「煙草と人間臭」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

私は基本的に「煙草の臭い」が好きではない。

 

確かに私自身、数年前までは喫煙者であった。

だが私の場合、一般的な紙巻タバコではなく、昔ながらのパイプ煙草、葉巻(シガリロ含む)、そして水タバコ(シーシャ)を吸っていた。

 

どれも「タバコ」ではあるが、しかしパイプ煙草や葉巻を吸っていた方ならよく分かると思うが、一般的な紙巻タバコとパイプ煙草や葉巻の香りは全く異なる。

よく「煙草くさい」といった表現をするが、あの臭いは紙巻タバコ独特なもので、言い方を変えると「紙巻タバコだからくさい」と言える。

 

普段から住人が紙巻タバコを吸う部屋の臭気と、パイプ煙草や葉巻が吸われている部屋とではその臭気にも一線を画すものがある。

端的に言って煙草の臭気は「臭い(におい)」であるのに対し、パイプ煙草や葉巻の臭気は「香り(かおり)」である。

 

「臭い」と「香り」、臭気という意味では同じであるが、しかし「臭い」とはその臭気が不快な場合に使われる表現であり「香り」は心地良い場合に使われるという違いがある。

「ウンコの臭い」とは表現しても、しかし「ウンコの香り」とは言わないのはそうした言葉の意味合いの差でもある。

 

パイプ煙草や葉巻を嗜んだ者であれば紙巻タバコの「紙の燃える臭い(味)」が如実に分かるが、恐らくはあの臭いが不快さの原因なのではないかと。

 

それを思うとやはりパイプ煙草の香りは別格で、葉の燃える際の香りに加え、木製パイプの場合は内側の木が焼ける香りがそこに混ざり何とも言えない芳香を醸し出す。

パイプ煙草の香りはいつ、どこで漂って来ても「良い香り」と感じる。

 

一方で喉にダイレクトに熱が伝わるので、どれほどの美声であれパイプ煙草を日常的に吸っているとその声は次第にかすれていく。

若い頃から度々「声が良い」と女子たち(スケども)に褒められてきた私は、その美声が失われる恐怖からパイプ煙草と縁を切った経緯がある。

 

 

それはともかくとして…

繰り返すが私は紙巻タバコの臭いが好きではない。

がしかし、本日はそんな「紙巻タバコの臭い」に少々救われた。

 

本日、私は去年からお付き合いが始まった会社の現場応援。

そして物件は関東某所の「日雇い労働者が集まる街の宿泊施設」である。

「宿泊」と書いたが、宿泊者のほぼ全てがそこに住んでおり、所謂(いわゆる)「ドヤ街」と呼ばれる地域。

 

 

これまでホテルなどの点検は散々してきた私だが、しかしこうしたドヤ街の簡易宿泊施設の点検は今まで経験が無い。

と言うか、こうした街に来たことすらも無い。

 

ドヤ街の場合、スラム街などとは異なり、取り立てて「治安が悪い」ということもないのだが、しかし街の雰囲気は見慣れないものからすればかなり異質なものである。

 

元請会社の方と2人で建物に入ると受付の初老の男性がいきなり煙草を吹かしながらのお出迎え。

もはや日本の至る場所、至る建物が喫煙禁止を掲げて久しいが、しかしドヤ街ではそんな常識など通用しない。

 

ドヤ街の住人の中には大袈裟でなく「煙草を吸うことが最大の楽しみ」という人間も少なくない。

まるで私が少年時代に見た光景がそのまま蘇ったかのよう。

 

館内の部屋は基本的に全て1人用。

各部屋に小型の冷蔵庫とガスコンロが設置されているものの、部屋自体は非常に狭く、本当に寝るだけの様な造り。

トイレは共用、洗濯機は共用かつ有料、風呂は無く1階にシャワーがあるだけ。

 

私は部屋内の感知器を見て回っていたのだが、作業には受け付けの方が立ち会う形でビシバシと扉を開けてくれるのでかなりのハイペースで進んでいく。

だが一方、大変申し訳ないがその臭いは結構強烈。

 

「人間臭」と表現すれば良いのか、何せ皆さん長期滞在者であり、また必ずしも毎日風呂にも入っていない。

狭い部屋中に「住人」のありとあらゆる臭気が沁み込み、結構な息苦しさ。

 

だが「幸い」と表現すれば良いのか、宿泊者(と言うか居住者)の3人に2人は部屋内で日常的に煙草を吸っており、そうした部屋では露骨な程に煙草の臭いが人間臭に勝ってくれる。

普段なら「不快」と感じる煙草の臭気も、しかし今日ばかりはその臭いに助けられた。

 

初めて間近で接した簡易宿泊施設。

臭いは強烈だったが、しかしそこは何処か懐かしさも感じられる異空間。

 

作業着に染み付いた煙草の臭いはしばらく取れそうにない。

 

 

 

 

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