これも恋物語…第3幕 6 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第1章 千尋の恋物語 第1話

「それはそうとさ……」

梅崎は、一真にビールを注ぎながら声のトーンを落した。

「何です?」

「奥さんは、元気か?」

「…離婚したんですよ…俺…まぁ、簡単に言えば捨てられた、と」

「………すまん」

「別に…気にするほどのことでは…」

一真は、少し困ったように微笑みながら梅崎にビールを注ぎ返した。梅崎は、酔いが進むと、決まって異性関係を話題にする。話題にされる事は嫌いでは無いが、何度も同じ話をする事が問題だった。何よりも、次の時には、すっかり忘れていて同じ事を聞く。実際に一月と少し前。呑んだ時にも同じ会話をした。そして決まって、奥様との馴れ初めを話し出すのだが、一真との会話の後ではそれを続ける事ができない。

一真は、呑みはじめて90分。ゆっくりとメンバーを見渡しながら、メンバー同士の話に耳を傾けはじめていた矢先だった。会話をしない、一真を気遣っての梅崎のネタ振りのつもりだろうが、場を静まらせた。

「えーっ!」

離婚の話題に喰いついたのは麻生だけだった。梅崎を押しのけて、一真の横に座った。

「本当?」

「ん?」

「独身って本当ですか?」

「あっ?…ああ…」

「じゃあ…あたしの事を覚えています?」

「……いや」

一真は、少し間を置き答えた。インパクトの有る思い出がある相手というのは、結構忘れないものだ。一真にとって、麻生千尋は顔見知りだった。よもや同じ会社で働く事になると思ってもいなかったが。

千尋は、3つ下の大学の後輩だ。同じサークルに在籍したという事実を除けば面識というものは、それほど無い。たぶん、隣にいたとしても一真は気付く事も無かっただろう存在が千尋だった。

でも、千尋は、一真を見ていた。大学に入って目立つサークルを見つけた時から、ずっと。

告白もできないまま過ごした半年間。就職を決めた先輩達はサークルを引退していく。サークルで、大学内で一真を見なくなっても、憧れる思いは消えなかった。

周囲を取り巻く仲間達の中に、一人、常に一真の近くにいる女性がいた。彼女が恋人だと思っていた。だから、誰も告白をしなかった。でも、それが勘違いだとわかった時、千尋は、告白する決意をした。

卒業式を終え、駅に向かう道で、千尋は、一真にプレゼントを用意して一真が来るのを待っていた。

「あ、あたし…」

生まれて初めてする告白は、思いの他緊張するものだった。何をどういったのかも覚えていないくらいに、音が遠のいていく。景色までも、逃出すかのように離れていく。そんな感じがそこにはあった。

1回生の…えっと」

「千尋です…麻生千尋…」

「…どうした?」

「と、突然ですが…」

「はい…」

一真は、足を止め、クスッと笑みを零すと真っ直ぐに千尋を見据えた。千尋が何をするのかは、確立的にわかる。が、万が一の事も有るのでおちゃらけることもできなかった。

「これ、受け取ってください…」

千尋は、手にしていたプレゼントを突き出すように一真に渡すと、慌てて背を向けて逃出した。

「お、おい…」