法子も佳代も困り顔で顔を見合わせた。
「それが天城の事を話していたら、入れてくれて」
「なるほど」
一真は、苦笑しながら手にしていたグラスをおき、涼子の横の席を手で示した。
「でも、ここは「あまり、ガラ的にはよろしくないぜ」
「あっ、うん、そう聞いた、外でも」
佳代は、ペロッと舌を出して言った。
「先輩!」
「どうも」
涼子は、佳代に微笑みかけながら返事をした。
「来るなら、つれてきてくれたらいいのに」
「そうね、でも、ほら、何処か抜けているから私」
「あ~~、根に持っています?」
「持ってませんよ、でも、私がここにくるって言ったら、自分では何も考えずについてくるだけでしょ?」
「………」
「誰かの所為で、恋が成り立つような事はないから、ね」
涼子は、グラスを眺めながら呟くように答えた。きっと、この言葉に込めた意味も伝わらないだろう。それはそれでいいのだけど、続ける言葉が思いつかない。、もう少し、何かを付け加えてあげたいけれど…だった。
「恋ってなんですか?」
「知らない」と、涼子は即答した。
「じゃあ、愛って」
「解らないかな」
「………」
「解らないから、知らないから、それを追いかけるのかも、ね」
涼子は、クルリと椅子を回転させ、階下のダンスフロアーを眺めながら佳代に言ってみた。
「あそこには、色々な愛の形がある、恋の形も、でも、それが何かは解らないよね、でも、きっと、みんなそうなんだよ、いつか振り返ったときに、それが、愛だったり、恋だったり、恋愛だったりするんだよ」
「難しいですね」
「簡単な恋なんて、恋じゃないかもよ」
涼子は、楽しそうに呟いてみた。本当の、答えはまだ、見つかっていない。いや、いつまでも見つからないような気がする。漠然と元太が好きで、元太を愛していて、一緒の時を紡いでいくと思う。それを恋というし、愛とも言うだともいう。恋愛をしている自信もある。でも、そこにある定義はきっと見つからない。
人がいれば、その数だけ答えが在るのだと思う。
意外と、恋愛マニュアルが流行る時代が来るかもしれない。
そこで、いくつかの答えは見つかるかもしれないけれど、それが絶対に、とは、思えないだろう。自分の恋の答えは、自分でしか見つけることができない。どこかで、妥協する部分はあるかもしれないけれど、きっと、それでは自分自身が納得できなくなるのも読めていた。
「先輩の恋は?」
一人物思いに深けている涼子に法子が尋ねてみた。
「元太」
「えっ?」
「私の恋は元太」
「……惚気ですか?」
「そうよ、愛も元太、恋愛なら」
「元太ですか?」
「そう」
「幸せ一杯で憎たらしいですぅ」
「あれ、そう?」
「はい」「はい」
「ところでさ」と、一真は、盛り上がる三人の間に声を投げ込み、「クラブは、初めて?」と尋ねた。
「ん、初めて」
法子が、一真に返事を返した。
「だろうな、で、飲み物だけど、シンデレラ、でいいかな?」
「えっ?」
「ノンアルコールカクテルだから、酔わないよ」
「あっ、うん」
法子は、クスッと笑みをこぼしながら一真を見つめた。
(恋は、愛は、恋愛は…か)