これも恋物語… 1-③ | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

栞の物語3

出会いは、誰にでも、何処にでもある。その先に人との繋がりがある。手が触れ合う程度の心の接触。それに気付いたのかはわからない。『貴方の事をもっと教えて』そんな思いも何処かにあったのかもしれない。ただ、純粋な気持ちがそこにはあり、その男を見つめた。彼が、自分に対して、どう思い、何を感じてくれたのかはわからない。ただ、何かが引っかかったのかもしれない。

恋心は、転がりだせばとまる事を知らないボールのようなものだ。色々な周囲の出来事に左右され、右へ左へと跳ね回る。誰かがそれを止めるのか、時がそれをとめるのか、それは辿り着いたと気にしか解らない。

気にいった客。それ以上の関係を求めるのはどうかしている。と、栞は、気持ちにブレーキをかけた。それ以上を望む事で、崩れてしまう事もある。その思いが、行動を抑制していた。それで満足かといえば、そうではなかった。ただ、それで満足していると自分を騙せば問題は無かった。

言い出せば、望み出せばきりが無い。

あたしにかまって…。

その思いは、何処までいっても変わらない。相手の行動が鈍れば、自分の存在が否定されたように感じる。だったら、虚像の付き合いでもいいようにさえ思える。相手を愛しきらない。それが大切だった。それは、一つの形に過ぎない。

その形が望んでいたものであるかは、疑問だった。それでも、栞は自分を納得させた。

相手が誰でもいいというわけではない。自分が選んだ相手が、自分を選んでくれる。それだけで満足だった。それ以上のことは望まない。相手の持つ何かを破壊する気は全く無いのだから。ただ、一緒にいる時間を愉しく過ごしたい。自分のわがままを少しだけ聞いて堪えればそれでいい、と。

『結婚…するか?』

関係を持って数ヶ月。表立って恋人とはいえなくても、大切な恋人だった彼はそう尋ねるように聞いた。まるで、栞が望んでいるのなら。と、そんな感じの唐突な一言だった。何処かで、そんな風に言われる事を待っていた気もする。でも、それがあってはならないと思っている。

引き換えにするモノは、自分がいままでに気付いてきた家庭である。それが何を引き起こすのか、離婚を経験した栞にとってはよく解っていた。リスクを負う恋も確かに存在はしている。でも、そのリスクは、考え方、行動の仕方で抑制する事が可能だった。

『冗談でしょ?』

そう、言い返すだけで精一杯だった。真直ぐに向けられた視線に、自分を偽るのは苦しい。でも、彼の左手の薬指には、指輪がはまっている。長年はめられ続けたその指は、きっとはずされる事が無いだろ。だと、すれば、考えられるのは、いや、考えていたいのは……。

不思議と自分にとって都合の良い言葉が思いつかない。

『ああ…冗談だ』

男は、そう残念そうに言葉を溢し、天井を仰ぐように空を見上げた。

本気だった。多少犠牲にするものは出てくるだろうが、それでも栞を選んだ。考えなければいけないだろう幾つもの問題を抱えながら、結論を出した。一応、すぐにでも家を出る覚悟はしている。相手が受け入れてくれれば。

『ねぇ』

『ん?』

『もう、終わりにしましょう…』

『……そうだな』

彼は、少し考えてから言った。求めているものが違いすぎる。相手の求めるものを考え、あわせる気持ちが少し足りなかったのかもしれない。

結構、つらい別れだった。笑って、笑顔で彼の背を見送った。彼の名前を、電話番号を携帯のメモリーから消し去り、しばらくその場に立ち尽くした。その夜、家に帰り着くと真奈美がコーヒーを入れてくれた。いつもと何処かが違ったのだろう。手渡すのではなく、テーブルに置かれたコーヒー。真奈美は対するように座り、何も言わずに、自分のために入れた紅茶を飲んだ。黙って、栞がコーヒーを飲むのを見ている。少し優しげに微笑みながら。


第1話

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