トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして/大野 耐一
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この本はトヨタ生産方式を通じて、モノづくりの生産性をいかにして高めることができるのか、
示唆に富んだ応用性の高い手法を教えてくれる本です。
【目次】
第1章 人づくり
第2章 教育の仕組み
第3章 人事・労務管理
第4章 企業の変革
第5章 非製造業への応用
導入事例
本書は昭和53年というオイルショックからほどなくして書かれた本です。当時はオイルショックにより大量生産の限界が見え、つくれば売れる時代から、市場ニーズにあわせて、細やかな対応ができるような生産方式(多種少量生産)が求められるようになりました。
本書は、トヨタ生産方式という原価を下げるために、いかに効率よく、少ない人数で(少人化)、生産性をあげるのか、その方式を戦前から模索してきた著者の理念がつまった本です。
たしか本書は勝間さんが20代の時に読んで、おおきな影響を受けた本だそうです。それも至極当然かと、なにしろ戦前から30年切磋琢磨してきた効率化のノウハウを凝縮した本です。
生産現場という厳しい状況をくぐりぬけ、結実した汗の結晶です。
まず、市場が求める車の多様性と少量生産というニーズがあって、
↓
そのニーズに対応するためには、生産ロットを小さくしなければならない
(1本の生産ラインで製造する1車種の量を減らして、複数の車種の生産を行う)
↓
当然生産ラインの作業内容は複雑になる。(工数は増える)
↓
これを減らすためにプレスの金型替えの所要時間を短くする(昭和20年代は2、3時間を要していたが、昭和40年だい後半には、わずか3分)といった時間短縮のためのムダ省きが必要になる。
↓
しかし、ただ時間短縮を目指すだけではダメで、車体組み立てに必要となる部品が、多すぎず少なすぎず必要なだけ生産ラインに届くよう生産調整が行われなければならない(10人で100個つくるのに10分かかっていた仕事が、10人で100個つくるのに5分でできるようになったら、5人で100個を10分でつくるように「省人化」する。けして10人で200個を10分でつくってはらなない。)
↓
同じように機械による生産効率も、最新鋭の機械が大量生産することは重要ではなく、可動な時間が長いことが重要である。したがって機械は古くても保全が十分できるのであれば問題ない。
↓
生産ラインがきめ細かく必要数を生産できていることが重要。あとはいかにムダを省くか。
というわけで、著者の努力はひたすらに、無駄(在庫、工員の手待ち、運搬、つくりすぎ、加工手間、不良品、工員の動作)を探し、丹念に「なぜ無駄が発生するのか」、という疑問を5回繰り返して、解決の道を探ります。
無駄を省けば、人と時間を省き、原価を抑えることができるからです。
生産管理を行う人間は、
①まず現場をつぶさに観察して歩いて、ムダを探す
②なぜムダが生まれるのか5回質問を繰り返して、改善点を探し当てる
③自分がまかされた生産ロッドで改善点を実施してみる。
④実施結果をフィードバックする
ことを繰り返してゆくわけです。
いうまでもなく、本書は生産管理の枠を超え、普遍性を持つ本です。
製造業でなくても成果品が価値を生むのは同じですから、仕組みをつくり、その仕組みを効率化するのが仕事の肝といえるのではないでしょうか。
自動車の生産現場、しかも世界最大の生産効率を誇るトヨタの仕組みは、たいへん示唆に富んでいると思います。
本書は仕組みをつくり、仕組みのムダを省く意味を教えてくれます。
また、本書の後半では、「トヨタ生産方式の系譜」として、豊田佐吉翁、豊田喜一郎の思想が語られています。豊田紡績を設立した佐吉翁。佐吉翁は独学で紡績機を発明し、その特許を欧米に売ったお金で、自動車開発の道を切り開きます。そこには佐吉翁がアメリカで見た自動車社会のインパクトがありました。
佐吉翁は息子の喜一郎に「私は織機で国のためにつくした。お前は自動車をつくって国のためにつくせ。」という言葉を残します。
佐吉翁の意思を継いだ豊田喜一郎は「ジャスト・イン・タイム」を唱えて戦後の豊田自動車の中核を担います。
興味深いのは、「トヨタ生産方式」は大量生産時代に育まれた異端的な生産方式で、著者の独創により生まれたものかと思っていたのですが、実は喜一郎⇒佐吉翁と系譜をたどることができるらしいのです。これは著者の勝手な思い込み、ではないと思います。
三代かけて育まれたトヨタ生産方式は、日本人のモノづくりに対する文化的背景から生まれているのかもしれません。この事実に感動しました。まさかビジネス本で泣けるとは思いませんでした・・・。
「壬生義士伝」を書いた浅田次郎に、この3代の物語をまとめてもらえないでしょうか(笑)。
「トヨタ生産方式の系譜」は(わたしは)涙なしには読めません。
物語的には大河ドラマでいけるような気も・・・。まあ一民間企業の歴史ですから無理でしょうが・・・。
トヨタに限らず、日本は民の歴史に疎い国だと思います。
ドイツのルール工業地帯に行くと、かつての鉄鋼・炭鉱の産業遺産がたくさん残されています。
これらの産業遺産は、ルール工業地帯で生まれた鉄鋼産業の莫大な資産を利用して設立されたEUの資金で保存活用されているといいます。
日本経済を明治から支えてきた民間企業の歴史遺産に対して、もう少し残す努力がされてもいいかと思います。わたしはトヨタ生産方式が生まれた生産工場を見てみたいと思うのですが・・・。
「フレームワーク本」の推薦図書の完読も、あと1冊を残すところとなりました。次回は「誘惑される意志」の書評です。
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この本はトヨタ生産方式を通じて、モノづくりの生産性をいかにして高めることができるのか、
示唆に富んだ応用性の高い手法を教えてくれる本です。
【目次】
第1章 人づくり
第2章 教育の仕組み
第3章 人事・労務管理
第4章 企業の変革
第5章 非製造業への応用
導入事例
本書は昭和53年というオイルショックからほどなくして書かれた本です。当時はオイルショックにより大量生産の限界が見え、つくれば売れる時代から、市場ニーズにあわせて、細やかな対応ができるような生産方式(多種少量生産)が求められるようになりました。
本書は、トヨタ生産方式という原価を下げるために、いかに効率よく、少ない人数で(少人化)、生産性をあげるのか、その方式を戦前から模索してきた著者の理念がつまった本です。
たしか本書は勝間さんが20代の時に読んで、おおきな影響を受けた本だそうです。それも至極当然かと、なにしろ戦前から30年切磋琢磨してきた効率化のノウハウを凝縮した本です。
生産現場という厳しい状況をくぐりぬけ、結実した汗の結晶です。
まず、市場が求める車の多様性と少量生産というニーズがあって、
↓
そのニーズに対応するためには、生産ロットを小さくしなければならない
(1本の生産ラインで製造する1車種の量を減らして、複数の車種の生産を行う)
↓
当然生産ラインの作業内容は複雑になる。(工数は増える)
↓
これを減らすためにプレスの金型替えの所要時間を短くする(昭和20年代は2、3時間を要していたが、昭和40年だい後半には、わずか3分)といった時間短縮のためのムダ省きが必要になる。
↓
しかし、ただ時間短縮を目指すだけではダメで、車体組み立てに必要となる部品が、多すぎず少なすぎず必要なだけ生産ラインに届くよう生産調整が行われなければならない(10人で100個つくるのに10分かかっていた仕事が、10人で100個つくるのに5分でできるようになったら、5人で100個を10分でつくるように「省人化」する。けして10人で200個を10分でつくってはらなない。)
↓
同じように機械による生産効率も、最新鋭の機械が大量生産することは重要ではなく、可動な時間が長いことが重要である。したがって機械は古くても保全が十分できるのであれば問題ない。
↓
生産ラインがきめ細かく必要数を生産できていることが重要。あとはいかにムダを省くか。
というわけで、著者の努力はひたすらに、無駄(在庫、工員の手待ち、運搬、つくりすぎ、加工手間、不良品、工員の動作)を探し、丹念に「なぜ無駄が発生するのか」、という疑問を5回繰り返して、解決の道を探ります。
無駄を省けば、人と時間を省き、原価を抑えることができるからです。
生産管理を行う人間は、
①まず現場をつぶさに観察して歩いて、ムダを探す
②なぜムダが生まれるのか5回質問を繰り返して、改善点を探し当てる
③自分がまかされた生産ロッドで改善点を実施してみる。
④実施結果をフィードバックする
ことを繰り返してゆくわけです。
いうまでもなく、本書は生産管理の枠を超え、普遍性を持つ本です。
製造業でなくても成果品が価値を生むのは同じですから、仕組みをつくり、その仕組みを効率化するのが仕事の肝といえるのではないでしょうか。
自動車の生産現場、しかも世界最大の生産効率を誇るトヨタの仕組みは、たいへん示唆に富んでいると思います。
本書は仕組みをつくり、仕組みのムダを省く意味を教えてくれます。
また、本書の後半では、「トヨタ生産方式の系譜」として、豊田佐吉翁、豊田喜一郎の思想が語られています。豊田紡績を設立した佐吉翁。佐吉翁は独学で紡績機を発明し、その特許を欧米に売ったお金で、自動車開発の道を切り開きます。そこには佐吉翁がアメリカで見た自動車社会のインパクトがありました。
佐吉翁は息子の喜一郎に「私は織機で国のためにつくした。お前は自動車をつくって国のためにつくせ。」という言葉を残します。
佐吉翁の意思を継いだ豊田喜一郎は「ジャスト・イン・タイム」を唱えて戦後の豊田自動車の中核を担います。
興味深いのは、「トヨタ生産方式」は大量生産時代に育まれた異端的な生産方式で、著者の独創により生まれたものかと思っていたのですが、実は喜一郎⇒佐吉翁と系譜をたどることができるらしいのです。これは著者の勝手な思い込み、ではないと思います。
三代かけて育まれたトヨタ生産方式は、日本人のモノづくりに対する文化的背景から生まれているのかもしれません。この事実に感動しました。まさかビジネス本で泣けるとは思いませんでした・・・。
「壬生義士伝」を書いた浅田次郎に、この3代の物語をまとめてもらえないでしょうか(笑)。
「トヨタ生産方式の系譜」は(わたしは)涙なしには読めません。
物語的には大河ドラマでいけるような気も・・・。まあ一民間企業の歴史ですから無理でしょうが・・・。
トヨタに限らず、日本は民の歴史に疎い国だと思います。
ドイツのルール工業地帯に行くと、かつての鉄鋼・炭鉱の産業遺産がたくさん残されています。
これらの産業遺産は、ルール工業地帯で生まれた鉄鋼産業の莫大な資産を利用して設立されたEUの資金で保存活用されているといいます。
日本経済を明治から支えてきた民間企業の歴史遺産に対して、もう少し残す努力がされてもいいかと思います。わたしはトヨタ生産方式が生まれた生産工場を見てみたいと思うのですが・・・。
「フレームワーク本」の推薦図書の完読も、あと1冊を残すところとなりました。次回は「誘惑される意志」の書評です。