優しさって何だろう。
リビングの椅子に座って空を見つめながら健太は思った。
人って、結構いい加減なものだ。自分の置かれている立場によって言う事がすぐに変わる。ご都合主義という奴だろう。そんないい加減な自分は嫌いではない。少なくとも、他人の事を考えて生きています。というやつらよりも素直な自分が好きだった。誰もが、自分が一番大切だ。大切なはずだ……。
ただ、立場によって考え方が変わる。
それだけだ。
昨日までの健太は、自分だけだった。
一晩眠ったくらいでは何も変わらない。だが、生活が一変する状況に追い込まれれば変われるものだ。たぶん…。大切なのは、何だろう。
「おまたせ…健太…」
「ん?」
「はい…ちょっと失敗しちゃった…」
「そっか…」
健太は、少しこげた匂いが花につくトーストを見つめながら麻奈に笑いかけた。
「お口に合うと良いけど…」
「ありがと…」
健太は、麻奈の皿と自分の皿を替えた。気を使って、麻奈は、焦げたトーストを自分の皿に乗せていた。焦げが判らないようにトーストサイズに焼いた薄焼き卵を載せて。それだけで、麻奈の料理の腕前がわかる。少なくとも健太よりは上らしい。
「駄目…」
「こっちの方がおいしそうだ…替えて」
「でも…」
「いいだろ…」
「……う、うん」
強引な健太に仕方なく麻奈は頷いた。家という小さな世界の独裁者、そんなところかもしれない。いや、どちらかといえば侵略者だろう。麻奈は、何処まで健太を認めているのだろう。
少なくとも俺なら…健太は苦笑した。
麻奈は、誰かに頼らなければいけないというわけではない。
法という括りの元で誰かの庇護の下にいなければいけない。だから、大人に媚びなければいけないのかもしれない。いや、そんな気持ちも無いのだろう。生きる、普通の能力としてそれを行っているはずだ。それをただしいとは言い切れない。無論、大人の感覚から見てだ。
(あっ……寂しいよな)
健太は、椅子からおり、床に膝をついて麻奈を見た。
「?」
「なぁ、麻奈…」
「ん?」
「俺は、ここにいても良いのかな?」
「?」
「ここは、麻奈の家だ…俺は、間違いなく麻奈の父親だ…」
「うん」
「でも、俺達は、そんな事を意識していない…急に父親を…」
「わかんない…でも、健太は、パパだよ…」
「………」
「ママがそう言っていたもの…」
「うん…」
「………」
「慌てなくても良いんだよ…麻奈が麻奈のままでいられることが大切なんだ…これから、色々なkとが起きる、その時々に、麻奈の、その双眸で見て、考えて判断して、行動することが一杯出てくると思う、その時、その瞬間で良いから、麻奈は後悔する必要の無い答えを出さなければいけない…明日、ひょうとしたら決断した5分後には正解とも言える答えがみつかるかもしれない…」
「?」
「真直ぐ見つめて……」
「うん」
これから、何が出来るんだろう。健太は、真直ぐに向けられた視線を見据えながらかんがえた。
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