「何故か自主点検」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

20代半ばの一時期「立体駐車場の点検員」という割と珍しい仕事をしていたことがある。

 

ある日たまたま新聞の折り込み広告の中にあった求人記事に目が留まりすぐさま応募。

2日後には面接をして即採用と相成った。

 

ところであの立体駐車場。

マンションなどの場合だと地下に潜っていくタイプのものが多いが、点検する場合、適当にどこかの駐車パレットを最上部まで上昇させ(と言っても通常3段までだが)、一番下のパレットが地上まで出てきたら作業員はそこに乗り込む。

 

その上で地上待機要員が機械を操作し、今度は一番下まで降下させる。

乗り込んだパレットが一番下まで下がると作業員たちは一旦隣のパレットに移動した上で地上の人間に「今下げたパレットを上げろ」と指示。

 

乗り込んできたパレットが上がった段階で立駐の床部分に移動し、今度は作業範囲の他のパレットも一旦全て上げてもらい、一時的に内部を「空」の状態にした上でようやく作業開始となる。

作業員がそうして立駐の中で点検作業を行っている間、住人などが勝手に機械を操作してしまうと非常に危険なので、必ず地上に「操作役兼安全確認役」として1名配置するのが鉄則である。

 

内部では主にグリースガンでグリースを機械に注入したり、またチェーン部分にオイルを塗るなどしているが、屋外設置型の場合、結構に枯葉などのゴミが溜まっているのでそうしたものの掃除なども同時に行う。

 

因みに、当時働いていたその会社では「屋外設置型の立駐」に限り、内部では「小便をしてもOK」ということになっていた。

実際屋外型の立駐の場合、流れ込んできた雨水などの排水する大型の排水口が備わっており、男性作業員は皆そこで小便をしていた。

 

また中にはどうしても我慢し切れずウンコをした人間もいたようだが、しばらくすればウンコとてどっかに流れ出ていく。

割と楽しい仕事ではあったが、しかし社長以下、ほぼ全ての従業員が熱心な創価学会の信者で、休憩時間も常にその手の「書物」を読み漁り、加えて選挙が近づくと公明党の話題一色になる。

 

普段の会話も「青年部がどう」とか、「婦人部の副部長が」などと、部外者(?)は会話に入り込む余地なしという感じ。(入りたくもないが)

何だかそのままそこで働いていたら勧誘されそうで怖かったので、程なく、自分から退職を申し出た格好。

 

ただ仕事内容としては非常に楽しく、また「こうして色々な現場を周りながら機械を点検するという作業は自分に向いているのかも?」と思い、それが現在の仕事である消防設備士を志す確かなきっかけとなった

その意味でそちらの会社に対する僅かばかりの感謝の気持ちが無いワケではない。

 

ところでその「立体駐車場の点検」という仕事、実は消防設備等と異なり、点検自体に法的な義務はない。

つまり全ての立体駐車場は管理する側の自主的なものである。

 

しかし私は当時も今も、それがどうにも腑に落ちないでいる。

と言うのもあれだけ大きな機械、せめて年1回くらいは法定点検として定めても良いのではなかろうかと。

 

建築基準法上、建築設備検査員や特定建築物調査員、あるいは防火設備検査員などと並ぶ形で「昇降機検査員」というエレベーターやエスカレーターを専門に点検する資格が設けられている。

 

 

その昇降機検査員を持つ者に年1回の定期点検を行わせる、というのがやはり自然であると私は考えている。

 

そもそもその昇降機検査員、法令上、何故だか遊園地などジェットコースターの点検も同資格で行えるとなっているが、しかしエレベーターやエスカレーターとジェットコースターを同一線上で扱うのはどう考えても無理がある。

 

それに比べると立体駐車場の点検を法的なものとし、昇降機検査員に点検させる方が明らかに理にかなっていると思えてならない。

 

エレベーターやエスカレーターの詳しい構造は分からないが、しかし立駐と構造的に似通った部分は多いのではなかろうか?

少なくともジェットコースターと比べれば立駐の方が余程エレベーターやエスカレーターに近い存在ではあるだろう。

 

聞いた話ではそうした定期点検は「人間」と直接関わるものほど法的な位置付けが重く、それゆえ点検を義務付けているのだと言う。

 

つまりエレベーターやエスカレーターは「人が直接乗り込むから」、そして消防設備は「火災時の人命に関わるから」などを根拠に法的な定期点検が義務付けられているのだと。

しかし立体駐車場はあくまでも「車」を運ぶのがメインゆえ、法的な位置付けとしては少々低い、という解釈であるらしい。

 

ジェットコースターなどにも年1回の法定点検が義務付けられているが、それもやはり「ジェットコースターは人が乗るから」ということであろうか。

 

とは言え、ジェットコースターはあくまでも「遊戯具」の延長であり、世の中に「なければならない設備」とは到底言えない。

一方の立体駐車場はこの国の国土の狭さを鑑みれば相応に「必要な設備」と言える。

 

別に今更立体駐車場の点検が法的なものになろうがなるまいが、今の私には一切無関係ではある。

だが「元立駐検査員」の立場としては「あくまでも自主点検」という扱いがどうにも納得出来ずにいる。

 

もちろん「点検に昇降機検査員資格が必要」となれば日本全国の立体駐車場点検会社は困るだろうが、数年の経過措置を定め、一定の経験を持つ立体駐車場点検会社の従業員たちであれば昇降機検査員の講習が受講可能とすれば良い。

 

実際の話、マンションの立体駐車場がある日突然壊れて動かなくなったら住人はパニック状態となるだろう。

結局「人間」が困ることになるのだから年1回くらいは法定点検を義務付けても良い。

住人からの要望で立駐に落ちた猫を助ける、などの作業も点検会社の人たちはやっている。

 

 

立体駐車場は人口密度が高い首都圏を中心に多く設置されている。

がしかし、昨今は車の所有率が低下したことでマンションの立体駐車場は中々埋まらず、どこの管理組合も維持費の捻出に苦労しているのが実情。

 

何せ普通の地上にある駐車場ですら空きが多いくらいで、それゆえ立体駐車場は急速にその数を減らしているとも言われる。

つまり立駐点検会社はただでさえ減りつつある仕事を取り合っている状況である。

 

ならばせめて…

というワケでもないが「立体駐車場の法定点検制度化」、私は是非とも国土交通省に提言したい。

 

中々まともな意見でしょう?

 

 

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