これも恋物語… 第2幕 30 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第3章 第3話


一真は、サイドミラーに映るZXRを見た。反転して走り出したにしては早い。

チキンランは、一応、暗黙のルールの中で、仕掛けた方が、後追いをする事になっている。仕掛けられた側は、コースを決めるという優位点に立てるが、一度抜かれた段階で勝負は終わってしまう。他にも細部までルールは用意され、そのルールの下で、夜の街を騒がすもの達は生きていた。

一真は、ZZRを減速させ、ZXRの到着を待った

(今回は、勝たせてもらうぜ…)

一真の横を100kオーバーのZXRが通過する。それは、ゲームスタートの合図。一真も、アクセルを解放した。

どれだけの時間が過ぎたのだろう。

一真のバイクは、ガス欠で止まった。賢治のバイクもガス欠で止まった。

結局、賢治の背を見続けることしか一真にはできなかった。

(まだ、まだだな…)

溜息が零れる。追いつける。そう思ってバイクを走らせた。挑戦をした。その結果がこれだった。暗黙のルール。その上で負けた。それを無視したら、勝てるだろうか。いや、それ以前に、そのルールが何故生まれたのかを知る必要がある。先人達が決めてきた事には、それなりのルールが存在するのだから。

「早くなった、小僧…一真、だったか?」

「あれ?」

「みなぎは、もういない…」

「えっ?」

「みなぎは、一昨年無くなった…17だった……」

「………」

「お前は、みなぎに何を見た?」

「えっ?」

「俺には、その答えが見つからない……話しをしようにも、みなぎはいない」

「嘘だろ?」

「本当だ……」

「そんな……」

「また、迷子になるのか?」

「……えっ?……!」

「みなぎが何を考えていたのかは、みなぎに聞かなければわからない…」

「………」

「ずっとみなぎに引っ張っていてもらうつもりか?」

「………」

「答えは出ない……か…」

賢治は、溜息をつきながら一真に微笑みかけた。

みなぎがバイクに乗れなくなった時、みなぎは、賢治にひとつの頼み事をした。たぶん、後にも先もそれだけだっただろう。いつでもみなぎは、賢治たちを引っ張っていた。そんな意識をしているかどうかは別にして。

「なぁ、賢治」

「ん?」

「あの莫迦……また、喧嘩売ってくれるかな?」

「……一真だっけ?」

「ああ……」

「たぶんな…」

「その時、俺は、走ってやれないな……」

「……何言っている、今は、体調が悪いだけだろ…」

「お前こそ、俺は、副作用を躊躇って、治療が遅れたんだぜ…それに」

みなぎは、そこで口を閉ざして、窓の外を見た。多分、この景色が、終焉まで付き合う景色になるだろう。無菌ルームの窓越しの景色が。

「お前、相手をしてやってくれよ……」

「みなぎ」

「なっ、それ以上は望めない…」

「……お前ほど早くないぜ…」

「でも、お前は速いさ…風族の中で、俺にくっついてきているのはお前だけだぜ…たぶん、どんなに早い奴がいても、お前を引き離す事はできない…ただ、お前にはイマジネーションが足りないだけさ」

「イマジネーション?」

「前を走っている奴の動きを正確にトレースできる…でも、そこからの組み立てが無いから…抜けないんだよ……後は、美保に怒られるのが怖いとか…かな」

「怪我すると泣くからな……由美もそうだろ…」

「いや、由美は、もう泣かないな…」

「………」

「頼めるか?」

「ああ…小僧を引き合わせたのは俺だしな…」

賢治は、言いながら苦笑をした。みなぎの状態は知っている。次に倒れる事があれば…そう言われている。それでも、周囲の事を気にかけ続けているみなぎを凄いと感じる。残される者の苦しみは、たぶん残された時にしかわからない。

みなぎは、憂いを残した表情で笑った。

その笑みを賢治は片時も忘れない。

――そんなの卑怯だよな…」

「一真…」

「追いつけないよな……」

一真は、空を見上げて呟いた。下を見ていると涙が零れそうだった。


第1話

http://ameblo.jp/hikarinoguchi/entry-10005517680.html