Tsu MU GI(2) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

ガッ、シュッツ。

少しくぐもった鈍い音が右後ろでした。小山寧々が、その音に反王するように足を止めて振り返ろうとしたその刹那、ザッシュッと音を立てて黒い物体が歩道と道路の境目に引っかかるような感じで、勢い良く横を通りすぎていった。ときどき、ガシュッ、ガッと地面と軽快に音を奏でるようにしながら。

「えっ…あっ」

横を擦り抜けていく黒い塊は、硝子片を飛び散らせながら、その硝子片が陽の光を浴びてキラキラと光の雨を降らせているような幻想的な空間の向こうへと滑るように、跳ねるように、飛ぶようにして先をいそいでいた。

行き過ぎるそれに目を奪われそうになりながらも、寧々は、振り返った。いや振り返ろうとした瞬間だった、黒い塊を追うようにザッザザッとくぐもった音を響かせながら男が滑り、ガードレールに足からぶつかるようにして止まった。

「大丈夫?」

寧々は、駆け寄り声を掛けた。とっさの出来事に自然と体が動いた。ということにしておこう。そんなことを考えながら寧々は手を差し出してみた。正直なところ、この瞬間ですら、自分の行動が信じられなかった。

触れる必要もない出来事。何かをするにしても、警察に電話くらいで充分過ぎる気がする。それなのに、空を見たまま固まっている男の視界に顔を入れ、様子を見ている。

「ええ…どうやら」と男は、差し出した寧々の手をつかむとゆっくりとした動きで立ち上がり、ヘルメットを脱いでぺこりと頭を下げた。

「ありがとう」

男は、はにかんだ笑みでそう言うと、視線を寧々から側道の処に留まっているダンプへと目を向けた。

たぶんそのダンプとぶつかったのだろう。ダンプの向きからして、右折してきたときにまっすぐ走ってきたこの男のバイクに衝突をした。というところだろう。

ダンプ脇で仏頂面で電話をかけている男も、この男の様子に気がつき、こちらに向かって駆け出し「何処見て走ってるんじゃぁ!」と大声で叫んでいた。

「離れていたほうがいいですよ…ああいう輩は、面倒なことを言い出すので」

男は肩越しにそういうと、駆け寄ってくる男の方に向かって歩き始めた。

そこで終わり。で、いいはずなのに、何故か、寧々は男の後をついて行った。


「恫喝しても事実はねじ曲げられないので、普通に話せばいかがですか?」

章也は、溜息混じりに駆け寄り、胸蔵をつかんだ男にゆっくりとした口調で伝えた。

別にどうこう言うつもりはない。どうせ保険の範囲でしか処理ができない案件だ。いや、その前に運送業界は保険に入っていないケースが多いときく。のらりくらりといって、逃げ回り、最後はドライバーの責任。ドライバーは金がないと逃げるのが関の山。と、なれば、するべきことは一つ。

警察を呼んで。保険会社に言って、処理は全部無効に任せる。ただそれだけだった。

「恫喝だぁ?」

「・・・・・・・大きな声で相手を威圧しようというのは浅はかですね」

章也は言うと一呼吸開けてから「警察は当然呼んでいるよね?」と確認をした。

少なくとも自分が現認してから五分以上は電話をしている。そのどれかが警察であることを願いたいのは自分の甘さだろうか、と思いながら、胸蔵にかけられた手の甲に手を掛けてひねってみた。

「たくっ…仕事中なんでしょう? 早く片付けていかないと時間だけが取られますよ」

章也はそういうと、携帯電話をジーンズのポケットから取り出すと警察に電話をかけながら「免許書」と男に言った。

「誰が」

「だせって言った。解るだろう、事故を起こしているんだから…それとも、反省がないみたいなので、と言われるのが好みなのか?」

男は、顔色変えて、「・・・・解った、まて」と口にしながら、ポケットから財布を取り出し運転免許書を提示した。

章也は、それをメモに移しかえると男に返し、警察の対応をしながら、自分の免許書から、免許書番号を書き出し、連絡先を書いた紙と共に男に渡した。

「名刺とかはないの? 会社の連絡先とあなたの連絡先と教えてくれないかな?」

「・・・・・・お、おう」

「事情も状況も警察に話してくれればいいですよ。どうせ、嘘を言うんでしょうから、科学的に処理をしてもらう以外は無理かもですね。俺の記憶の範囲から著しく離れている場合は、裁判にもなるだろうし、交通事故鑑定もいれるから、そのつもりでいてください」

「なっ」

「臨時雇いなら、余計に問題が山積するから、正直にきちんと処理するほうが結果として、痛手も少なく、金もかからないパターンだと思いますけどね」

「・・・・・・・・」

「事故処理の基本は威圧と恫喝だろう?」

そう言って笑う章也に男は息を呑んだ。

いつもの通りにしていた。どちらが悪いとは関係なく謝らせた者勝ちだ。謝らせれば、それで、形成は自分に優位に働く。人とはそういうものだと。いままでの経験から知っていた。が、それが通じていない。

この男は動じていないどころか、気に留めてさえもいない。それどころか静かに脅かしてきている。

自分で言うのもなんだが、自分の容姿は強面だ。ダンプに乗っていることもあって、気の荒い人間に見られるし、態度もそのはずだ。それなのに…。

「松本健太郎さんね。俺より6上ですね」

「えっ?」

メモを見るわけでもなく章也は不意に口にした。

「別に、本籍地にはご両親が健在ですか?」

「えっ?」

「兄弟でも・・・まぁ、調べれば分かることですね」