錬は、美弥を抱きしめて身体を引いた。
(えっ?)
プッシュ。
(えっ、うそ…)
「ああ~」
「錬君…」
「まぁ、仕方ないよね…最終だし…」
「もう…」
ドアの窓から見えていた景色が流れ始めた。ゆっくりから速度の中へ。流れるネオンが光の海を作りだしていく。そんな感じがそこにあった。
「もう…」
「ごめん…」
「ごめんじゃないよ…」
美弥は苦笑しながら、錬の唇に唇を重ねた。さっきのような、錬のした不意打ちではない。相手を感じるための、相手と交わるためのKissを求めて。
(ん…好きよ・・・錬、でも…)
美弥には、夫子がいる。その家庭を壊すつもりは無い。それなりに愉しくしているのだから。きっと、その生活に不満は無い。夫には、文句はあるが、それをどうすることも出来ない不満にするつもりは無い。子供も日に日に悪戯を増やされて勘定的になって怒る以外は、特に問題も無い。
好きだけでは、全てを解決する事はできない。
「どうするの?」
「車掌に言って、名古屋で折り返すか…それとも、大阪まで行くか…」
「車掌に?」
「……最後は、俺も東京に戻って、素直に言ってぶんなぎられるか?だろう」
「うん・・愉しまなくちゃ」