むこととなりますが、
ここでも意外な結末が待ち受けています。
 
 
何と言っても、竹中半兵衛の人物像に尽きます。
善キャラは鉄板だと思われる半兵衛を、ここまで改変するとは驚きました。
龍興と半兵衛のそれぞれの成長が描かれ、それがラストへと繋がるわけです。
反面、それ以外の有名人物は、やや薄味になっていたり(稲葉一鉄など)、
通説から外れていると思われる行動をしていたりするなど、
龍興と半兵衛ありきの作品といえましょうか。ですが、かなりの意欲作といえます。
通説をなぞるだけの小説ではつまらない、という人向けの作品といえるでしょう。
 
 
 
評価:4 ★★★★☆(3.8くらい)
武将マイナー度:3 ★★★☆☆(3.5くらい)