これも恋物語… 第3幕 11 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第1章 第6話


社内恋愛。何かが変わったわけではなかったが、何処か、が変わっていた。見える景色は同じでも感じられるものが変わっている。人は、何かのきっかけで、大きく変容する生き物なのだ、と実感した。

恋というものに左右されて、人が変わって行くのを何度も見てきた。友人関係が壊れる事もあった。偽りだけの友人関係をも見てきた。それが悪いとは思わない。でも、それをする気は無かった。自分は、堂々と胸を張ってこの人の恋人であると言うつもりでいた。

それが、いとも簡単に変わるものだと思った。

総合職に拘り、総合職として駆け抜けてきた。それなりに友人関係はある。たぶん、学生時代よりも濃い関係の友人も多くいるはずだ。仕事という話題において、より深い関係が築く事ができた。だから、逆に色恋沙汰から離れていった。それが、こんな形で始まると思ってもいなかった。

何処までが本気だったのだろう。気軽な気持ちだった。素直に自分の想いを伝えた。それだけだ。それが成就する事の無い恋だと知っていた。いや、予定していた。それなのに、恋が動き出した。

受け入れられる。

たった、それだけの事だった。

それだけの事で、恋は、動き出した。

自分の中で大切にして、抱き育んできた愛は、会話の中のきっかけで外に向かって動き出した。愛は、恋となり、千尋を強く突き動かした。


何度目だろうか。身体を重ね合わせるのは。千尋は、柏木に腕枕をされながら、天井を見詰めて思った。

そこは、会社が契約しているホテルの一室。緊急時に使用する為に、役員の為にリザーブされている部屋だった。それだけで、柏木に対する会社の信頼を図ることができた。会社から徒歩5分の距離。緊急時でなくても、役員や幹部社員は、このホテルを使う事が許されている。同じリザーブ料金を払うのなら、と会社側も寛容に使用を認めた結果だが、緊急時でないからこそ幹部と目される社員が自在に使えるようになっていた。

都会という街を見下ろすことのできる上層フロアの部屋は、役員が使う事を基準とされている為にそれなりの設備がされている。贅沢の隋を尽くした部屋だ。

たぶん、いままでにもこんな事があったのだろう。不意にそう思う。

男にとって、女の存在は何だろう。

女にとって、男の存在は何だろう。

出ることのない答えを探すように疑問が零れ落ちた。

怏々しく猛々しいSEX。それが終わると、柏木は、一時の眠りにつく。

仕事を離れ、二人で逢うとそれだけが繰り返されている。自分の存在の意義が知りたい。不用とされていないとはいえ、自分の存在が軽くなっていくような感覚が寂しかった。

「ねぇ…あたしの事をどう思っているの?」

「………」

眠っているはずの柏木がそれに答える事は無い。それに答えはわかっている。並べられる美辞麗句に何を感じればいいのだろうか。どの言葉も、最近では薄っぺらにしか感じられない。それだったら、「好きだ」とだけ、いい続けてくれればいいような気がする。

誰か、答えを教えて…と、叫びたい衝動に駆られた。誰に相談する事も叶わない。それが、不倫という実情の結果なのだろう。

晴れない思いの中でも、関係は続くものだ。

あれから、何度、同じ事を自答したのだろう。いまの千尋は、柏木から得る何かがなくなったような気がしていた。惹かれる何かが無い。

愛という幻想に憧れていただけの少女は何処かに息を潜めてしまった。そんな感じがしていた。

(あたしの心は…)

迷子になってしまったような気持ち。たぶん、柏木と肌を重ねあっている最中にそれを思ったのは初めてだろう。温もりが、重さに変わる。気持ちよさが、心地よさが、演技に変わった。寂しい事に、男にはそれが伝わらない。いつもと同じ、何の変化も無い、行動の中で、この男は、同じ事を繰り返す。

この人にとって、自分という存在は、本当に必要とされているものなのだろうか。

何もかもが演技だった。ただ、男を満足させるだけの演技がここにはあった。それだけだった。

いつもと変わらない外回りの風景。

お供をして会社に戻ったとき、懐かしい顔がそこにはあった。

「ご無沙汰しています…」

一真は、五洋グループ五洋電気本社で柏木と握手を交わした。

「ん、今度は、電気事業か?」

「いえ…新しいビルに使う整備について。こちらの開発中の技術を使わせてもらえないかな、と思いまして…」

「…担当は?」

「須賀事業部長です…ご挨拶も終わり、協力していただけることになりましたので…柏木さんは?」

「俺の方は、呼び出しさ……新しい商品の試作の意見だと…」

「なるほど…(!)…そちらは?」

柏木の陰に立っていた千尋をみて一真は声をかけた。

(覚えてないんだ…)

「ん…ああ、俺の派閥の…」

「いつから派閥を組むようになったんですか?」と、一真は、苦笑を漏らした。

「別に派閥を組む予定はなかったんだがな…気がついたら、下ができて派閥みたいになったからな、周りからもそういわれているみたいだし…この際だから、言ってみた…」

「羨ましい話ですね…その派閥のできかたは」

「まぁな…あっ、麻生千尋だ…よろしくな」

「よろしく、天城です…」

一真は、名刺を差し出し、ペコリと頭を下げた。

「あっ、こちらこそ……」

千尋も慌てて名刺を差し出し、頭を下げた。不思議だった。たぶん自分の事など覚えていないだろう憧れの先輩と名刺交換をする。新しい関係として。男に認めとめられる女になりたかった。求められる存在になりたかった。そう成れなくても、目指している自分を自分が認めていれば、それでよかった。

いつか、天城一真に後悔させてやる。そう思って自分を磨いてきた。はずだった。きっと、きっかけなんてのは、その程度の事なのだろう。時間が、本来の目標を変えていた。貪欲に学ぶ事に励んだのは、その始まりは、大学時代のあの日にあった。

「………麻生です」


第1話

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