これまで、ビジネス本に焦点を絞って書評を書いてきましたが、いよいよフレームワーク推薦図書も読破に近づいてきました。
ビジネス本を手に取ったことなどまったくなかった3ヶ月前と比べると、随分と考え方も変わってきたと思います。いずれ「フレームワーク推薦図書を完読して」というタイトルで総括したいと考えています。

フレームワーク推薦図書は、非常に多岐にわたるテーマの本が内包されていましたが、本を読む上での一貫したテーマは「いかに自分に役立てるか」という視点でした。
不思議なもので、本を読んで「何か」を取り込み、それをブログに記録してゆくと、なんだか人生を導く推進力がついてくるような、これが「インディペンデント」な感覚なのだろうか、と思ったりもしています。

「インディペンデント」であるためには、どうして見つけなければならない問題があります。それは、

「社会に対して、いかにして自分の価値を提示するか」

だと思います。社会は個人が提示する価値に対して、対価を支払うのです。わたしはフレームワーク推薦図書を読むことで、現在の仕事を離れて自分の強みを活かすべきであること、そしてそれは「翻訳(ドイツ語)」であると強く感じるようになりました。

そのようなこともあり、今後は本ブログでは往来のビジネス本書評と平行して、
①ドイツ語(英語もたまに)を書評する

②翻訳力を上げる意味で「翻訳」に関する本を書評してゆく

ことをしてゆきたいと思います。
そういうわけで、今回は②についての第1回書評となります。

ビジネス本書評ブログからは多少軸がブレてしまいますが、翻訳という専門分野に、ビジネスに通じるヒントが見つけられてゆければと思います。

今後とも本ブログをよろしくお願いいたします。

翻訳の基本―原文どおりに日本語に/宮脇 孝雄

¥1,785
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この本は英文の翻訳家が、翻訳という仕事を通じて経験した覚書をエッセイのような形でまとめた本です。

【目次】
第1章 翻訳の基本(翻訳家の基本姿勢 翻訳の原則 訳文の文体)
第2章 翻訳・要注意単語集(単語は見かけによらぬもの イギリス言葉にご用心)
第3章 訳文を改善する(訳文添削 翻訳語 英語に引きずられる)






翻訳に正解はありません。

They huddled together like old men at a wedding.
1)彼らは結婚式に出た老人のように肩を寄せあっていた。
2)彼らは結婚式に出た老人みたいに肩を寄せあっていた。
3)彼らは結婚式に出た老人よろしく肩を寄せあっていた。
4)彼らは結婚式に出た老人さながらに肩を寄せあっていた。
5)彼らは結婚式に出た老人のごとく肩を寄せあっていた。
6)彼らは結婚式に出た老人同様に肩を寄せあっていた。
7)彼らは結婚式に出た老人にも似て肩を寄せあっていた。

文脈や文調、作者の意図、さらになによりも読者に伝わる訳をつける必要があります。
本書は、そうした翻訳のセンスを例を通じて教えてくれる本です。
翻訳は他人が書いた文章を訳すわけですから、その状況状況で翻訳者は受身にならざるを得ません。

Sweets for the sweet.

という文章を見て

「甘いものには甘いものを」

と訳さずに、

「可愛いお嬢ちゃん、甘いお菓子はいかが。」

と訳す機転、あるいは

「a fifth of whisky」

を見て

「ウィスキーを五分の一呑む」

と訳さずに

「ボトル1本」

と正しく訳す知識が必要です。いずれもその状況にあわせた受身での特殊解を与えざるを得ません。
したがって本書は「翻訳の基本」と銘打ちながら、一見取りとめのないエッセイ調で、基本を伝授するという形式となります。
この本には教科書のような明快さはありません。しかし読後には翻訳する際に気を払うべき点が、徐々に見えてくるようになります。
本書は翻訳家を目指す人だけではなく、文章を書かれる方にもお薦めします。というのも日本語訳をする際には、文章の推敲を重ねる必要があり、そうした例も本書には多く紹介されているためです。

『美人の描写をするとき、絶対に使ってはいけない言葉がある、もちろん「美人」という言葉である。「彼女は美人だった」と書いたら最後、描写は堕落して、単なる説明になってしまうのだ、あとにどんな名文を続けようと、たぶん読者はしらけるだろう。
(中略)
成功した描写は「美人」「豪華」などといった直接的な言葉を使うことなく、そういった印象を的確に読者の頭に刻み付ける、そのメカニズムを知っていれば、翻訳をするときにも、きっと役に立つはずである』

このくだり、「翻訳」以外にも役立つと思いませんか?

【著 者】
宮脇孝雄(みやわき たかお、1954年2月14日 - )は日本の翻訳家、随筆家、文芸評論家。高知県生まれ。ユニカレッジ講師、専修大学非常勤講師。 早稲田大学政治経済学部卒。早大在学中より翻訳活動を始める。料理に関する随筆も多い。

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)/岡田斗司夫

¥735
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この本はダイエットの成功事例を幹として、ダイエットの社会的・経済的・健康的バリュー性について説いた本です。ダイエット手法に、数字による現状把握を取り入れており、日々記録することで客観的に改善点を把握するという意味でも、参考となる本です。

【目次】
序章 一年で五〇キロやせたよ
第1章 「見た目主義社会」の到来
第2章 ダイエット手段の格付け
第3章 助走・太る理由
第4章 離陸・カロリーを計算してみる
第5章 上昇・カロリーを制御する
第6章 巡航・いろいろやってみる
第7章 再加速・体の声を聞く
第8章 軌道到達・ダイエットの終わり
終章 月面着陸・ダイエットは究極の投資である

ダイエットを楽しもう。という趣旨で書かれたこの本。著者の方は1年でマイナス50kgのダイエットに成功しました。ちなみにダイエットの成功者は、5パーセント、そしてリバウンドを見事まぬがれてダイエット時の体重維持に成功する人は、たったの0.5パーセントだそうです・・・。
確かにダイエットの方法は数あれど、体重を減らすのは行動ですが、減らした状態を維持するのは習慣なわけで、一時的にシリアルを食べたり、水泳をしたりとがんばることはできますが、1月以上経つとどこかで緩んでリバウンド。これがダイエットビジネスを支える消費者行動だったりするようです。
著者はそんななかで、ダイエットの本質、「食べる量を管理せよ!」を説きます。食べたものと時間を記録し、カロリーを記録する。

とにかく毎日記録せよ!
(→レコーディング・ダイエット)

これは仕事の内容とスピードを記録して、自分の仕事量を把握したりすることと似てますよね。
とにかく「記録」、記録によるセルフコントロール。現代社会を生き抜く基礎習慣と言えるかもしれません。
とにかくテンポが良くてユーモアあふれる本です。ダイエットの谷間(2月ほど経つと、体重が減ってきて脂肪がいよいよ減り始める矢先、身体はエネルギー不足による脱力や無気力に悩まされる)に、真夜中のコンビニで、メロンパンを片手に涙を流したエピソードなど、ユーモアと言っていいかどうかはともかく・・・笑ってしまいます。これからレコーディング・ダイエットに挑戦できる、ある意味幸せな肥満の方に限らず、数字による自己行動の管理という点で、ビジネスマンの方一般にお薦めできる本です。

本書の冒頭では、「見た目主義社会」が到来した、という一文があります。

『ブランド主義社会は(中略)終焉しつつある。(中略)簡単に説明すると、「自分の気持ち至上主義」では、「いま・ここ」での感情がなにより優先される。(中略)だから、他人を判断するときも、学歴や家柄などという、ある意味「客観情報」よりも、主観で感じたことをなにより尊ぶ。その結果、他人を判断する基準は「その人を見てどう思ったか」という主観になった。つまり「見た目」である。』

これには頷けることが多々あります。あらためて、見た目、第一印象、身だしなみについて、明日から気を払おうと思いました。

もうひとつおもしろかったのは、著者の方がどうしても「メガマック」や「ポテトチップ」が食べたくなったらどうするか、というくだりです。

答えはメガマックを8等分して一切れを、ポテトチップは、一番形が良くてパリパリで分厚いのを選んで食べる。
そして後は捨てる。

この考え、食べたいのは「味」なのではないか、という見極めのための行動なのですが、「あるものはすべて食べる」という常識を外した水平思考といえないでしょうか?

本書は肥満解消を、さまざまな切り口から読み解いた本ですが、同時に日々記録することで、物事を客観的に捉えて、持続力につなげることができることを教えてくれるものでもあります。
この考え方は、さまざまな試みに繋げることができるのではないでしょうか。



【著者紹介】
岡田 斗司夫 (オカダ トシオ)       
1958(昭和33)年大阪生まれ。85年、アニメ・ゲーム制作会社ガイナックスを設立、92年退社。大阪芸術大学客員教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

弁護士が教える 気弱なあなたの交渉術/谷原 誠

¥1,470
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【目次】(「BOOK」データベースより)

序章 気弱なあなたのままで、交渉は突破できる
1章 あなたはどこで負けている?タイプ別負けパターン分析
2章 話ベタ・交渉ベタだからこそ、あげられる成果がある
3章 これなら勝てる!気弱な人のための逆転交渉術
4章 「NO」と言えないあなたのための「お断り」の技術
5章 弁護士直伝 交渉シナリオの作り方
6章 その場で動揺しないために 当日までに備えたいこと
7章 実践!3つのケースでわかる交渉テクニックの使い方


この本は、値段交渉や仕事条件の交渉など、ハードなやりとりが予想される交渉に際しての心構えや注意点をわかりやすく教えてくれるものです

交渉は、相手の立場を配慮してしまう「いい人」だったり、ついカッとなる人だったり、つい対立しそうになると逃げてしまう人では、なかなか相手と利害の一致を見ることができません。(もしくは一方的に損してしまう)では、どのような心構えと準備を持って、交渉に臨めばよいのか、この本はたいへん具体的なアドバイスがされています。

いうまでもなく、仕事に限らず日々の営みは「交渉」につきます。休みの日に子供の面倒をどちらが見るか、といった夫婦間の交渉から、上司や同僚との仕事内容の交渉、さらには他社との利害調整の交渉まで、いかにして双方が納得する合意に達することができるのか。すくなくとも、当方が損をしない結論に導くことができるのか。
上司を持つ方であれば、ついつい上司の言い分に「はい。」と答えて歯噛みしたことが、きっとあるはずと思います。
もしくは取引先から電話で一方的に押し込められて、しばらく立ち直れない虚無感に襲われたこともあると思います。
おそらく、こうした経験の背景には、いまだ交渉の土俵に立ってすらいない、という現実があるのではないでしょうか。この本の著者の方は、自らの経験から導いた、まずは「交渉」の土台にあがるためのノウハウを伝授してくれています。

本書が参考書籍としてあげているものに、「ハーバード流交渉術」という本があります。この良書は交渉に際して4つの原則①人と問題とを分離せよ、②立場でなく利害に焦点をあてよ、③行動について決定する前に多くの可能性を考え出せ、④結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ
を主張しています。
確かにひとつひとつが、うなづける原則です。
しかし、著者の方が現場で実践しようとすると、うまくいかない。というのも交渉に臨む人の感情がアップアップで理性に頼る交渉術が実を結ばないという結果に悩まされたそうです。

そこで本書の特徴ともいえる、交渉相手の自尊心にまで焦点をあてた、より具体的な交渉の進め方が、本書では展開されています。実際の会話を交えた交渉なので、活かしやすいノウハウといえると思います。

テンポが良いので、スラスラと最後まで読むことができます。読んだ後は、交渉に臨む元気が出るというか、希望が湧くというか、ハードな交渉の前には是非読むことをお薦めします。また、日頃対人関係で損ばかりしてしまうと感じている「いい人」のあなた!(実はわたしですが・・・)本書はとても参考になると思います。

交渉の際に、決断の期限を切ったり、他力のプレッシャー(社則や上司など)を使ったりするノウハウは早速役立つと思いましたが、なにより参考になったのは、

「クロスカウンター」でこちらの要求も通す
です。
すなわち、どうしても押しの強い要求(「今週の日曜日に、取引先とのゴルフに行ってくれないかなあ。」というムカつく上司の要求、あるいは「長い付き合いなんだから、なんかサービスしてくんない。」とムダにずうずうしい取引先の要求!)に対して、

「わかりました、やらせていただきます!」

と即答してクロスカウンターを決めるのです。(日曜ゴルフに対しては「次回は行かせていただきすので、今回はご勘弁願えませんか?代理を探してみますので。」、取引先の要求に対しては「早速、このサービスに対して見積もりをとらせていただきます。」⇒なかなか痛快なカウンター!著者の方はすばらしい切り返しのテクニックをお持ちです。)

これはたいへん参考になりました。
明日からは、わたしも矢吹丈になって、クロスカウンターを決めてゆきたいと思います。

一般に日本人は欧米人と比べて、ついつい相手の立場を慮ったり、ついつい腰が引けてしまったりすると言います。そうした意味では「気弱」な人が多い国とも言えるので、本書は見事にニーズを掴まえているのではないでしょうか。

皆さんも是非本書を読んで、「いい人」にも懐刀があることを思い知らせてください。


【著者情報】(「BOOK」データベースより)
谷原誠(タニハラマコト)
1968年愛知県生まれ。弁護士。明治大学法学部卒業。1991年司法試験に合格。現在、みらい総合法律事務所を共同で経営。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた交渉力を武器に、解決に導いている。メールマガジン「弁護士がこっそり教える絶対に負けない議論の奥義」は、2万人を超える読者をもつ。「報道ステーション」「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)等のテレビ番組での解説でも活躍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)