これも恋物語… 第2幕 29 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第3章 第2話


風族のパレード。誰が何を言ってもそれは暴走族のモノと大差が無い。周囲の迷惑を顧みず。それを行っている。いつの間にか、伝説に憧れ、そこに集った者によって、風族は、巨大な暴走族となっていた。

(力への憧れか…)

一真は、苦笑を漏らしながら、風族のパレードコースになっている道路で純白のZZRに火を入れた。噂通りならば、風族の風は、先頭を走りぬける。勝負をするのならば、そこに飛び込めばいい。

(さて…待たせたな…安藤みなぎ)

風族の先頭車のライトを確認すると一真は、パッシングを行い、その恐竜のような塊に向けてZZRのアクセルを開放した。迫る爆音が心地よく感じられる。恐怖という名の敵だけが、そこには、存在している。全ての感覚を開放させるように、アクセルを開きながら、周囲の様子を正確に感じ取っていく。できる事は、その程度だ。ここからは、全てが自分の責任で行われる。

一瞬も気の抜けない速度という特殊な世界で、加速する群れへと向かってZZRは、爆音を上げた。


「ん?…(なんだ?)」

賢治は、勢いよく自分達に向かってくるバイクを見た。最近は逆走をしてくる奴は皆無だった。だから、意表をつかれた。と、いい訳をしたいところだが、身体が反応した。何が何かわからないが、身体の芯から込み挙げてくる熱を感じ、感じるままに相手を見据えた。

その刹那に、賢治が微笑みをこぼした事に気付けるものはいなかった。周囲の爆音が、喚起に変わる。全ての音が自分だけを応援する特殊な力へと変わった。無論、それが錯覚である事を知っている。錯覚の上で、それは事実として起きている。

「散会!」

賢治は、フルブレーキをかけながら叫んだ。その声が、風族に届くかどうかは、わからない。そんなことはどうでもいい事だった。敵がいる。明らかに、自分を睨んだ敵がそこにいて、迫ってきている。対峙するだけの理由は揃った。後は、喰うか、喰われるか、だけの判断だった。

フルブレーキと共に、左にバンクさせられるバイク。その勢いに、後輪は、無情なほどの速度で、アスファルトにゴムの焦げ付く臭いを擦りつけながら、反転するかのようにスライドした。それを当たり前のように賢治は制御する。

数十メートルは必要とされる静止距離を、わずか数メートルに留め、追撃する体勢を整えた。まるで、猫科の獣が獲物を捕らえるかのような柔軟な動きを見せながら、咆哮を感じさせんばかりのエンジン音を響かせて。

(誰だ…)

賢治は、サイドミラーに映るシルエットを、眼を凝らして見詰めた。急激に大きくなっていくシルエットが横を通過するまでの時間は、数秒だろう。その間に相手を見極める事は不可能に近いかもしれない。それでも、賢治は見詰めた。

この速度、この方向でいけば、間違いなくチキンランになる。それをできるだけの技量の持ち主かどうかは少しの癖を見れば解るものだ。何よりも、仲間達を事故に巻き込むつもりは無い。

本体到着までのわずかな時間。この数秒が、1分にも1時間にも感じられた。

風族本体も、賢治の異変に気付き、左右に分かれながら散会を始めた

数十メートルの差こそが、賢治と風族との速度の違いだった。

(ん…こいつ…は…)

何処かで見たような気がするシルエットが賢治の横を通過した。

(小僧…ようやくか…)

フルフェイスのマスクの向こう側の眼を忘れる事は無かった。もっとも、思い出す事も。ただ、あの頃よりも鋭く、冷たく、輝く瞳をしている。それが誰なのか解る。親友安藤みなぎに似た男の目だった。

賢治の背筋に冷たいものが走った。

(俺にお前の代わりができる保証は無いぜ…みなぎ)

賢治は、背中に近付くZZRのエンジン音を聞きながらアクセルを開放した。

チキンラン。それは、忘れられていた勝負の方法だった。もう、誰もその方法を使っていない気がする。それほどに周囲に与える迷惑は絶大だった。

風族のメンバーの多くは、自分達を走り屋だと思っている。暴走族との違いを挙げれば暴力行為に及ばない事だという。走る為に、速く走る為に、周囲に与える迷惑を知っている。だから、基本的に迷惑が少ない夜を選んでいる。公道を選び、できる限り迷惑が少なくなるように配慮している。が、あくまでも自己中心的に。

その走り屋の集団に飛び込めば、追従できるメンバーは追従する。

ここにも一種の下克上は存在する。

早い者が牽引役とも言うべきリーダーなのだ。


第1話

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