消防設備士かく語りき

消防設備士かく語りき

川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

今日は新人女子のSと共に都内の集合住宅を3件ほど回る内容。

 

1件目は9時スタートの予定であったが、しかしオーナーさん曰く「開始は早ければ早いほど良い」とのことで8:30から作業開始。

 

そちらの物件、3階建ての小規模マンションといった造りなのだが、少々特殊で1階と3階、それぞれ別のオーナーさんが住んでおり、数部屋ある賃貸部分の半分ずつをお互いが所有している。

因みにお二人とも60代半ばの女性。

 

しかしそれ以上に凄いのは双方のオーナーさん共々、途方もなく強気である、ということ。

基本的に「全部屋点検」を絶対条件と考えている様で、点検に常時立ち会いつつインターホンを押して反応の無い部屋には容赦なく合鍵で入って行く。

 

何せ土曜の朝8:30スタートということで、住人さんの中には寝ている人も少なくないのだが、玄関口から「☆☆さ~~ん!」と声を張り上げ、住人さんが起きるまで呼び続ける。

 

恐らく一般的なマンションでそんなことをしようものならオーナー側と住人で相当に揉めると思うが、しかしそちらのマンションは「最初からそのスタイル」なので、もはや意義を唱える住人は皆無。

 

2人のオーナーさんはどちらもそのマンションの「絶対的権力者」として揺るぎない地位を築いている。

がしかしそちらの物件、ある意味でこの2人の絶対的権力者を上回る存在が。

 

それが遥か以前から住み続けている「ゴミ部屋」の住人。

同物件の点検は確か4年ほど前からウチで請けており、私もその頃に1度だけその部屋の住人と思しき姿を見たことがあるのだが、20代後半から30代前半の女性。

 

ただ2人のオーナーさん曰く「父親が家賃を払い続けている」とのことで、どうやらそれなりに「お嬢様」ではある様子。

 

2人のオーナーさんはどちらも強気ではあるが、一方でその住人の女性も中々の強者。

毎度扉には内側からチェーンロックをかけており、オーナーさんが合鍵で入ろうにも簡単には入れさせない。

 

だが「チェーンロックをかけている」ということは「部屋の中にいる」ということでもあり、なのでオーナーさんも「☆☆さ~ん! いるんでしょ!?」と散々呼び掛けはするものの、しかし一切返事は無し。

 

というわけでさすがのオーナーさんも一旦諦め他の部屋の点検を進める。

だが他の部屋を全て回り切った後、オーナーさんが「もう1度だけあの部屋を覗いてみましょう」というので合鍵で開けてみる。すると…

 

先程までかかっていたチェーンロックが外れており、どうやら住人は我々の隙をついて一旦部屋から出て行った模様。

 

しかし軽く開いた扉の隙間から見える部屋の中はまさしく「ゴミの山」。

「足の踏み場もない」などという生易しいものではなく、普段から「ゴミの上」で生活をしているものと思われる。

もはや「足の踏み場」を作ること自体容易ではない状況。

 

だがそれ以上に問題なのは扉が普通に開いた以上、点検に入らざるを得ない我々。

2人のオーナーの視線は言葉に出さずとも「では点検をお願いします」とあからさまに私に入室を促してくる。

 

わたし代表村田、消防設備士歴は既に20年。

過去、大概の「汚部屋」は経験してきたが、しかしそんなベテラン設備士の私をもってしても入室を躊躇してしまうほどの並大抵ではないその汚部屋…。

 

とりあえず絶対に靴下では入りたくないが、とは言え、いくら汚部屋とはいえ一応(ほんとに一応)人の部屋。

「では靴で」とは中々言いづらい。

 

そこでこう切り出してみた。

午後も他のマンションの点検があるので必要以上には靴下を汚せません。またこうした部屋の住人の方はそもそもご本人自身も普段から靴で生活している場合もございます」と。

 

続けて「何かの破片などが落ちている可能性もございますので、もしも「靴のまま」でも良ければ奥まで入ります」と正義の主張。

 

するとオーナーさんも「まぁ仕方ないか」という表情で「いいですよ、靴のままで」とのこと。

なので靴のまま部屋の奥まで進み、辛うじて3つほどの感知器を炙り、部屋を出て来た次第。

幸いそちらのお部屋、「生ゴミ系汚部屋」ではなく「紙ゴミ系汚部屋」だったので臭いなどは殆ど無く、また身体を汚してしまうことも無かった。

 

とは言え、あの紙ゴミの山では一旦火が点けばもはや初期消火はおろか、恐らくマンション全体を焼き尽くす「火種」となりかねない。

さすがに今回ばかりはオーナーさんも「お父さんに強く抗議する!」と語尾を強めていた。

 

それにしても… 合鍵で部屋を開け寝ている住人を起こすオーナーも凄いが、チェーンロックとゴミのバリケードで安易な入室を決して許さない住人も中々のもの。

 

毎度ドラマの様な攻防戦をこの物件は見せてくれる。