『僕が愛したマイナー武将小説』(番外編)
「孔丘」 宮城谷昌光 (文藝春秋)

 


白一色の装丁。著者のホワイトアルバムともいえる、「孔丘」。

 

 

 

早いもので今年も終わり。
半年ぶりのブログ更新です(笑)。
今回紹介する小説は「孔丘」。今年一年くらいかけて読みました。
孔丘とは、『論語』で有名な孔子の実名です。
戦国時代もマイナー武将もまったく関係ありませんが、
今年は渋沢栄一の年だったので、読んでみようかなと思い立ちました。

物語は、亡くなった母の墓に盛り土をする場面から始まります。
孔丘は中国古代の「魯」国で生まれ育ちました。
魯国は、「周」国の始祖武王の弟で、名宰相周公旦の国で、
孔丘が生きた時代は紀元前500年代、周国は傾き春秋時代(東周)と呼ばれた時代でした。
当時は「晋」、「斉」、「楚」、「呉」などの春秋五覇と呼ばれる大国に比べて、
魯はこれといった産物もない小国でしたが、周公旦譲りの文化度は比較的高かったようです。
孔丘の父は魯国の勇者として知られ、彼自身も体躯が逞しかったのですが、
母に対する扱いの酷さからくる父への憎しみの反動から、
彼は武人にはならず、学問で身を立てようと志します。

と、あらすじはこんなところです。
こうして孔丘は後に、儒家の始祖、そして聖人と呼ばれるようになるのですが、
この物語にでてくる彼は、聖人と崇められるそれではなく、実に人間臭いのです。
学問が優秀で、騎射などの武芸も実は達者という完璧超人のような設定ながら、
世渡りは下手で政治に関心が無く、当時の世界情勢は先輩の老司書に教えてもらうまで、
まったくわからない始末です。
さらには家庭を省みず、妻に離別され子供とも距離を置かれるという、
まさに昭和のお父さんのような、時代遅れな人物像です。
そのくせ自信過剰で言動と行動が一致しないという絵にかいたダメっぷりですが、
実際の孔子も後世に聖人に仕立て上げられただけで、
本当の姿はこんな感じだったのではないかなあと思います。

物語は戦いがないので、序盤はなかなか話が進みませんが、
孔丘が魯の役人の仕事を辞め、自身の教場を開いてから波乱に富んだ人生が始まります。
仲由(子路)や漆雕啓のような優れた弟子が増え、
その後は魯国の争乱に巻き込まれ、何度も流浪の旅に出ます。
陽虎という、孔丘と見た目が似ているが性格は正反対な宿敵も現れます。
そしてさらなる学びのため、周都に住む老子を訪ねるという胸が熱くなる展開も!
何度も挫けながらもあきらめず学び続ける、彼は一生学び続けたかったんだと思います。
『論語』では、孔子と子路との問答が多いようですが(孔子が正解を言う)、
話の中では、子路と漆雕啓の間での相談話が多く、
また孔丘が判断を誤りそうなときは、子路がたしなめたりするのが面白い所です。
現在は生涯学習が叫ばれる時代、この小説の中にも多くの学びが散りばめられていると思います。

評価:5 ★★★★★
武将マイナー度:無し ☆☆☆☆☆