別れは突然に… 4 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

(これまでの『別突』は…)

謙也は、先輩からの電話に事態の深刻さに気付き裁判所からの封書を手にする。何が起きているのか、何をすればいいのか、解らないままに運命という坂道を転がりはじめた。


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封書の中に入っているのは一冊の書類。内容は、妻との不貞における損害賠償請求だった。

その端的するぎる内容に謙也は溜息を吐きながら、ペラペラと眺めはじめた。情報らしい情報などない。ただ、不貞を働いた事により、夫婦関係の破綻を招いた責任をとれ…ということだった。何処にでもありそうな、寝取った奴へ投げかける内容といったところだろう。

問題があるとすれば、寝取られた事に対して、自分に責任がないと思っていることだ。

お前が悪いから、こういうことになった。と誰かの所為にして自分の不徳の無さを棚上げしているだけに過ぎない。こういうヤツは、何をするにしてもこうだ。誰かの所為にして自分には非が全くないと主張する。つまらない、小さな男だ。たぶん、何を言っても始まらないだろう。だと、するならば、自分が取れることは。

謙也は、頭をガシガシと掻きながら、書類を机の上にポンと投げた。

弁護士が代理人を務めている。

だとすれば、自分も弁護士はいるのだろうか。弁護士を立てずに公判を乗り切ることはできるだろうか。いや、それ以前に、どうにかすることができるのだろうか。

色々な疑問が渦巻いてくる。

どっちにしてももう一人の当事者に連絡をして、事情を聞く他に思いつかなかった。

謙也は、携帯電話を手に取り、電話帳の中から勝村涼子を選択した。要は彼女が相手だ。

訪販の際に知り合い、簡単にいえば隙だらけで口説き落とせただけだった。

旦那は仕事を口実に帰ってこない。何かをしたところで「ごめん」の一言で「気を付けろよ」とは言われるものの怒られるわけでもなんでもない相手の適当な優しさ、事なかれ主義に対して、すこし遊びたいという言葉に載ってみただけだった。

呑みに行く。最初はそれだけだった。

旦那は「どうぞ」と送り出してくれたらしい。

特に疑う様子も無く送り出してくれた旦那のことは忘れて、謙也は手を出してみることにした。アプローチは適度な処で加減すればいい。嫌ならば最初のアプローチで文句を言われるだろう。いわゆるファーストコンタクト。それを無事に過ぎれば、次の約束をとり、見計らって喰うのも悪くない。

その程度の予定だった。

特別な思い入れも無く、ただ、人妻という甘美な香を嗅いでいただけだ。それはただの妄想でも充分だった。

他人の女、それを自分が好きにする。それだけ。

無理をすることも無い妄想の中に、現実の存在を含めるだけ。あわよくば、そんな思いを挟み込んでのプライベートな時間を楽しむことにした。

目的を忘れてはいけない。訪販だ。その為に訊く悩み、それは、ビジネスチャンスだった。そこに付け入るようなことはするつもりはないが、それを活用することはできる。

そんなつもりで出会い、そんなつもりでそういう形になった。もちろん、仕事も忘れずに。

(そう言えば、しばらく連絡してないな。忙しくて)

とるるる、とるるる、とるるる…。

『この電話はお客様の都合により、お繋ぎすることはできません』

ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ。

「えっ」

謙也は、携帯電話のモニターを確認した。確かに涼子に掛けている。番号通知もしている。一応、非通知でかけ直してみる。

とるるる、とるるる、とるるる…。

『ただいま電話に出ることができません。発信音の後にメッセージをどうぞ』

(なっ…)

謙也は慌てて電話をきった。

「くそっ…!」

バスン!と携帯電話は掛布団の上へと投げつけられた。