これも恋物語…1-② | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

栞の物語2



「何?」

真奈美は、困ったように立ち上がって言った。この後に返って来る答えはなんとなく解っている。解っていて聞く自分がいて、つい「またやった…」と後悔する。それでも、自分達を育てるために働き続けている母を無碍にする気は無い。ネコを抱き上げながら、真奈美は、苦笑いをして、栞を見た。

「立てない…」

「ママ…」

少し呆れたように言う。

「冗談よ…」

栞は、フラフラと自室に向かい、スーツを脱ぎ始めた。別に酔っている訳ではない。ただ、勉強、勉強と関わりが減ってきている真奈美との関わりを求めていただけだった。真奈美は、中学に入る頃から料理をするようになった。小学生の頃の手伝いから、自分で料理をするようになった。炊事洗濯、少しずつやってくれる事が増えてきた。自分でできる事が増えれば、栞のやる事は減っていた。最初は、助かるな…と、思っていたお手伝いも、本格的になればなるほど、寂しい思いに変わっていった。

栞は、服をハンガーに掛けると、風呂に入った。

最近、恋をしていない。正確には、恋を終わらせた。

人は、好きだ。嫌いなタイプもいるが、概ね人の事は好きだ。関わりを持つ機会があるのならそれはそれでいいと思っている。特別に深い関係になるつもりは無いけれど、人との出会いは大事にしているし、大切にしているつもりだった。

そんな出会いの一つは、何処にでもある話だった。店の女が、客と知り合い、意気投合をする。数は、少なくともありがちな話だ。特別な関係になるのは、それなりの時間が必要だが…。

普通の恋愛と違ったのは、相手に妻がいることだった。その事を特別に気にするつもりは無い。相手に迷惑をかけない程度に、時間を少しわけて貰うだけのつもりだった。相手の生活に口に挟む気も無ければ、相手に自分の生活に踏み込んで欲しくなかった。だから、何処かで線を引いて交際をしてきた。

踏みこめるギリギリのライン。それを見計らって、その人と付き合ってきた。

「結婚」。その言葉がタブーである事はなんとなくわかる。

好きなのに、その思いを口にする事ができない。その言葉が相手に重くのしかかったら、それで、自分という存在が負担になったら、そう思えば思うほどに何もいえなかった。それを、「大人の恋」、そう呼ぶのなら、それでよかった。

客とスタッフ。その関係を崩すのは、互いの想いだ。絶妙ともいうべきバランスの中でしか、その関係は成り立たない。どちらかが、踏み込めば踏み込むほど、その関係が崩れる。相手が踏み込んでくる分。自分も踏み込む事ができなければ…。相手が引いた分だけ、自分が引く事ができなければ、その関係は簡単に崩れてしまう。

不倫。その関係をそう呼ぶ事もある。道徳という考え方の中で、それは、外れた恋だった。でも、それも確かに存在する一つの形にすぎない。その上で、自分の気持ちを確かめる。踏み込んではいけない一線を互いに越えたことで、その関係は成り立った。

小娘だった頃のような、淡い思いが心に宿る。その思いを止めることはできない。ただ、思いとどませるだけだった。

第1話

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