これも恋物語… 第3幕 7 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第1章 千尋の恋物語 第2話


一真は、苦笑しながらそのプレゼントの包装紙を外した。シックなネクタイがそこにはあった。が、千尋の連絡先は全くといっていい程に書いていない。手紙のひとつでもついてあれば、とも思うのだが、そんなに世の中都合よく回りはしない。

「元気な子ね…」

「ですね…」

後ろから掛けられた声に一真は振り返ることも無く答えた。声の主は、上沼由美。頼りになる姉貴分だった。

「告白もひとつでもあればよかったのに…」

「はは…やっぱり?」

「ん、そのネクタイは、頑張ってくださいのでしょうけど…それだけで良いのかな…」

「俺は、彼女じゃないから何ともいえないけどさ…」と、苦笑しながら、振り返り、由美の抱いている男の子を抱き上げた。

「卒業おめでとう…」

「どうも…」

「おめでと一真…ケーキ奢って…」

「未来君…祝ってくれるんじゃないのかな?」

「大槻ちゃんがケーキは買って来いって…」

「なるほどね…」

一真は、未来の頭をクシャクシャとなでてから、降ろした。

「あっ」

「えっ?」

「戻ってきたわよ…」

由美に言われ、一真が振り返ると千尋が息を切らせて戻ってきた。

「あ、あれ…」

「ん?」

「お子様がいるんですか…すみません」

千尋は、慌てて一真に背を向けてかけていった。涙を宙に舞わしながら…。

「一真…!」

「たくっ」

由美に背を押されるように怒鳴られて、一真は駆け出した。はっきりと言って足は速い方ではない。

「待てよ…」

「(そんな…子供がいたなんて…)えっ?」

千尋は、近付いてくる声に振り返った。そこには、一真がいた。少し疲れたような表情の一真が。卒業式の懇親会でそれなりに呑んでいる。走るほどのゆとりは正直なところ無かったが、相手が逃げる以上走る以外には無かった。

(嘘、どうして…あっ、あたしが泣いているから)

そういえば、一真には子供がいるという噂を聞いた事がある。サークル内では根も葉もない噂だと言いながらよく話のネタになっていた。その真実を今垣間見た。

「待てって…」

一真は、千尋の腕を掴んで立ち止まった。いや、正確には、立ち止まらせた。無理に止めるのは危険なのだが、腕力とタイミングさえあえば、相手を傷付ける事無く静止させることができる。ついでに言えば、アルコールの回り方が予想以上だったために静止させることにした。

「あっ、あのもういいんです…不倫とか苦手だし……」

(おいおい…)

ふーっ、一真は溜息をつきながら空を見上げた。どう説明すれば信じてくれるのだろうか。別に誤解されたままでも構わないのだが、そういうわけにもいかないだろう。概ね、この手のトラブルは、後日に尾鰭、背鰭がついて、ついでに肉付きまでよかったりするものだ。迷惑がかかる先が自分でない事を考えれば、ほって置く訳にもいかない。

大体、千尋は、一真を見ようともしない。

「ほっておいてください!」

千尋は、一真の手を振り解くように手を勢いよく振るとまた駆け出した。国道沿いへと泣きながら駆けて行き、歩道橋の階段を駆け上がった。

(もう、いや…)

一世一代の告白のつもりだった。告白できていないのが心残りだけど、騙され傷付いた感情の方が痛かった。信じていた。サークルのメンバー誰にも優しいリーダーを。例え、集まりの時に女性をはべらかせていたとしても、その場だけの事で噂のような事は無いと思っていた。

もちろん気になる噂はある。宿泊を伴う時に、女性と同じ部屋だった、とか。根も葉もないとはいえない噂は幾つもあった。でも、その噂の真実はいつでもわからなかった。火の無いところに煙は立たないという以上、何らかの要因はあると思っていた。

都会での当り前の事なのかもしれないと、自分の考えをごまかす事もあった。でも、ごまかしきれるものでもない。だから、自分の見るもの以外の噂は、話のネタに過ぎないと考える様にしていた。

サークルから離れれば、ただの女たらしという代名詞が付く男も、サークルの中では頼りになる男だった。噂とかけ離れてはいないが、噂されるように悪い素振りは感じられなかった。

生まれて18年。それなりに恋もした。恋人という存在には恵まれなかったが、恋をしてきた。偶々、告白する機会を得なかったが、好きになった人には悪い噂など立たなかった。だから、自分の目を信じられるようになっていた。少なくとも、自分の他人を見る目は信じていた。

が、それが根底から崩れて行く。

一方向から見たその人はすばらしい人だったのかもしれない。でも、他方向から見たその人はつまらない人物だった。どちらが正しいのか。それを計る基準は自分に有る。だから、千尋は、自分の判断基準の下で一真を計った。話した事は無い。ただ、見て知っていた。聞いて知っていた。いい噂も悪い噂も聞いて、その上で、自分の基準で一真を判断した。

そこにいるのは、自分が好きになるに値する人物だった。

だから覚悟を決めた。真剣に思い悩んだ結果の行動にでた。

いつものシミュレートとは勝手が違う。相手の前に出れば、思っていたこともいえない。考えている事の一部も伝える事ができない。怖くて、その場にいることもできなかった。

都会と呼ばれる街で、見つけた淡い恋。その恋は、心を炎のように熱く焦がす事は無かった。でも、確実にゆっくりと燃え続けてきていた。知れば知る程に好きになった先輩。それが、見えている一部分でしかなかったとようやく気付いた。

誰かが、愛は盲目と言っていた事が思い出される。だから、結婚詐欺に引っ掛かる人がでるのだろう。と、いまさらながらに思ってしまう。そんなものに引っ掛かる人には隙がある、と思ってきたけれど何の事はない。自分も盲目のまま、その人だけを見続け、陶酔してきた。

偶々、真実に触れる機会があっただけ。だから、自分は騙されないで済んだだけだった。


第1話

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