※本記事には『ヘブンバーンズレッド』4章後編までのネタバレが含まれます。

 

 

 

2023年5月6日午前5時。

ヘブバン4章後編をクリアした。

 

もし、麻枝准の全盛期はいつだと問われれば、今が全盛期だと答えるだろう。

それほどまでにヘブバン4章後編は凄まじいものだった。

これは単にシナリオや音楽がよかったという話ではなく、総合的な演出込みのプレイ体験が素晴らしかった。


 

 

 1章と4章後編の類似性

 

オレはかねてより2章3章よりも1章のほうが好きだと言ってきた。1章を終えた実況プレイ動画のコメントでは、必ずといっていいほど「2章や3章はこんなもんじゃないぞ」的なコメントを見かけるくらい軽視されてしまっているが(2章3章もプレイしてくれというつもりでコメントしているのだと思うが)、プレイ体験を含めた1章の完成度の高さは群を抜いていると思う。以降はシナリオのボリュームが増えるものの、ダンジョン形式で行う訓練や任務も増えるのでちょっとダレてしまうのと、2章はともかく、3章はキャラクターの「死」そのものが直接切なさへと繋がってしまっている点があまり好きではなかった。

麻枝ファンとしてはキャラクターを殺して泣かせているのではなく、死んだことで巻き起こるなにかで泣かせているのだと思いたかったが、3章は蔵のイベスト含め殺して泣かせているようにしか思えなかったし、2章でキャラクターの「死」を見せた後にまた「死」を見せられるのかという気持ちになってしまった。戦争とはそういうものなので死ぬこと自体は何もおかしくない、むしろ死なないほうが不自然なのだけど、死を伴う感動が連続して来られるとちょっと……という気持ちになってしまったのが正直なところだ。

2023/5/18増刊号のファミ通掲載のコメントで、当初の予定ではセラフ部隊の秘密が明らかになっていくサスペンス展開だったが、「最上の、切なさを。」というキャッチコピーに合わせて修正したというようなことを語っていたが、それなら修正せずサスペンスに振り切ってほしかったなあと思ってしまった。少なくとも予告ムービーではそういうのを期待させる見せ方になっていたし、シナリオ的にもその名残は残っているものの、3章本編はサスペンスに振り切って、蔵のイベストで切なさを全面に出すってほうがバランス的にはよかったように思う。

 

一方、1章はキャラクターの「死」そのものが直接切なさへと繋がっていない(記憶喪失という広義の「死」ではあるかもしれない)。そもそもオレの感動ポイントは以前にも語ったように「きみの横顔」が流れるボス戦直前のアツいパートとライブで締めてエンドロールという一連の流れなのだ。

しかし、だからこそ今回の4章後編はグッときた。なぜなら、4章後編も「死」そのものが直接切なさへと繋がっておらず(これに関しては前編もそう)、ボス戦直前のアツいパートに加えライブで締めてエンドロールというまったく同じ流れだったからだ。

 

 

 導入されたザッピングシステムの意味

 

まず、4章後編で特徴的なのが、従来の茅森パートとドームで暮らすこととなっためぐみんパートがザッピングシステム的に切り替わる点だ。

リトバス等でも恭介視点や沙耶視点のパートを限定的に設けるような見せ方はしていたけれど、ヘブバン4章後編では時系列システムと組み合わさることでそれぞれの時間毎の動きがよりクリアに感じられた。

ドームではセラフ部隊の活躍が決められた時間に放映されており、めぐみんも住民たちと一緒に見るのだが、そのタイミングでシームレスに茅森パートへ切り替わるので、プレイヤーは茅森視点で茅森パートをプレイするのではなく、めぐみん視点で茅森パートを見ているかのような錯覚が生じる。つまり、ヘブバン4章後編の主人公は茅森月歌ではなく、あくまでも逢川めぐみであるとゲームシステム的にも表していたのだ。

そしてそのめぐみんパートがあまりにもよかった。自由時間で流れる宝物のようにキラキラとしたBGMやバー屋・雑貨屋で流れる謎の中毒性のあるBGMもよかったし、ドームの住民たちは奇人変人だけど温かい人たちばかりで、はじめはバー屋・雑貨屋・斡旋屋が好きだったが、障子滑りよくさせ屋・天秤水平化屋・アンテナ角度調整屋・祈祷屋などもじわじわとハマっていき、気付けばみんな大好きになっていた。

麻枝作品にはこういうちょっと頭のネジが飛んでるけどめっちゃいいヤツがよく登場するし、めぐみんパートはAIR・CLANNAD・智代アフターなどのノベルゲームの日常パートに近い雰囲気を感じた。ただ、過去作っぽい雰囲気だったからよかったというわけではない。実際、オレが麻枝作品のノベルゲームをプレイしていたときは日常パートも楽しんでいたものの、それより早くシリアスパートに入ってほしいという気持ちのほうが強かった。

しかし、今回のめぐみんパートはいつまでもこいつらと一緒にいたい、いつまでも賑やかな日常を送っていたいと強く思わされるほどこれまで以上に面白くて、リトバスの謙吾のような気持ちでプレイしていた。だからこそ、時折挿入されるめぐみんのモノローグによって、ドームでの生活はいずれ卒業すべき虚構世界のようにも映って見えた。

 

 

 DAY14のプレイングイール強すぎる問題

 

一方、茅森パートはとにかく厳しい戦闘を強いられたのが辛かった。ストーリー準拠の見た目のメンバーでプレイしているので基本初期SSの31A5人だったし、ストーリーに合わせてビャッコや他部隊のメンバーも編成していたが、無属性耐性持ちのキャンサーが強すぎるというかウザすぎて発狂しそうになった。

特にウザかったのが火属性と無属性耐性持ちのモルレッドアームズ!!こいつだけは絶対に許さない。本当にストーリー準拠のメンバーでクリアさせる気あるのかと問いたくなるいやらしさで、スーツ茅森ユッキーを所持していないので雷属性スキルの「サンダーパルス」「スパイクサージ」も使えず、「クリティカルシンキング」と「コンセントレーション」を積んだ専用スキルや氷ブレスを装備した通常攻撃を駆使して倒すしかなかった。ゴス森は所持しているが、別スタイルは見た目がストーリーに準じていないので専用スキルは使えないのだ。前に公式アンケート的なものの要望にも送ったが、通常スタイルの見た目で別スタイルが使えるようになってくれないものだろうか。

宝珠周回とストーリー攻略の負担を減らすため、限界突破の器と万能ピースを使用して事前にカレンちゃんを3凸にしておいたのに、ここまで苦戦させられるとは思わなかった。打属性弱点のキャンサーを多めに配置させるのはわかる。めぐみんがいてくれたらもっと戦闘が楽にすすめられるのにという茅森たちの心情と一致するから。でも無属性耐性はめぐみんも相性悪いし、ただただウザいだけだろう。強敵は一旦スルーしてあとで回収すべきだったと今となっては思う。

 

しかし、一番の鬼門は道中ではなくDAY14のプレイングイール戦だ。弱点も耐性もないので、DAY12ではまったく苦労しなかったのだが、DAY14では茅森部隊と白河部隊の2部隊で戦わなければならない。異次層とは違い、2連戦なので2部隊両方の戦力が問われるのだが、白河部隊はリカバーと挑発持ちの菅やんがいる程度でまともな回復役がいない。ストーリー準拠での手持ちの戦力は茅森部隊がSSカレンちゃん3凸、茅森2凸、他SS無凸、転生は茅森10回、他5回という感じで、白河部隊がSSユイナ先輩0凸、SS菅やん2凸、SSもなにゃん1凸、Sみゃーさん、Sひさめっち、SSビャッコ2凸、いずれも転生なしという感じ。回復役がいなくなるので菅やんは回復役に専念してもらい、ユイナ先輩ともなにゃんとビャッコでなんとかするつもりで装備を整えたのだが、火力が足りなかった。全回復されて無理だと悟り即時撤退。オレの手持ちだとSSひさめっちがいなくてデバフスキルを使えないのがかなり痛い。どうせジリ貧になるのならと菅やんをアタッカー仕様に装備とスキルを変更して、持ち前の神頭脳プレイ(という名の運)によりなんとか勝利を収めることができた。まだSSスタイルがまともに揃っていなかった3章緩和前ほどの絶望感ではなかったが、手持ち次第では詰みかねない難易度だと思う。オレのようにストーリー準拠でプレイしているから31A以外のガチャは引かないぜっていう人は一定数いると思うが、オレは比較的すり抜けに恵まれていた(?)からクリアできたものの、すり抜けに恵まれなかった(?)人はここでストーリー準拠プレイをやめるか緩和を待つかガチャ引きまくるかを迫られるだろう。

 

ゲームバランスはもう少し易しくしてもいいのではないかと思いつつ、プレイ体験としては31Aがセラフ部隊の主力であることをこれまで以上に感じさせられたし、他部隊と協力して攻略することで連帯感も増していたところはよかった。おタマさんと虎徹丸とのやり取りはあまりピンとこなかったが、最後の最後でハッとさせられたので、改めて読むとまた違う印象に変わりそうではある。正直なところ、おタマさんはツッコミよりボケのほうが面白いと思うけど。あと、虎徹丸がKETSUまんますぎて、KETSUのアイデンティティが失われたような複雑な気持ちにもなったが、実は虎徹丸の製作にユッキーが関わってたとか、虎徹丸を参考にKETSUを作った的なエピソードが今後控えているのなら納得かな。

 

 

 編成画面で消える警告表示

 

4章後編の個人的MVPは山脇様。部隊交流含め、31Bがなにかしようとしてるらしいってのはちょこちょこ描かれていたが、ぶんちゃん案件ではないとのこと。この時点でよく考えればわかっただろうし、気づいていたプレイヤーもいただろうが、オレは全く気づかなかった。でもだからこそ、山脇様があそこで登場した瞬間にすべてを理解して嗚咽を上げて泣いてしまった。

次点で、ドームに中型キャンサーが現れたときの普段とは全く違う真剣な声の雑貨屋。フルボイスであることが見事に生かされたシーンだった。

もちろん、クライマックスのめぐみん登場シーンはベタだけどめちゃくちゃアツい王道展開だったし、最後のめぐタマシーンも最高だったが、最も感動的でニクい演出だったのはめぐみん登場後の部隊編成画面だ。これはストーリー準拠でプレイしていた人でないと味わえない感動があり、ぽっかりと空いた1枠にずっと付いていたストーリー乖離の警告表示が消えためぐみんを編成させる。ただそれだけなのに、バックで流れる「死にゆく季節のきみへ」も相まってどうしようもなく泣けてしまうのだ。編成画面で泣かせてくるとか、それこそ「こんな涙、あったんだ。」だった。どうでもいいけど「さよならを言うためにぼくらは出会ったんだ」って歌詞はカヲル君の「僕は君に会うために生まれてきたんだね」っぽい。

ただ、めぐタマシーンで流れる通称「贅沢な感情(贅沢ver.)」はここで初めて聴きたかったという気持ちがある。うおおおお!!!アレンジ違いかよ!!!みたいな感動を楽曲配信ではなくゲームで最初に味わいたかった。実際前編で流れた贅沢じゃないver.(?)も音源として欲しいし、普通に両方を良きタイミングで配信してくれればよかったのだけど、それは贅沢だ分かってる。

 

 

 変わったこと、変わらなかったこと

 

ライブパート~エンドロールまでの流れについても触れておこう。オレが1章のライブパート~エンドロールまでの流れに感動したのはひとえに麻枝准ファンだからという一言に尽きる。麻枝准というクリエイターをずっと追ってきたからこそ、感動してしまったわけだが、4章後編のライブパート~エンドロールまでの流れに感動したのは少し違う。

4章前編の感想でも書いたけど、最後にライブで締めるこの流れは1章のリフレインだ。無論、4章は全体的に1章との対比を強く感じさせるものになっており、単なる繰り返しではない。色々なことを知り色々な経験をしてきた上で、それでもなお人類を守るため、みんなと一緒にいるための決意表明として1章と同じようにライブで締めるのだ。31Aのみんなが変わらず1章のときと同じようにそこにいる。でもそこにいる彼女たちはあのときとはひと回りもふた回りも違うのだ。そうしたことがライブを通じて伝わってきて感動せずにはいられなかった。まあ、めちゃくちゃ強いて言えば、ここまで1章をなぞってきたのであれば、「Burn My Universe」からの「Burn My Soul」と同じようにライブ曲は「死にゆく季節のきみへ」の歌詞&アレンジ違いを聴きたかった。ただ、「起死廻生」もこれまでにない新たな風を感じさせる麻枝サウンドに仕上がっていて、1章をただなぞるだけで終わらせないってことで納得できたから何も問題はない。

もう一つの感動ポイントはエンドロールで流れるドームの住民たちの数だ。個性あふれる愉快なやつらはもちろん、モブたちを含めると思っていた以上にたくさんの人がいて、その数にとにかく圧倒された。わりと序盤にこんなに人がいるのかとめぐみんが驚くシーンがあったけど、ゲームだとどうしても制約があって同時に表示できる人数には限界がある。だから目で見て圧倒されることはなかったのだけど、エンドロールで遅れて実感できた。4章前編で司令官から娯楽として楽しんでいると聞かされたときにはめぐみんと同じような気持ちにもなったし、後編で直接彼らとともに生活したことで彼らの命を守りたいとこれまためぐみんと同じような気持ちになったからこそ、エンドロールでグッとくるのだろう。

 

 

こんなものを見せられて5章以降のハードルが上がりすぎて不安になるほどだったが、最後の最後に月歌だけは自らの意思でナービィからヒト・ナービィになった的なことをめぐみんが告げる予告編のようなものが流れる。AB!で直井が催眠術で音無の記憶を思い出させるシーンを連想したけど、いよいよ月歌について掘り下げられるのかと思うと楽しみで仕方がない。序盤の伏線も回収される気配がしており、ますますヘブバンから目が離せない。しばらくはイベントが続くと思うが、5章の配信までこれまでのシナリオを読み直しながら楽しみに待ちたいと思う。