空模様…こんなひとつのラヴソング 59(幻想曲15) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「こんばんは」

あかねは、バスルームのドア越しに声をかけた。

「えっ?」

「はじめまして、かな、大槻あかねっていうの」

「あっ、菊池あゆみです」

あゆみは、シャワーを止めて返事をした。妙にドキドキとする。

「あのぅ」

「んっと、新九朗の女、という紹介で私が何故此処にいるかわかる?」

「あっ、はい」

あかねは、自分のうかつさにようやく気がついた。クロウを追いかけている間に恋人の存在を考えなかった事はない。でも、いつのまにか、その事を考えなくなっていた。関わるのは大学構内が中心、外で見るときは、離れているという事もあって、女性の存在は全く感じなかった。それが、いつの間にか、自分の中での安心に変わっていた。

最悪のシチュエーション、といったところだろう。

「大丈夫?」

「は、はい」

「とりあえず、身体が冷えないように、早く出ておいでよ」

あかねは、そういうと、バスルームをあとにした。

どんな目にあったのかはわからない。ただ、植えつけられた怖さ、汚さが強ければ強いほど、シャワーの温度が低くなる事を知っている。時間もそういうものに関係していることも。


「どんな感じ?」

「さぁ、まだ、判らないけど」

新九朗に顔を覗き込まれて、あかねは溜息交じりに言った。

「ねぇ、これかけられる?」

「ん?ああ」

あかねが差し出したビデオテープを受け取りながら、新九朗は頷いた。

「これって?」

「新九朗に見せてあげようと思って」

「???」

「不安そうね」

「そりゃね」

「何よ」

あかねは、苦笑しながら、新九朗のお腹をポンと拳で叩いてみた。

新九朗の不安は、実はわかっている。何度と無く、仕事の関係で色々な映像を手に入れられるようになった。素人撮影の映像をビデオに落としているだけのものだが、インディーズの世界から飛び出すことの無かったバンドとはいえ、多くの人の心の中に残ったものたちの映像を見ることはいい勉強になるものだった。その機会は、きっと、一部のものにしか与えられない。だからこそ、その機会をどう活用するかの判断が問われる。だからこそ、戸惑い尻込みもしたくなる気持ちが生まれるのもわかるものだった。

「でも、さ」

「……あのカーテン」

あかねは、バスルームの方を指差しながら、新九朗を見つめた。

「?」

「薄い布だけど、あの向こうから来る事が大変なのよ」

「………」

「判らないでしょ」

「ああ」