これも恋物語… 第3幕 8 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第1章 第3話


(なっ、マジかよ…)

息を切らせながら一真は、千尋を追って階段を駆け上がった。直情型のタイプは嫌いではない。時間が許されるのなら何処までも付き合ってもいいとさえ思っている。が、如何せん体力が付いていかない。既に肺が痛い。喉も痛い。たぶん、心臓も唸りをあげているだろう。

「こ、来ないで…!」

千尋は、一真に気付き、咄嗟的に柵を乗り越えた。後先を考えていない行動だった。歩道橋の下を車が結構な速度で走っている事は周知の事実だった。だからこそ、その場所に歩道橋ができていた。道路を横断される事でうなぎ上りになった死亡事故に対する対応がそこにはあった。あくまでも向こう側だけに渡る為に作られた歩道橋。その柵を乗り越えて、足を滑らさずにいる確立は少なくないが、冷静に自分を見れていないやからの場合、9分9厘、足を滑らせるものだ。

「チッ!莫迦野郎………」

一真は、慌てて千尋の腕を掴んだ。どうにか、手を掴むことができた。が、その反動で、一真の身体も歩道橋から投げ出された。頼りにできるのは、縁を掴んでいる左腕だけだった。が、右利きの人間がいつまでもそれを掴んでられる訳が無い。

(ぐっ…)

左肘、左肩に痛みが走っている。一真は、溜息をつきながら、とりあえずの無事に胸を撫で下ろしていた。こういう時に限っては神様の存在を信じたくなるものだ。(ありがとう神様)と、言う気分のままで、冷静に自分の状態を確認する。

自慢にもならない状況下に自分が居ることがわかる。問題は、そこからの脱出方法なのだが、残念な事に右腕にぶら下がっている相手は、何が起きているのか判断できていないようだ。

「ど、どうして…」

足下に流れて行く車の流れに気付かないように千尋は、腕を掴む一真を見上げていった。

「あのな……ただでさえ、この歩道橋の辺りは信号が少なくて交通量が多いんだぞ…振ってきた人をよけてくれる保障なんて何処にも無いんだからな…大体、昼間じゃないし…迷惑だぞ…」

「だったら!…だったら、放したらいいじゃない」

「……(感情的になって)…そうしたいね…」

「いいわよ、遠慮せずに…放しなさいよ」

ここまで来れば、充分に売り言葉に買い言葉だった。死にたければ、一真の右手を握る自分の右手を開ければいい。どれほど一真に腕力があろうとも、相手が手を放せば、掴み続ける事は不可能とも言える。

「ああ…誤解を解いてからな…」

「誤解?騙されないから」

「……騙すも何も、君とは話した事ないだろ…サークルが一緒だからって全員が話をするわけじゃないんだぞ…」

「そんな事は知っているわよ…」

「(ホントかよ…コイツ)……まぁ、別にどうでもいい事だけどさ」

「だったらほっておいてよ」

「プレゼントをくれただけの用事じゃないだろ?」

「それは…貴方が、女たらしだって知らなかったから」

(酷い言われようだな…)

あまりにも理不尽な理論に一真は噴出しそうになった。だが、それをすれば間違いなく右腕にぶら下がっている物体は消えるだろう。

大体、何を基準に女たらしと呼んでいるのだろうか。そこが問題だった。簡単にいえば、一真は、大学4年間で恋人を作っていない。正確にはできていない。青春というものを謳歌するのに忙しすぎて、自分を縛り付ける関係は作ってこなかった。それなりの微妙な関係は、幾つか持ち合わせているが…。それを恋愛関係だとは、互いが思っていなかった。

「と、言う事は…俺の事を一応好いてくれていると……」

「……もう嫌い…嘘つき」

「……まぁ、いいけどさ……誤解だから…」

「えっ?」

「誤解だけを解いておきたいんだけど…」

「………何の誤解よ」

「君が、見て、泣いて逃出した事…」

「それは事実でしょ…」

「どんな?」

一真は、溜息をつきながら尋ねた。正直、この姿勢でいるのは疲れてきた。引き上げるにも、ぶら下がっている方が自分の腕を持ってくれないことにはどうにもならない。時折、腕のだるさに放そうかな?と思ってしまう自分もいたりする。

「あなたに妻子がいること」

「…俺は独身だし、君の言う妻子は、知り合いと言うだけ、今晩してくれる俺の『卒業パーティー』という形に乗っ取った呑み会を主催している人だ…」

「えっ…嘘、嘘ウソ」

千尋は、頭を振った。

「ぐっ…動くな」

「あっ…」

千尋は、ようやく足下に流れていく音に耳を傾けた。そして、ようやく自分の置かれている立場がわかった。

「いやぁー!」

「うるさい」

「は、離さないでください…先輩…」

「………」

返す言葉が見付からないというのはこう言う事をいうのだろう。多分に現実に引き戻されれば騒ぎたくもなる、と思いながら一真は、苦笑を漏らした。とりあえず、千尋のパニックよりも、自分達の今後の方が気にかかる。問題は、この状況下からどう脱出するかにかかっている。

5分後、一真は、由美の呼びかけで迎えに来てくれた大槻に引き上げられた。久しぶりに5分を長く感じた。みなぎの背から、流れて行く歪んだ街並みを眺めて以来だった気がする。

「ご、ごめんなさい」

「別に…いいよ」

「本当に…」

千尋は、その場から逃げるようにかけていった。

それが、一真と千尋の出会いだった。その事を、一真は、忘れていない。だが、覚えられていない方が都合のよい事も多いだろう、と返事をしただけに過ぎない。

「で、どうしたの?」

一真は、残っていたグラスのビールを一気に飲み干してから尋ねた。

「いえ…」

「あっ…」

「!」

「柏木さんと組んで仕事をしていたね…その時に何度かあったかな…」

「…覚えていてくれたんですか?」

千尋は、少し寂しげに返事を返した。


第1話

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