(これまでの『別突』は・・・)
転職を決めた謙也の元に届いたのは裁判所からの呼び出し。何が起きたのかを考えている最中にかかってきた一本の電話。それは先輩からの電話だった。謙也が去った会社で何があったのか、告げられた。
scene3
プーッ、プーッ。
携帯電話から聞こえてくるのはその機械音だけ。もう山崎の声は聞こえない。
慌ててかけなおしてみてもキャリアのアナウンスが冷たく「お客さまの都合でお繋ぎすることができません」というだけだった。
(何がどうなっているのか、知るためには)
謙也は、深いため息をつくと副業先の一つ一つに電話をかけた。
謙也が契約をしているのは6社。化粧品を3社、浄水装置1社健康食品2社だった。ソーラーパネルの営業は車で回る。おかげでサンプルが大きくても問題はなかった。それに会社も商品チェックはしても営業車の車載物のチェックまではしなかった。
いわゆる暗黙の了解というやつだった。
営業に出ている多くの社員は副業をしていた。ついでというヤツだ。そのことを解ってか、給与は抑え気味だった。もっとも営業には本給の他に実績給がつくから、もともと手取り自体は上下する状況にいるのだが。
「着信拒否…か」
何度かけても通話中の状況に謙也は溜息をついた。
何が起きたのかはわからないが、山崎が言ったことが正解なのだろう。多分、訴えた相手が何かをしたのだろう。
昨日まで同じ仕事をする仲間だと疑わなかった仲間が掌を返した。中には何年も一緒に仕事をした奴もいる。それなのに、何事もなかったように、連絡が立たれた。
(だったら)と謙也は、会社に連絡を入れる。
一方的な契約解除には応じられない。それを告げればいい。そうすれば、理由を明確にするだろう。
他に聞き出す術はないだろう。
どの会社でもいい。繋がり対応さえしてくれればそれでよかった。ただ、電話番号の通知から電話にでてくれないことも考えられる。だから、非通知で電話をしてみる。
NTTが女性の声で『番号を通知してからおかけ直しください』という。
(そんなに連絡をつけたくないのか)
事態はよほど悪いらしい。特に訪販という業界的には致命的なのだろう。正規雇用の営業はしばらくは不可能だろう。そう結論づけたいほどに深刻に思えた。
いや、もしかしたら営業妨害でどうにかできるかもしれない。そんな思いが頭をよぎった。幸いというか副業の方は有限会社での契約をしている。先々のことを考えてことを考えて有限会社にしてあった。それが起死回生の一手になるかもしれない。
謙也は、封書を取ると中に入っている調書を手にとった。